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カミーユとロザリーの話  作者: 十月猫熊
第2章 カミーユのお話
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12セリーヌの学院生活

セリーヌはカミーユの妹です。セリーヌちゃん視点です。


私には、6つ年上と3つ年上の兄がいる。

6つ年上のランドル兄様は、お父様に似て、とてもがっしりとした男らしいタイプ。

3つ年上のカミーユ兄様は、お母様に似て、とんでもない美人。


普通、男の人には美人という表現は使わないものだけど、もう、それしか表現しようがないのがカミーユ兄様だ。


私やランドル兄様が普通の貴族の子どもらしく、近い領地の子ども達と交流をして、いわゆる幼なじみがいるのに対して、領城に引きこもっているカミーユ兄様は、そんな人は一人もいない。


そして、物心ついたときにはそうだったので、しばらくそういうものだと思ってしまっていたけれど…カミーユ兄様は、数日に一度は顔色を青ざめさせて、敷地の中を走って逃げていた。

ああ、また、誘拐されそうになったか、もしくは心中を要求されたのかしら…などと、お人形遊びをしながら思って見ていたものだ。


もう少し大きくなって、『誘拐』や『心中』がどういう意味の言葉なのかを知って、震えあがったことを覚えている。


そんなカミーユ兄様だけど、私やランドル兄様と仲が悪いわけでもないし、カミーユ兄様の性格が歪んでいるようなこともなかった。


お兄様には妖精からの「どんな時も美しい」という呪いがかかっているのだそうだ。

心根が腐ったり曲がったりしていると、ちょっとした表情やしぐさに現れるものなので、きっと心までもが美しくある子なのね、とお母様が言っているのを聞いたときには、大納得をした。


もし私がお兄様のような日常を送らなくてはならないとしたら…。

想像を絶するというはこういうことを言うのだろう。


少なくても、襲い掛かってくる人々を呪い、守ってくれないと家族を非難して、自暴自棄になるか、命を絶つことは考えるだろうと思う。

とてもあんな風に天然な笑顔を私たち家族に対して浮かべることなんて、できっこないと思う。


カミーユ兄様はあまりに美しくて、美人で有名だったお母様によく似ていると評判の私ですら、カミーユ兄様のそばにいては霞んでしまうのだけど、それに対して嫉妬するとか、お兄様がいなければ私がちやほやされたのに!などというアホな考えは浮かばないほど…とにかく桁違いの存在である、というのを常に感じながら育ってきていた。



そんな私の不満は…。


逞しい系の野性味溢れる、我が父ながら惚れ惚れするお父様。

そのお父様の逞しさにお母様の美貌がエッセンスとして入った、我が兄ながら恋愛小説のヒーローとしか思えないランドルお兄様。

そして、その絶世の美貌の前では、見ただけで腰砕けになるのが当たり前の…私は兄妹だからか平気なのだけど…のカミーユ兄様。


この三人のお陰で!!!!

私は!!!!

誰を見ても、素敵!とか、カッコいい!と思えないのだ!!!!!


どうしてくれるぅー!!!!!!


魔術学院に入学するときは、私もそれなりにワクワクとしていた。

なにしろ、この国の貴族であるなら義務付けられている学校であるので、貴族向けの恋愛小説の舞台と言えば、魔術学院!


ああ、『その涙は実習場の露と消え』のクレマン様のような麗しい先輩との悲恋とか?『食堂のご飯よりも君が好き』のジル様みたいな騎士志望の元気な同級生との恋愛とか?それとも……と私はさんざん期待に胸を膨らませて入学したのだ。



入学式では、愕然とした。


幼なじみの子たちは、領地が近いだけなので、たまたま平凡な顔なのだと思っていたのに。

平凡に見える子しかいなくない?一人ひとりじっくり見てはいないけど、ハッと目を引くような人っていないんじゃ…?


いや、まだ先輩たちも沢山いらっしゃるのだから!


そう気持ちを切り替えたのに。


あ!と思って目をやれば、それはカミーユ兄様で。

もしくは、いつもカミーユ兄様と一緒にいる、ロザリー先輩で。


ロザリー先輩は、いつも明るくて、ニコニコしているかと思ったら眉間にしわを寄せたり、ぷっと膨れたり、遠くから見ていても、とても可愛らしい。

ロザリー先輩はヴィリエだというので、さらに雲の上の存在で、話しかける勇気などなかったけれど、ついついいらっしゃれば目で追ってしまう。


もともと、入学したての1年生から、4年生や5年生に話しかけるというのは基本的にはあまりないことだ。兄弟姉妹が話をする程度のもので。

お兄様も、たまに私を見かけると困りごとは無いか、とか気にかけてくれることもあるけど、それはそばにロザリー先輩がいないときだけ。


まあ、無視されているわけでもないし、お兄様に余裕がないのだろう、となんとなくわかる。


私とカミーユお兄様は、その美貌の差は歴然としているけれど、ランドルお兄様と比べれば、ひと目で兄妹と分かるほど似ている。


だから、同級生の女子たちは、なんとかしてカミーユ兄様と一度でも話をしてみたい、と私をダシにしてお兄様の視界に入ろうとする子が多かった。


でも、私もお父様から話は聞いていたけど、お兄様は今、魔法で美貌を落としているのだ。魔法のかかったお兄様を見たときは、本当にびっくりした。


その、美貌がおちているお兄様を見て、きゃいきゃい言って、なんなら失神しているようでは、お兄様と会話などできなくてよ?と内心思うし、私が手ぐすねを引いて恋愛をしようと思っていたのに、その相手を見つけられなくてイラついているのに、どうして他人の世話をしていられようか、と、一切協力する行動は起こさなかった。


それでも、同級生たちは、お兄様の選択している授業と、その教室をあっという間に把握して、お兄様とロザリー先輩が教室移動するところを見ようと人垣を作っていた。


私はロザリー先輩なら見たいけど、お兄様をわざわざ見ることもないので、大抵は教室で本を読んだりして過ごしていたけど、気が付いたら教室にいるのは私一人だったりして、ため息が出た。


初めての長期休みの時に実家に帰っても、ランドル兄様はお父様と領地を飛び回っているし、カミーユ兄様はすぐに王都のロザリー先輩のところに行ってしまうしで、私はお母様にぐちぐちと不満を言うしかない。


「まあまあ、私も学院ではこれといった殿方には出会わなかったの。でも政略結婚で、心に思うお方もいないことだし、と諦めて嫁いできてみたら、目の前に理想の方が立っているのを見て、気を失うかと思ったわ。だから、あなたもそういう出会いがいつあるかわからないものよ」

お母様とお父様は齢が7つ離れているので、学院では一緒にならなかった。


「もう、お母様からののろけ話は何度聞かされたか分からないから、それは分かっているけれど。でも、私、本当に楽しみにしていたから…」

「そうねえ。まあ、来年になれば後輩も入ってくるし、後輩に素敵な男子がいるかもしれないわよ」

「うーん、私、恋愛小説みたいにリードしてくれる男性がいいんだけどー」

「あらあ、そういうのも、実際となると、イラつくものよー」


お母様はその美貌で、社交界では随分と男性から声をかけられたものらしい。

私もそうなるだろうから、と、そういうときの処世術のようなものを今から折に触れて聞かされてはいる。


「そういえば、お母様、そういった処世術を、カミーユお兄様にも教えて差し上げた方がいいのでは?」


私が見たところ、カミーユお兄様のとる手段は二つ。

一つは、一切周りを無視。

もう一つは、ロザリー先輩と二人だけの世界に入って、誰もそこに入り込めないようにする。


私の話を聞いても、お母様は困ったように眉を下げるだけだ。

「あの子は、私達家族とロザリーさんやブノアなどの数名以外、まだ怖いのだと思うの。あの子の恐怖を思うと、無理に人付き合いをなさい、とは私も言いづらいのよ…」

「まあ、そうよ、ね…」


そんな話をしたこともあったのに、カミーユ兄様は夏休みの終わり頃には、学院の同級生をお兄様の別荘に呼んで宿題合宿と称して一緒に過ごした。


あれ?

カミーユ兄様たちを見るために、休み時間に廊下を走っていく同級生たちと行動を共にしなかったせいで、教室にぽつん、と一人の私より…お兄様の方が、友達が多い??


私はショックを受けたので、夏休み明けからは、走っていかないまでも、ロザリー先輩を見るために、廊下に行くようにした。


もちろん、最下級性の私たちは廊下でもいい場所は先輩たちに譲らなくてはならない。

背がみるみる伸びているお兄様は、人垣よりも頭が出ていて、良く見える。


でも私は別に、ロザリー先輩と一緒にいるときのお兄様のにやけた顔は見たいわけじゃないの。

背が低くて埋もれている、ロザリー先輩が見たいのよ。


私が階段を数段上った所から二人が通るところを見ようと思っていたら、階段の上からお兄様達を見ようと駆け下りてきた先輩たちの集団にぶつかられて、ほんの数段だったけど…バランスを崩して転がり落ちそうになってしまった。


「大丈夫?!」


そんな私をはっし、と掴んで支えてくれたのは…。

同じ学年の隣のクラスの女子だった。


「ありがとう」

「いいえ。…あなたも本当に妖精のように可愛らしくて、羨ましいわ…あなたのお兄様のことは、私はもう見てはいけないものだと思っているのよね。毎度休憩時間の度にこんな人だかりができて、ほんと大変だわよね…」


そうしみじみと呟いたその子は…私より頭一つ大きくて、腕なんかカミーユ兄様よりも太くて…。

なるほど、私を支えられそうながっしりとした腕だった。

着ている服もスカートではなくぴったりとしたズボンで、長い黒髪を頭の高い位置でひとくくりにしていた。


「あの、あの、私、セリーヌっていうの」

「私はセリア。名前が似てるなあって思っていたわ」

「私のことを知っているの?」

「もちろん!妖精姫ですもの。男子は話しかけたくても照れちゃって話しかけられないってよく言ってるわよ」


そんなことを言われて、思わず赤くなる。


「私、将来騎士になろうと思っているの。だから、休み時間は同じような騎士志望の男子と一緒に軽く鍛錬することが多いのよ。今も鍛錬場に行こうとしていたのだけどこのルートは失敗だったわ」

「ふわあああーセリアが騎士…似合う!似合うわ!!!」


私はすぐお願いして、一緒に鍛錬場にっくっついて行って、セリアが鍛錬をする様子を眺めた。


その日から、私たちはすっかり仲良くなり、テスト休暇のときなんかは、王都に家のあるセリアの家に泊りがけで遊びに行かせてもらった。


そして、私が第二学年になったときには、無事にセリアと同じクラスになれた。


学舎や寮でたまに見かけるお兄様とロザリー先輩は、もはや長年連れ添った夫婦か、という雰囲気すら醸し出し始めていて、なのに、お兄様も先輩も、きょとん、として、友達だけど?というので、似た者同士なんだなーと年上の二人ではあったけど、生暖かい目で見てしまった。


とはいえ、最終学年は、お兄様達を学院内ではほとんど見かけることもなくなってしまった。

夜は寮に帰ってくるので、用事があるときなんかはブノアに言づけておいて、談話室で話をする程度。


まあ、ロザリー先輩のことは学院在学中に焦らずとも、数年かけて、お兄様が頑張って口説いてくれたらいいな、と思っている。

もう、私の中ではロザリー先輩は私の義姉になってもらうことに決めてあるのだから。


そして私は、恋愛よりも、今は楽しくて仕方ないことが出来たので満足している。


男装の麗人って、…たまらないわよね?!



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