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カミーユとロザリーの話  作者: 十月猫熊
第2章 カミーユのお話
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29ご褒美は?

少し長めです


特別任務の後の二日の休暇、という制度は王宮での半日もかからなかった例の件でも適応されて、そしてその日は数時間の仕事であっても一日出勤の扱いとなったので、結局四日間の休みになった。


あの日は僕らが動けるほどになったところで、僕はもちろんピアスを再装着して、宮廷魔術師たちの勤務している棟に移動した。

いつまでも陛下の寝室にいるわけにもいかなかったし。


大きな会議室のようなところで、しばらくは魔術師同士での雑談、つまりは高レベルな魔法や魔術談議に花を咲かせていると、準備ができたと呼ばれて、全員で少し早めの昼食会…しかも陛下とともに…だった。


食事が出るらしいとは聞いていたけど、陛下も一緒と思っていなかったので、緊張した。


雑談中には、たくさんの魔術師に話しかけられた。


学院時代にはあまりなかった経験だし、研究所でも先輩とロザリーといつも三人でいるからか、ここまで高レベルの魔術師に囲まれるという経験が少なく、嬉しくなってたくさん話をした。


宮廷魔術師の驚くべき技術の高さと知識量に感心していたら、何人かから文通を申し込まれた。


了承して連絡先を交換しようとしたら、所長とロザリーがいつの間にか寄ってきて、所長が「手紙は研究所宛に送るように」と宣言をして、ロザリーにはまた耳を引っ張られて「騎士さんたちのときの二の舞をするつもりなの?」と怒られた。


さっぱり意味が分からなくて、「は?だってロザリーも彼らの知識分けてもらいたくない?」と言えば、「知識を得る代わりに、大事なもの無くすのはどうかと思うよ」とあきれられて、首を傾げた。


まあとにかく色々と衝撃的だったけど、帰り際に褒美としての何か希望があれば、という聞き取りがあった。

お金の他に、何かくれるというのだ。


ロザリーは『いただけるお金の増額』と即答していた。

先輩や所長が何を希望したかまではわからないけど、物でなくてもいい、と聞いたので、僕は一旦帰ってから後日返事をする、ということにした。


帰ってからフレデリクとブノアに、報奨金の他に希望を聞いてもらえるようだ、という話をして、何にするかを散々話し合った。


ハーレ領に関することにする案も捨てがたかったけど、僕としては、公爵令嬢とのお見合いをしなくて済むようにすること、にしたかった。

公爵令嬢とのお見合いをしないで済むように出来るのは、公爵家より上位の王家からの圧力しかない。


侍従と執事は、僕が自分で1年くらいの間に相手を見つけられればいいだけなのだから、ここは領地に関することを、と勧めてきたけど、そんな短期間で相手を見つけられると思えなかったし、その1年間は生きた心地がしないだろうことも怖かった。


損得から行けば領地に関わる願いがいいのだろうけど…。


二人には言えなかったけど、僕としては、あの釣書をみた夜に夢魔につけ入られたことが大きな理由だった。


夢魔は、普通だったら僕ほどの魔力量をもつ者には、悪夢を見せることが出来ない。

でも、あの夜のように、ものすごく疲れていて、気のゆるみもある上に、精神的なストレスを抱えていると、僕でもつけ入られてしまうのだ。


公爵令嬢とのお見合いを無いことにできないまま日がたてば、より焦りが募って生きた心地がしなくなって、さらにあのような悪夢に追い打ちをかけられた日には、仕事も手に付かず、それこそ相手を見つけることもできなくなってしまうだろう。


言葉が多くない僕の訴えだったけど、二人は僕の沈痛な表情にため息をついて、お見合いをつぶすことにその権利をつかうことを承諾してくれた。


「仕方ないですねえ」

「また手柄を立てて、そのときこそ、果樹の苗を外国から輸入する許可を貰ってくださいよ」と念押しをされた。


「手柄を立てようにも、そういう仕事に選ばれないと無理だけどね」


ロザリーなら高笑いをしながらバリバリととんでもない仕事をこなしていきそうだけど、僕は体力的にも精神的にも疲れてしまう。


あまり特別任務はしたくないなあ、という気持ちだった。



日常を取り戻して数日。

冬になると移動が大変になるので、早くしてください、とフレデリクにせっつかれた。


そういえば、ハーレ領に視察に行く、とフレデリクと約束していたのだった。


大急ぎで休暇の申請と、領地への視察の連絡をした。


会計にあやしいところがあったりするなら、いきなり行った方がいいのだろうけど、そういう訳でもないのでちゃんと調整をとる。


今回は大枚をはたいて、魔道具も購入しておいた。これを領地の城に設置して、次からは転移魔法陣でひとっ飛び、にするつもりだ。


ハーレ領は実家のオスマン領より遠く、王都からでは片道三日もかかってしまうのだ。


なので、半月という長い休暇申請だったけど、領地持ちの所員は領地運営のための休暇が認められているので、すんなり通った。


まあ、領地運営を人任せにして研究所に勤めている人なんて、今は僕とジョルジュ先輩と所長以外いないのだけど。


「えー!?チーム全員が揃ってなかったら私にまで仕事が来ないじゃない!じゃあ私も休む!」と主張したロザリーは所長に首根っこを捕まえられて、禁書の写本を命じられていた。


禁書は読むだけでも魔力を消耗するもので、さらに複製阻害に抵抗しながら書き写すとなると、確かにロザリーにしかできない仕事だろう。


今頃、ぶうぶう文句をいいながら写本を進めているのだろう姿が目に浮かび、思わずくす、と笑いがこみ上げる。


せめてその本に呪いがかかっていないといいけど。

まあ、ヴィリエに呪いなんてかからないだろうし、万が一かかったとしても、そのときは先輩か所長がどうにかしてくれるだろう。


そういえば研修生時代にも、禁書まではいかないまでも、複製阻害のかかった本をそれぞれ書き写す作業をしていたら、僕の本には呪いがかかっていて、僕は呪われたことに気が付かず、弱ってしまったことがあった。


その呪いの内容が地味な食欲減退、というもので、少しずつ食べられる量が減っていき、でも魔力は使うので、だんだん補充しきれなくなって使える魔力量が減り、どんどん痩せてきて…。

周りがおかしい、と気付いてくれたのだった。


「痩せる呪いなら私の方がよかったのに」とロザリーが文句をいい、所長が僕のお腹をひと撫でして、その呪いを一つかみにすると…なんか黒いもやもやだった…ロザリーのお腹にひょい、と移し替えた。


「おお、これで私にもくびれが?」と呪いを受けて喜んだアホなロザリーだったけど、さすがヴィリエ、いったんは体の中にとりこまれたあと、じゅわっと音を立てそうな感じで体中から蒸発していった。


あっけにとられたのは僕だけじゃなくロザリーもで。

所長はげらげら笑っていた。


でもその経験のおかげで、僕は呪い独特の言葉にしきれない感触を学ぶことが出来たので、次からは自分に呪いがかけられそうになっている、ということがあると、即座に気が付くことが出来るようになった。


父から、僕は生まれつきの呪いがかけられていることを最近聞かされたので、そのせいで余計に過敏かもしれない。


ちなみに、父から、妖精からの『いかなるときも美しくある』という呪いがかかっている、と聞かされた時は、そうでしょうね、という感覚で、驚きもしなかった。


幼いころに聞かされていたら、僕は呪われているのか、と動揺しただろうけど、僕は自分で自分を客観的に見ても明らかに異常だったので、むしろ妖精からの呪いときいて、ホッとしたくらいだ。


何かもっと厄介なものの可能性だって考えたことがあったし、呪いをかけたのも妖精であったことは幸いだった。

妖精は悪意なくとんでもないことをすることが多いけれど、本当に悪意はないのだ。


まあ、呪いにしても何にしても、何でも経験だな、そう思う。


研修生だったときから含めると、もう二年働いたことになる。

学生時代とは自分も変わったものだ、と思う。

まあ、まだまだ青二才だけど。


そんな思考の波にたゆたいながら、一緒にいても黙っていてくれるフレデリクとの二人旅だったけど、領地についてからは連れてくるのがフレデリクで良かった、と思う場面ばかりだった。


学生時代と違って、伯爵として行動するときには、やはり執事が必要だった。


代行領主は、父がハーレを所有していた時から代行領主を務めてくれている者で、補佐をしている彼の息子は僕より年上だ。


僕は彼らを信用しているし、彼らは年若い僕がどういう領主になるのか、見定め中、というところだ。


領地を引き継いでから数度しか訪れていないので、初日に歓迎の宴を開いてくれて、領内の有力者たちと顔合わせをした後は、ひたすらに領地内を見て回ったり、今後の運営方針などについて話し合った。


僕の思い描いていたものは、彼らには予想外だったようだけど、面白がってくれて、アイディアでしかない僕の考えをもとに、冬の間に計画を練ってくれることになった。


その内容は。海外に、美しい花が咲きその実は美味しい、という果樹があるので、それを輸入し、花の時期に観光客を呼び込み、更にはその果物での収益も見込む、というものだ。


学院時代に海外の気候風土について学んだときに、その国とハーレの気候が似ていることに気が付いていた。


ハーレは、畑での農作物が上質であることには定評があるのだけど、畑の作物とは収穫時期の全く違う果樹もあった方が天候不順などでその年の作物の収穫量が激減したとしても、年間の収益に大損害を出しにくいのではないかと思ったのだ。


それに、花の時期も2週間ほどあるらしいので、街道沿いに観光目的に植えることで、ハーレをその時期だけでも観光地にして、外部の人間にお金を落としてもらおうと目論んでいる。


そして今回の大きな目的のひとつであった、ハーレの領城に転移陣の魔道具を設置する、というのも、専用の部屋を用意してくれて、この部屋だけは僕以外は鍵を持たない部屋になることになった。


タウンハウスには既に対になる転移陣を設置してきてあるので、帰りは一瞬で、となる。


今後は研究所が休みの時には短時間でも訪れて、領地運営に携わることを約束して、10日ほどの滞在を終えた。領地内をこの目で見て歩くことに重点を置いたので、あっという間だった。


大したことはできないまでも、かなり自分が領主であることを自覚することになったし、代行領主にも少しは認められた気がしたので、領地に行くべきだ、と言った我が執事のいうことは、きいておいて間違いがないものだな、と感心をした。


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