20魔術研究所の仕事
新人研修では、新しい魔術の開発についてとか、森や山など人里離れたところでの魔物や魔獣狩りの基礎についても学んだ。
こういうことは学院でもなかなか聞くことが無かったので、すごく面白かった。
ロザリーも目をキラキラさせて聴いていた。
そして、配属先が発表になってみると、またしても僕とロザリーは同じ部署で、そこへの新人は僕らだけだった。
迎えに来てくれた部署の先輩についていくと、僕とロザリーに与えられた机はまた隣同士で…。
「腐れ縁もここに極まれり、だね!」
とため息をつくロザリーに、苦笑いで同意するしかなかった。
「僕は君たちを指導することになっているジョルジュ・ミラン。もう知ってると思うけど学院のとき同様、家名は使わないのがここの慣例だから、ジョルジュって呼んでね」
僕らを連れて来てくれた先輩が、自己紹介をしてくれた。
ちょっとくすんだブロンドの茶色とも見えるくせ毛を後ろで束ね、茶色い瞳の、ちょっと垂れ目が印象的な、優しそうな人だった。
隣のロザリーも好印象を抱いたことが気配で分かる。
「この1課はね、所長の机があるフロアにあるだけあって、所長直轄なんだ。他の部署に比べると専門性には劣るけど、『何でもやる課』って陰口を叩かれるくらいに業務内容が雑多なんだ。でも一番魔術研究所らしい、って僕は思っているよ。まあ、どうしても合わなければ移動願いも出せるから安心してね。それで、僕が指導者だから、今後は大抵の仕事は僕たち三人一組でこなすことになる。チームワークも必要だから、よろしく頼むよ」
「「はい、こちらこそよろしくお願いします」」
「はは、コメントもタイミングも合うとか、君たち本当に仲がいいんだね」
挨拶の声が重なってしまい、それをからかわれて、思わずロザリーと顔を見合わせる。
うん、まあ、確かに仲は悪くない。
否定はしないけど、とりたてて肯定するのも…。
「実は、君たちが研修生で来てた時、既に指導役の打診を受けてたから、君たちの働きぶりを遠くから見せてもらうこともあったんだ。気を引き締めてかからないと、って覚悟をさせられたなあ。初日からいきなりだけど、僕は君たちよりは魔力量は少ないんだ。勝っているのは経験だけ。だから、きっといつか君たちが僕の上司になる日が来ると思うんだよ」
ははは、と明るく笑うジョルジュ先輩は、卑屈になってそんなことを言っているのではなく、自分の中での真実を言っているだけだ、とわかる。
結構年上そうだけど、純粋で真面目な人のようだ、とすぐに分かった。
それから、僕たち三人は、先輩が言っていた通り、本当に様々な仕事に追われた。
王都に魔物や魔獣が入ってこないようにかけられている結界の張り直し作業のときには、豊富な魔力量を見込まれて駆り出されて、現場に行ってみたら、魔法庁に勤めるロザリーのお兄さんのアルセーヌ君もいて、思いがけず楽しかったり。
王都からほど近い町で初夏に行われるお祭りで、お祭りの名前にもなっている花がお祭りの期間ぎりぎりになっても今年は咲かない、ということで、開花を早める魔法をひたすらかけて回ってお祭りに間に合わせたり。
脱獄防止の措置があったはずの留置所から、殺人犯が逃げ出して、どうやって逃げ出せたかの検証をしたり。
このときは三人で狭い留置所に閉じ込められて、こうやったんじゃないかああやったんじゃないかと試しまくって、最後にイラついたロザリーが脱獄防止の魔道具に負荷をかけて壊してしまって、研究所で弁償する羽目になった。
しかも、脱獄の方法がわからないまま。
三人で所長にこってりと絞られたけど、この仕事を機に僕たち三人のチームとしての絆が深まった。
夏には、冒険者ギルドからの正式な依頼で、魔術師がいない冒険者パーティーに加わり、他国へ移動する商隊の護衛をした。
積み荷が何かは教えてもらえなかったけど、国にとって大事なものだったようで、魔術師は冒険者ギルドではなく、公的機関に依頼が出た、ということだった。
ロザリーが冒険者だ!と大喜びしていた。
物理攻撃の効かない魔物が出る可能性のある道を、積み荷の特性上選ばざるを得なかったから、という理由で護衛についたのだけど、「可能性がある」だったので、護衛中に魔物は出ずに終わってしまい、一度も戦闘にならなかった。帰って来てからもロザリーはやさぐれていた。
夏の終わりには、王都から1週間ほどの距離にある山のふもとの森に、どれくらいの魔獣がいるかの調査を半月ほどかけて行った。
調査と往復の移動を合わせると、ほぼ一カ月の遠征だ。
もちろん僕ら三人だけでなく、王立騎士団への魔術支援の形での同行だったのだけど。
馬車で行けたのは途中までで、後半は大量な荷物と共に歩いて森に入り、毎晩テントでのキャンプ。
女の子なのに大丈夫かな、とロザリーを心配していた僕よりも、よっぽどロザリーの方が適応があって、僕が疲労で日に日にやつれていくのに、ロザリーは活き活きとしていた。
魔獣に出くわした時に、騎士さんたちが剣を抜いたときにはすでに魔獣をミンチにしてしまっていて「あらごめんなさい?いけなかった?」としれっとのたまったロザリーは、その後男扱いとなっていた。
「私だって可憐な乙女のはずなのに解せぬ!」とこぶしを握るロザリーをジョルジュ先輩がなだめていた。
騎士さんたちが、女性を扱うように丁寧に接してくれたのは僕に対してだった。
僕は生まれつきの病弱さはもう影を潜めていたものの、それでも他人と比べてしまうと、熱を出しやすいし、体力もなくて…。
森に入ってほんの数日目で、僕の荷物は他の騎士さんたちが手分けして運んでくれるようになった。
さらにある日雨に濡れたあとに僕は熱を出してしまい、体力自慢の騎士さんに背負われて運ばれるという黒歴史を作ってしまった。
ロザリーも先輩も、ちゃんと自分の荷物を運んで自分で歩いていたのに。
寝込んでいるテントに、騎士さんたちが心配してさかんに様子を見に来てくれて、足手まといになっていることを実感した。
ロザリーが、自分が看病するからと騎士さんたちを帰してくれていたけど、騎士さんたちにもロザリーにも申し訳なかった。
この遠征での出来事は僕にとってはかなりショックで、調査から戻った後、周りのアドバイスを受けながら、まずは食事量を頑張ってさらに増やした。
そして仲良くなった騎士さんたちが招待してくれたので、仕事終わりに騎士団の鍛錬場をお借りすることが増えた。
鍛錬の時は必ずロザリーも一緒に来てくれた。
でも付き合わせるのが申し訳ないような気がして謝ると「いや、まずカミーユのテイソウの危機だし。自分の心配しなよ」と言われた。
「テイソウ?」
体操の言い間違い?なんだ?と思っているうちに「私はもっともっと強い魔獣や魔物とも戦いたいから、私も体力が必要なの!」と言われたので、負けるもんか、と闘志を燃やして、そのまま曖昧になった。
トレーニングの後に、騎士さんたちに交じって、上半身裸で汗を拭きながら、このあと夕飯を一緒に食べて帰ろうなどと誘われていたら、ロザリーがすっ飛んできて、耳を引っ張られて、「帰るよ!」と怒られた。
帰り道でも、「自覚が足りない」「危機感をもて」と、僕の体力の無さを責めてくるので、そんなにか、と内心うなだれていると、トレーニング後に服を脱がないこと、寄り道しないでロザリーと一緒に帰ること、という謎の約束をさせられた。
今まで友人らしい友人はロザリーだけだったのに、同性で親しく話をする人が急に増えたので、一番の友人の座を脅かされている、と嫉妬してくれたんだったりして、なんて思ったりした。




