表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カミーユとロザリーの話  作者: 十月猫熊
第2章 カミーユのお話
55/101

30陛下からの特別任務


領地から戻ってくると、今度は陛下からの呼び出しがあるようになった。


「えー!またカミーユだけ?ひとりで美味しいもの食べてくるなんてずるい!」


「魔術師としてじゃなくて、ハーレ伯として呼ばれてるんだから仕方ないんだよ。気にしないで行っておいで」


先輩は気にするな、というけど、呼び出しが職場に来るってどういうことだ、と冷や汗がでる。


陛下の御前に出るために、着替えに戻ろうかと思ったけど、それより急げ、という王宮からの使者に追い立てられて、王宮に連れてこられた。


陛下の寝室にまで足を踏み入れたことは、記憶に新しい。


でも今回はちゃんと陛下との簡易な謁見用の部屋に通され、かなりくだけた服装だったのでびくびくしながら陛下と対面すると、いきなり「ハーレ伯に頼みがある」と言われて、青くなった。


領主としては半人前もいいところで、その領主の自覚も先日芽生えたばかり。

代行領主の息子の方が僕よりよほど領主の器のように思えた。


「できる範囲内のことであれば…」


頭を下げたまま、大したことは出来ませんが、と冷や汗をかきながら中途半端な答えを口にする。


「何、ぬしなら造作もないことよ」


そういうと、陛下は側近以外を人払いし、僕をさらに近くに来させると、ひそひそと具体的な頼み事について伝えられた。


僕は悲鳴をあげそうになるのをなんとか堪え、顔面蒼白なまま、頷くしかなかった。

だって僕はこの国の貴族で、つまりは陛下の忠臣でもあるから。


「今宵はこのまま泊っていけるよう手配もしてある。まあ、そう緊張するものでないぞ」


そういって笑って去っていく陛下を、頭を下げて送り出す。


正直、泣きたい。

嫌だ。

あのとき、まじまじと僕の顔を見ていた時からそのつもりだったのだろうか。


陛下の側近が「どうぞこちらへ。まずは湯殿にご案内いたします」そういって歩き出す後ろに、ついて歩くしかなかった。



その後も、何度か同じように呼び出されて似たような頼み事をされた。


初回以降は大体が事前に日時指定での登城を命じる書状が寄越されて、その日は仕事を休んだ扱いにはならない。


指定された日時に参ずれば、いつもの側近の人に連れられて、まずは豪華な湯殿に連れていかれて、頭から爪の先まで磨かれる。


侯爵家の出身だけど、僕があれなせいで、ずっと入浴は一人か、せいぜいブノアが手伝う程度だったので、複数人にわしゃわしゃとされるのには、なかなか慣れられない。


それが終わると、体中に何やら塗られて、いい匂いのつるつるの肌になる。

背中の中ほどまで伸びている僕の髪は、その日によって結い上げられたり、緩く編んで垂らされたり様々だ。


そして…侍従さんのお仕着せだったり、女性もののドレスだったり、神殿の壁画の精霊がまとっているような謎の布だけをまとわされたり、服装は様々だ。


そして、陛下の待つ部屋の前室に押し込められると、そこでおへそのピアスを外す。

無くさないように、入り口のわきに立っている、陛下の侍従と思しき側近の人が預かってくれる。


次の間に進むと、陛下と、誰か、がいる。その誰かはその時によって違う。


その部屋は、かなり陛下のプライベートな部屋のようで、特別な誰かと非公式で過ごす場であるようだ。


初めての時は、若い、僕より少し年上かどうか、という綺麗な女性だった。


そして、その時は、食事の用意がされていて、食事の世話についた侍従のふりをして、たまに果実酒を注いだりしながら、女性に微笑みかけたりなんだりして、…早い話がその女性を僕の虜にしろ、という話だった。


意識して、誰かを自分に夢中にさせようと思ったことなど、ない。

そんな恐ろしいことをして、大丈夫なのか、と怖くて仕方がない。


それに、陛下付きの侍従のお仕着せはものすごく豪華だ。汚さないようにしなくちゃいけない。


そんなことにまで気を遣いながら、虜にしろだなんてどうしたらいいんだ、と冷や汗をかきつつ果実酒を注いだら、案の定そんな所作の訓練をしてきていないし、見よう見まねだったのでぼろが出て、雫を跳ねさせてしまった。


跳ねた雫が女性の手の甲に飛んだので、「大変失礼いたしました」と手にしていた布でふき取り、ちゃんとふき取れたかと、手の甲を指先でそっと触れて確認をしたら、ご令嬢がぼわ、っと真っ赤になったのでびっくりした。


慌てて、事前に言われた通りに陛下の斜め後ろに下がったのだけど、そうすると彼女が陛下と話をしようとすると、僕のことが視界に入るわけで。

その後は明らかに陛下との話は上の空で、僕をチラチラと見て、陛下が見ていない隙には僕に笑いかけてくる。


内心悲鳴をあげながら、ぎこちなく笑みを返したりして、これはうまく行っているのかいないのか、もしかしたらそこそこはやれているのか、と混乱しているうちに、デザートとなり、最後のお茶となり。


お茶だけは僕が淹れる羽目になったのだけど、一口飲んだ陛下が一瞬目を丸くして僕を見たので、我が家の執事仕込みのお茶を淹れる腕は、陛下にも通用するらしい、と嬉しくなった。


お茶のおかわりを淹れた後は、「下がって良い」と言ってもらえて、走り出したいくらいの勢いで退出した。


待ち構えていた本物の侍従さんに預けていたピアスを受け取り、ちょっと恥ずかしいけどその場でお腹をめくってピアスをつける。


服を直したところで、廊下に出ると、僕を客間に案内してくれる人がいて、客間には僕のご飯の用意があった。

僕は給仕のお手伝いは断って、みんなに出ていってもらって、一人で借りたお仕着せから借りる寝衣に着替えて、ご飯を食べた。


お腹いっぱいになって、寝ようかな、と思っていたら、さっきピアスを預けた本物の侍従さんが来て、洗濯済みの僕の着てきた服を持ってきてくれて、侍従のお仕着せを回収し、食べ終わった食器もワゴンに載せて下げてくれた。


そして「陛下は伯爵さまのお働きに大変感謝しております」と言ったので、どうやら成功したらしいことがわかった。


安心した僕は緊張から解放されて、爆睡し…もちろんベッドの周囲に魔道具で結界を張って…、次の朝、家まで送ってもらったのだった。


こんな感じの仕事が複数回。


禿げたおっさんがいたときは、女装…ドレスを着せられて、陛下とおっさんと三人で食事をとることになって、味なんてわからなかった。

「はい」とか「いえ」とか「その…」とか裏声でそんな程度しか発声しなかったけど、僕の表情と、陛下の話術と、勝手に答えを想像して満足するおっさんのおかげでなんとかなった。


終始気持ちの悪い笑みでじろじろと舐めるように見られて、鳥肌が立ったけど、なんとかニコニコと頑張った。

その日も、どうやら陛下の満足いく仕事ができたらしかった。


そしてこないだが、中年女性が相手で、薄布をまとわせられたうえからガウンを着て例の部屋に行き、その日はテーブルがものすごく低くて、椅子がなく、厚手のカーペットが敷かれた上にクッションがたくさん置かれていて、僕はその女性と陛下の間に座って、ひたすらにこにことお酒を注げばよかった。


陛下と女性の話が弾んでいた隙に、緊張をほぐそうと、小さくため息をついたら、女性に目ざとく見つけられてしまい、手をそっと握られて、内心では悲鳴を上げた。

「うふふ、なんて可愛いお方…」

そう言われても嬉しくないし、あなた誰ですか、社交界ではお見掛けしませんよね、と心の中で叫ぶ。

このときも、あれでもどうやら陛下の要望には応えられていたようだった。


そんなわけで、僕は僕だけの極秘任務を遂行し、陛下からのご褒美をその都度貰えたので、海外からの果樹の輸入も認められたし、新しい街道を作ることも認められたし、ついでにそれらにかかる費用の足しにとお金もたくさん貰えた。


もしかして統治能力は低くても、僕って領主としてはいい領主なんじゃない?と思えてきたのだった。


ちなみに、僕があの部屋で会う人たちが誰なのか、陛下は教えてくれないし、その辺りの事情も絶対に教えてくれない。


この極秘任務に呼ばれる間隔も全くの不定期で、そこから何かの規則性も読み取れない。

彼や彼女らが僕を気に入ることで、何が陛下の得になるのか、さっぱりわからないのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ