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カミーユとロザリーの話  作者: 十月猫熊
第2章 カミーユのお話
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22魔力切れのお世話


テントの簡易寝台にロザリーを寝かせて、まずは回復魔法をていねいにかけた。

魔力を流しながら、骨が折れたりしていないかを精査して、何ともなくてホッとする。


器に水を出して、布を浸し、見えるところの血で汚れた部分を拭きとっていく。


ちょっと迷ったけど、テントに誰かが入ってきたとしても、僕らの姿が見えなくなる結界を張ってから、体の傷口の回復具合を見るのと血を拭きとるために、上半身の服をすこしはだけさせたり、めくったりした。


すごく不謹慎だとは思ったけど、何故か、びっくりするくらいにドキドキした。


左の肩の少し下あたりに深めの切り傷があるのが分かっているんだけど、そこは服から腕を抜かないと傷の回復具合が分からない。


治療のためだから仕方ない、と、かぶりタイプの上着だったので、結局脱がせることにした。


傷は、最初の回復魔法ではやはり治り切っておらず、再度かけ直した。


傷口だったところを拭いて、傷がなくなっていることを確認する。


女の子なんだから、いつかお嫁に行くときのために傷はない方がいいから、傷跡が残らないように丁寧に…。


そう心がけて、なんだか胸がちくっとした。

いつかお嫁に。


ロザリーは学生時代は結婚しないつもりだ、と言っていたけど、いい人が見つかればきっと気が変わるだろう。

僕だって一応、いつかは結婚をするつもりでいる。


でも。

そうすると。

いつも僕の隣にいたロザリーは誰かの隣にいて、僕の隣にはロザリーじゃない誰かがいることになる。


そんな当たり前のことを、考えてみたことすらなかったことに、ショックを受けた。


ふ、と目の前で横たわるロザリーに目をおとす。


肌着は身に着けているのでロザリーの裸を見ているわけではないのだけど、それでも、学生時代に自分が変化していったとき、ロザリーも女の人になっていってる、と思ったことを思い出した。


小柄ながらに、明らかに大人の女性が目の前に横たわっていた。


今までロザリーは『ロザリー』であって、それ以上でもそれ以下でもなかった。

何を今さら、と怒られそうだけど、今初めて、ロザリーは女の人なんだと実感した。


そして、自分は、男だ、と。


なんだか腰の辺りというか、下半身というかがむずむずと熱い感じがした。

そんな感覚は初めてで、困惑した。でも知識が、きっとそういうことだ、と自分に教えてくれる。


困惑と動揺と羞恥と、様々な感情が入り交じった僕は、大急ぎで体の他の傷口を拭いて、服を着せつけた。

足には傷が無かったことに心底ホッっと胸をなでおろした。

ズボンは脱がすと履かせるのが大変そうだったし、足に触ることは今の自分には危険そうだと思えたから。


何度も深呼吸をして、気持ちを落ち着かせてから、結界を解除して、汚れた水を捨て、布を洗って干すと、僕のテントからも毛布を持ってきて、ロザリーにかけた。


その脇で、簡易の湯沸かしコンロを使って、簡単な食べ物をいくつか作っていると、その匂いでロザリーが目を覚ました。

「お腹すいた…」

「うん、そうだろうね。腕上がる?…やっぱり無理か」


僕は、さっきのことを思い出さないように必死に冷静を装う。


そして、ロザリーの上半身を引っ張り起こして、その後ろに、支えるように、抱き込むようにして座って、食べさせた。


「はい、あーん、して」

「あー、カミーユがお母さんみたい」

「自分でスプーン持てるようになったら言って、自分のペースで食べたいでしょ、ほら、あーん」

「んむ…腕も上がらないくらいにだるくなるほど、魔力使ったのって久しぶりだよー」

「あーん…多分、そろそろ戦闘は終わると思うけど、それからさらに後処理してからの食事の支度になると思うから。これじゃ足りないとは思うけど、無いよりましかなって作っといた…あーん」

「うん、なんか体中に染みわたるよ…はあ、ありがたい」

「スープとおかゆはこれしかないんだ。じゃ、つぎはこっちいけそう?」

「うん、もう、少しは噛めそう」


薄切りにしたパンをあぶって、同じくあぶって溶かしたチーズをのせたものを一口大にちぎって口に押し込んでやったとき、テントの入り口があいて、辺境伯お抱えの中年男性の魔術師さんが中を覗き込んだ。


恐らく戦闘が終了したとかそういう知らせだろう。

いやもしかしたら、何かあって長引いていて僕も戦線に戻れということか?


簡易寝台の上に僕らは二人で座っていた。

ロザリーは背中を僕のお腹にぴったりくっつけてもたれていて、背中側から僕の両腕に抱え込まれるようにされながら、口にパンをいれるところを見られ…。


三人とも一瞬固まった。


なんか前にもこんなことあったな…。

いや、何にも後ろめたいことなんてないし!


「何?」

何の用事で来たのかを単純に尋ねたつもりだったんだけど、我ながらに鋭い声が出た。


「し、失礼!」

魔術師さんはものすごく慌てて入り口を閉じて、走っていく足音が聞こえた。


「要件を伝えていってくれればよかったのに…」

「ほんと。なんだったんだろ。ほら、あーん」


自分の心臓がバクバクと早くなっていることがロザリーに伝わらないように、少しだけ体をずらす。

確かに後ろめたいことは一切ない。

ないけど…かなり親密には見えたはずだ。


「カミーユ、お茶欲しいー」

「ああ、ちょっとまって」


ロザリーの体を再び横たえさせて、食べさせていた間に沸かしていたお湯を使ってお茶を淹れる。


「どうする?少し冷ます?」

「うん、お願い」


手の中の熱々のお茶のカップに向けて凍らせる魔法をごく弱く、短時間だけかける。

カップを脇に置いてから、ロザリーをまた引っ張り起こして、今度は抱え込むようにではなくて、片腕だけで支えるようにし、自分はベッドの脇に膝立ちになる。


「…まだ熱いかな?」


お茶を一口飲んで温度を確かめ、ロザリーの口元に持っていく。

慎重に傾けると、こくこく、と喉を鳴らして、おいしそうに飲んだ。


そのあと冷めつつあったチーズのせパンをぱくぱくと食べ、もう一度お茶を飲むと、少しがくがくしながらも腕が上がるようになったので、残りは自分で食べさせた。


食べれば食べるほど回復していくので、見ていて面白い。


「あー全然足りないよー」

「多分もう静かだし戦闘は終わっているだろうから、本隊の食事の準備がどうなってるか確認してくるよ。何だったら少し食材くすねてきて、ここで少しだけ作ってもいいしね」

「あーお願いしますーなんでもいいから早く食べたいー」


ロザリーのテントを出て、ジョルジュ先輩を探していると、やはり戦闘は終わっていて、先輩とさっきの魔術師さんが一緒にいるのが見えた。


「先輩、ロザリーのケガは大したことなくて、治癒しておきました。で、さっき意識が戻って、腕も上がらないくらいの魔力枯渇だったので、ちょっとだけ僕がもってた予備の食糧を食べさせましたが、まだ座れるほどには回復してません」

僕が寄ってくるのを見て、こっちを向いてくれたので、まずは報告をする。

「で、もうちょっと何か食べさせないとダメなんですけど…この様子だと、食事の準備にはまだほど遠いですね…」

「そうなんだ。でもなあロザリーは回復魔法に関してはあんまり役に立たないからな…でもひもじいままほったらかすのも可哀想だし。あ、確か干し肉があったはずだな。干し肉をロザリーに届けたら、またここに戻って、手伝ってくれるか」

「もちろんです。すぐ戻ります」


干し肉を手に入れてロザリーのところへ戻ると、「えーまだこれは噛めないよー」とかブツブツ言われた。

「とりあえずしゃぶって待っててよ。思ったより、けが人が多くて僕も回復魔法かけに行ってくるから」

「そっか、それなら仕方ないね。干し肉の量も結構あるしこれだけあれば座れるようにはなるかも」

「うん、大人しくしててね」


一瞬さっきのことが頭をよぎって、ちょっと過保護な発言に聞こえそうなことを言ってしまったけど、ロザリーは気にならなかったようだ。

調子に乗って頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細めた。


顔が赤くなりそうだったので、慌ててテントを出て、手伝いに行く。


僕の魔力までもが枯渇しそうなほど、回復魔法をかけ続けたころ、ようやく食事の準備ができて、僕も倒れずに済んだし、ロザリーも歩き回れるようになったのだった。


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