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カミーユとロザリーの話  作者: 十月猫熊
第2章 カミーユのお話
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23久しぶりの帰宅


辺境伯領での討伐のような、大きな仕事はそんなにしょっちゅうあるわけではない。


辺境伯領内で、少しの休暇を貰って三人でのんびりしてから王都に戻ってくると、王都の秋も深まっていた。


「お帰りなさいませ」

「坊ちゃん、心配しましたよー」


執事のフレデリクと侍従のブノアが僕の留守の間のタウンハウスを守ってくれていた。


働くようになってからは長期休みはほとんどないため、実家には帰っておらず、ずっとこのタウンハウスから研究所に通っている。


所長からもらったピアス型魔道具のおかげで、子どもの頃のような怖いことはほとんど起きなくなってきているものの、まだ人間不信は残っていて、いまだに信用しているこの二人以外を家に置く気になれなかった。


2人とも、僕より15歳位年上で、物心ついたときから側にいる。この安心できる環境を壊したくない。


「カミーユ様、こちらを…」

執事らしい所作で差し出された、いない間に溜まっていた手紙の量にげんなりする。

三カ月も空けていたのだから仕方ない。


基本的に社交も王族からの誘い以外は断っている。だから、そういったものはすでにはじかれているはずだ。


でも、自分が成人と共に引き継いだハーレ領も、父に見繕ってもらった者に頼んで治めてもらっているけれど、大きな決断の最終判断や、大きくお金が動くときなどはこうして手紙が来る。


次々と目を通して、サインをして、時には資料を引っ張り出して確認してから注意書き付きでサインをする。


「ああー所長が、爵位は継いだけど、領地は弟に任せているっていうのが良く分かるよ…僕も弟がいたら丸投げしたい」


「伯爵さまともあろう御方がなんたる無責任な!領民が不憫です」


「ううー。帰ってきたばっかりなんだけどなぁ…。この予算についてはフレディも見てくれたんだよね?」


「はい、数字の上ではおかしな点は見当たりません。ただ、昨年は一度も足を運んでおりませんので、出来たら…」


「はー、わかったよ。研究所に休暇の申請しとく」


ブノアがコーヒーを持ってきてくれたので一息つく。


「カミーユ様、そして、こちらですが」

フレデリクが差し出したものを見て、ブノアが目を輝かせている。


「何?」


うっかり気安く受け取ってみたら、なんとそれはお見合いの釣書だった。

「え?」


ブロンド美女の絵と、様々な経歴と…。


「うん?ええと?ハーレ領になにか問題が?政略的に結婚が必要なくらいの…?」


両親の場合は、母の実家が資金繰りに行き詰まり、侯爵家からの資金援助を得るために妖精姫を売った形だった。


逆にハーレは特に産業もなく、農村地帯だ。でも豊かな土地なので、自然災害などがなければ、大体黒字となり、余剰金を災害のために備えて積み立てさせている。

だから、結婚してお金を得る必要には迫られていないはずだし、逆に困窮した貴族がハーレにお金をたかれるほど裕福でもない。


「坊ちゃん、そちらのお嬢さんは、学院時代の坊ちゃんの一学年下に在籍しておられまして、恋慕の情を抑えきれず、とのことですよ!」


ブノアがワクワクとした顔で言うのが、腹が立つ。

そうか、シンプルにただのお見合いか。


「ん?でも今までこんなの届いたこと無かったような…」


今まで無かったのも良く考えたら不思議だったし、そして今なぜ届いているのかも謎だ。


「それは、恐れながら私の方で全てお断りさせていただく返事と共に返送していたからでございます」


「おお、それはありがとう、助かるよ」


確認もされずになされていたことだけど、間違いなくお断りに決まっているので、さすが、分かっている。


「ですが、そちらは…」


フレデリクの視線を追って、釣書の名前をよく読む。


「うわ!」

「そうなんですよ、公爵家の次女様でございまして…」


僕が学院で使ってた寮の特別室の前住人が、この子の兄だ。


「さすがに公爵は無視できない…でもどうしたらいいんだろう、はっきり言うけど嫌だ」


「ええ、存じております」


「どうしたもんですかねぇ」


「ブノア、お前がいけよ。今恋人いないんだろ」


「あ、ひどい!二重にバカにしましたよ、ききました?フレディ!今私に恋人がいないことと、私が子爵家出身で継ぐ領地もないことを!公爵家の次女に婿入りして、拝領できたらいいね、とでも…」


「あー考えすぎだ」


「今日はデザートつくるのやめちゃおうかな!」


「悪かったって!ごめん!」


「…もう、坊ちゃんは腹芸も出来ないんですから、心配でなりませんよ…」


謝ったら急にブノアが頭を撫でてきた。小さい頃を思い出す。


「貴族同士の会話や交渉なんて、今の会話の比ではないのですよ?ちょっとした言い方で足をすくわれて。こんなでは、お見合いにのこのこと行ったが最後、蜘蛛の巣にかかったちょうちょのように一瞬で喰われてしまいます」


「…そうか、僕は蝶か…」


…弱い。


「こちらは御父上の侯爵様も把握済みで、なんとかお断りできるように既に動いてくださっております。ですが先延ばし出来て、1年が限度。今回のように遠征していて、が続けばいい訳もつきますが…」


「そんなに遠征はないし、そもそも遠征は嫌だ…自分のベッドでのびのび寝たい…テントで寝るのって、蒸し暑かったり寒かったり、寝苦しいんだよ」


「ああ、それでも今回はお熱を出さずに済んだということで、鍛えてきた効果が出たものだと、喜んでおりましたよ。坊ちゃんのあの学院生時代の細さと言ったらロザリー様のスカートが履けたくらいでしたからねぇ」


「…それロザリーの前で言わないこと。幼児体形をひそかに気にしてるらしいから」


「ああ、ロザリー様はあのそんなには凹凸がないところも魅力のうちですのにね」


「それ、僕のコメントじゃないからね。ブノアが言ったんだからね。今度ロザリーに伝えておこうかな」


「なんと!誠心誠意坊ちゃんにお仕えしている私を陥れると!」


「…はー、ブノア。カミーユ様。脱線が過ぎます」


「ごめん」


「私としては、侯爵様と共にひたすらに時間稼ぎを致します。その間に早いとこお相手を『ご自身で見つけて、婚約』なさってください。ご自身で思い定められ、周囲もそれに反対のないお相手であれば、お見合いよりも強い手札となりますので」


「まるでカードゲームのように言うんだな」


「はい。腹を探り合い、どこで切り札を切るか。社交界で生き抜くこととカードゲームはかなり似通っておりますよ」


「ゲームか…」

ふ、と目からうろこが落ちたような心地がした。


まあ、社交はほとんどこなしていないので、ブノアの言う通り腹の探り合いや足の引っ張り合いなどにはあまり関わらずに来られたけど。


学院時代のつたないにもほどがある自らの人間関係を思い返すと、幼いな、と思うと同時に、今までのように素で過ごす場合と、策略を練っておく場合とを使い分ければいいのか、と気が付いた。


こんな簡単なことにも20歳にもなってようやく気付くとは、情けない。

でも今日気が付いたのだから、良しとしよう。


「…あれ?自分で相手を見つけろって言ってもどうやって…」


学院時代は、その年に生まれた貴族の子どもたちが全員いるわけで、学年によっても人数が違っていたけど、それでも自然の摂理で、男女比はほぼ半々に近かった。若干名、毎年男が多い程度で。


そんな中で、目に留まる女生徒なんていなかったのに。さっきの釣書の公爵令嬢とは4年間も同じ学院にいたというのに、ほとんど見た記憶すらない。


そんな男女半々の学院でそんなだったのに、魔術研究所なんて、男女比は、8対2くらいだ。

さらに、その女性のほとんどは事務員で、さらにいえば既婚。研究所で未婚の女性なんてほんの数人しか知らない。


「うわぁ…もしかして、夜会に出会いを求めないとダメなのか…」

僕が絶望的な顔をしていると、執事と侍従はやれやれ、という顔をした。


「ま、夜会に出るなとは申しませんが、厄介ごとの匂いしかいたしません。日頃の生活の中でよーーーく目を見開いてお探しになればよろしいかと」


「うん、…そうするよ」


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