16魔術学院~第5学年 魔術研究所の研修生その2
「ああ、カミーユってさ、人間不信でさらに女の子は恐怖の対象っぽかったし、見ないように自分でも気を付けてたから知らないと思うけど、カミーユが教室移動とかで廊下を歩くと、そのあとは死屍累々だったもんだよ。気付いてないのかなーと思ってたけど、本当に気づいてなかったんだねぇ」
僕はロザリーと話をしていられれば、それだけでよかったから。
確かに廊下を歩きながら笑っていると、通り過ぎた後ろの方が騒がしくなることとかはあったっけか…振り返って誰かと目が合ったりしたら怖いので、絶対見ないようにしていた。
そうか、あれは立てなくなったり、失神者がでたりして、周りが慌てていた騒ぎだったのか…。
「そ、そ、そう…」
また黒歴史だ。
顔を青ざめさせていると、「お前がなりたくてそうなっているわけじゃないから、ま、気にするな、過ぎたことだ」と所長が頭をポンポンして慰めてくれた。
「だがな、学院はまだ子供たちの集まりだった。学院を卒業してようやく成人と認められるから、婚約も王族でもない限りは在学中は控えるし、婚姻も当然その先だ。だが、ここはもう大人しかいない。お前たち二人ともぼんやりしていると、ほんの二、三日で既成事実まで持ち込まれて逃げられなくされてしまう。家格といい、見た目と言い、優良物件すぎるんだ。まるで魔獣の前に飛び出た子ウサギだな」
ロザリーが自分にまで飛び火した!という顔をしている。
「お前たちが卒業と同時に婚約でもしてくれればありがたいんだが…」
「「はあ?」」
僕とロザリーは友人なのだけど、大人はすぐにこういうことを勘ぐってくる。
「えーと…偽装婚約でもする?」
「え、やだよ」
ロザリーからの提案をすぐに断った。
なんで偽装婚約なんてしなくてはならないのか。
大抵の女の人は怖いけど、いつか運命の人に出会えることを諦めたわけじゃないんだ。
「はー、やっぱりダメかー。お前ら、二人きりの密室に何時間いても、何にも起こらないし変わらないもんなぁ」
所長の発言に、僕だけじゃなくてロザリーまでもがジト目を向ける。
本来なら研修生と所長とではこんな気安い関係性はおかしい立場なのだけど、所長の人柄なのか、他の所員たちも気安い感じで接しているので、僕らも数日でこんな感じになってしまった。
「まあ、まだ本格的な入所までは数カ月あるし、おいおい対策を考えるとするか。その魔法、魔力消費量も結構あるし、仕事にひびくこともあるかもしれないからな。とにかく、お前たちは今後も常に二人で行動しろ。離れていいのはお手洗いの個室内だけだ」
「ええー!お手洗いの前までは一緒ってこと?乙女にはきびしいですよ、男に、お手洗い一緒にいこ、だなんてー」
「お手洗いに行くのが嫌だったら、魔力を大量消費する仕事を合間に任せてやろう!」
「えええ、そしたらものすごくお腹すくじゃないですか!」
僕も研修生のうちから魔法行使する仕事はとばっちりだ、と思い口をとがらせた。
「ここの飯は安くてうまくて多い。そして給与天引きだ。お前たちも毎日給与が発生してるだろうが。思う存分食えばいい」
魔力を消費するとお腹がすくのは分かり切ったこと。
事務方の一部に魔力のない平民がいる程度で、あとは皆魔力持ちであることから、この施設にある食堂は大量に食べることが大前提の献立になっているのだそう。
さらに、朝から夜まで研究所が開いている時間は、食堂はいつ行っても食べられるようになっているのだとか。
いつ何時、魔力が枯渇しそうになって、ご飯…と飢える者がでないとも限らない職場ならではだ。
初日に、建物内を案内された時はそんなことまで聞かなった。
ああ、ちなみに、平民には驚かれるのだけど、魔力を消費すると、僕らはお手洗いに行かなくて済む。
食べたものが、どういう訳か全て分解されて魔力の補充にあてられるようなのだ。
ガタイのいい騎士と同じくらいに大量に食べ、お手洗いにも滅多に行かない。それが僕ら魔術師だ。
「ここの整理は2か月くらいかけて欲しいが、今のペースだと、半月くらいで終わっちまう。そしたらまたお前たちに振る仕事に頭を悩ませなくちゃならんからな。数時間いつもの整理をしたら、俺が呼びに来るまでは毎日書庫の本でもここで読むようにしてくれ。対策がとれるまで、出来るだけこの部屋から出ないようにな。ってことで、少し早いけど飯にしよう」
今日は所長がご馳走してくれるというので、二人で食堂に行った。
食堂のご飯は、本当に量が多く、味も悪くなかった。
食材の購入に国からの補助金がでているので安く済んでいる、と聞いて納得した。
「ここの食事は、何種類かは持ち出して食べることが出来るようになっている。忙しい時はそういうのを買って仕事をしながら食べることも多いな。…配属をどこにするかはまだ分からんが、まあ新人のときからいきなりそんなことにはならんから、そう不安そうな顔をするな」
実際に配属されたら想像以上にハードな仕事が待ち受けていそうな気配に、嫌そうな顔をしたのがバレたらしい。
食事の後、書庫の場所を改めて確認して、書庫からの本の持ち出しの手続きも教わった。
早速面白そうな本を数冊借り出す。
「あ、それ、私も面白そうって思った。じゃあ、私はこっちにする」
「あ、僕もそれとこれで迷ったんだ。もうあと二冊借りられるから借りておく?これとこれはどう?」
「いいね!さすがカミーユ」
学院の書庫とは比べ物にならない高レベルの魔術書を前に、僕らが興奮していると、僕らが本を選んでいる間も付き合っていてくれた所長が呆れたように鼻を鳴らした。
暇なんだろうかこの人?
それからは、毎日ロザリーと出勤しては所長室で数時間の整理整頓の後、本を読みふけり、食堂でご飯を食べて、また本を読み、たまに簡単な魔力を使う仕事をする…という、これでお金を貰っていいのか?という生活を続けた。
理由も無くイライラすることがまだたまにあった僕も、そのころには落ち着いてきていた。
就職先が決まり、さらにその職場がどんなものかもうっすらと分かってきて、将来に対する不安要素が減ってきたからかも知れなかった。




