17魔術学院~第5学年 卒業と花渡し
そんな風にして、学院最後の数カ月は研修生として過ごし、僕らは学院を卒業した。
卒業式は在学生にとっては学年末試験の直前の時期で、さらにその日は在学生は休みとなる。
卒業生の親が、寮を引き払うのに迎えに来がてら、式典に参加するからだ。
僕は卒業生代表挨拶がロザリーだったことに、若干の残念さを胸に…最後のテストではなんのアクシデントもなく、ようやく全教科満点だったのに、どうしてか二位だったのだ…学院に別れを告げた。
卒業式後、保護者達と合流したら、ロザリーの両親と僕の父がかなり親し気に話をしているのをみて、驚いた。
ロザリーの母と僕の父が学院で同級生であり、二人の先輩であるロザリーの父とは在学中から親しかった、というのだ。
母はさらに年下で、誰とも学院の在学が重なっておらず、三人の話について行けないこともあったようで、嫉妬して頬を膨らませていた。
いいおばさんになっても、そんな顔が可愛く見える母はすごいな、と感心してしまった。
ついでに、魔術研究所の所長が父にとっては後輩で、やはり在学中に面識があったと聞かされたけど、これは既に所長から聞いていたので驚かなかった。
そうして、親たちと共に学舎から立ち去ろうとしていた僕の前に、一緒に卒業するみんなが列をなしたので、何事かと恐怖を覚えた。
青い顔をして逃げ出そうとした僕の肘を、ロザリーががっちり握り、学院の卒業式での伝統である『花渡し』だから受け取れ、と耳元で囁かれた。
そういえば聞いたことがあった。
卒業生は皆、式の前に、胸に花をつける。これは学院側が用意したものだ。
そして、式典後に、その胸の花を、在学中の忘れられない友に友情の証として贈るのだ。
もちろん、誰にも贈らない者もいるらしい。このあと戻る寮で後輩に送る者もいるだろう。
とにかくそういう行事だ。
ちょっとした感傷的なイベントであり、『花渡し』の相手との関係が卒業後も影響を及ぼしたり及ぼさなかったり…この場面で言うと、この列をなしたメンバーから受け取った花は、僕は誰から受け取ったかも覚えていられないだろうから、なんの影響も及ぼさない。
でも、僕が花を誰かに渡すとなると、後々になってもあの人が僕から花を受けったのだ、と語り継がれるだろう。
いや、うぬぼれじゃなくてそうだろうと青い顔をしながら思えるほど、僕は機械的に、花を受け取っては横で鞄の口をあけてくれているロザリーに花を渡していく。
二つ目の鞄がいっぱいになったころ、列は無くなって、ホッとした。
花を受け取るときに少しは話をするし、握手を求められるしで、寮に向かって両親とともに花がいっぱいの鞄を抱えて歩く僕は、精神的な疲労で少しふらふらしていた。
ロザリーが僕と共にいたので、ロザリーの両親も一緒だ。
そういえば、ロザリーも結構な人数から花を受け取っていた。
でもロザリーの胸にはまだ花が付いている。
それを誰に渡すのだろうか、渡さないのだろうか…さっきまでこのイベントのことを意識すらしていなかったのに、急にドキドキしてきた。
寮へ向かう渡り廊下で、思い切って立ち止まって、「あの、僕の花はロザリーに受け取ってもらっていいかな」そう言って胸の花をとって渡すと、「あら、ありがとう、じゃあ私のはカミーユに」そういって、胸の花をくれた。
ああ良かった!
入学してすぐに一生友達だと約束をした間柄だし!
僕の嬉しそうな、満面の笑みを見た両親が、驚きのあまりに口をポカーンと開けていたのには、すぐは気が付かなかった。
そして、ロザリーがくれた花は、ブノアに頼んで押し花にしてもらった。
寮の特別室の荷物は少しずつブノア達が侯爵家のタウンハウスに運んでくれていたので、引っ越しもすぐに終わった。
ロザリーは王都にある実家に帰るし、僕はしばらくはタウンハウスに住むことにしてあった。
タウンハウスは、研修生として働いていた頃から使用人が滞在するようになっていたので、いつものように社交シーズンしか使わないわけではないために、綺麗にされていた。
仕事が始まるまでは3週間ほどあった。
両親が領地に帰るときに一緒について行って、数日は実家の城でのんびりしたけど、またすぐに王都に戻って、ロザリーを誘って遊んだりした。
といっても、王立図書館で本を借りて、近くの公園の木陰に敷物を敷いて、そこに並んで座って本を読む、とかなんだけど。
ロザリーの姉であるルイーズさんがもう産み月になっていて、王都から出たくないというロザリーに合わせたところもある。
それから、仕事が始まるまでに、僕は自分でも有意義だったと思う決断をした。
タウンハウスからだと、魔術研究所までは歩いても十数分なので、研修生の時に馬車を使うため置いていた、馬や使用人は、実家に帰すことにしたのだ。
馬車が必要な時は辻馬車でいい。
使用人の人数が減ってくると、料理人と、掃除洗濯のメイドたちも、だんだんうっとうしくなって、帰してしまった。
タウンハウスのうち、ほんの数部屋だけしか使わずに生活するのなら、僕も手伝えばなんとかなる、と分かったからだ。
学院時代は連れてこられなかった僕付きの執事フレデリクと、侍従のブノアと三人での生活は気楽でいい。
朝起きてからの習慣となってた、魅力減退魔法をさぼっても何の問題もない。誰かが訪ねてきたり出かけるときだけでいいのだ。
気を許したら何が起こるか分からない、という緊張をしないでいいだけで、人生で初めて、家で心からリラックスして過ごすことができるようになった。




