11魔術学院~第4学年 ロザリーは制御力バカ子
僕も良くお世話になっている、学院の医務室に寝かされたロザリーは、しばらくすると目を覚まし、きょとんとした顔をしたあとに、「お腹すいた」と眉をひそめた。
僕らがケガも何もなく、ただ、魔力の使い過ぎだったことだけはバレていたので、僕は既に食事を与えられてロザリーのベッド脇で食べていた。
ロザリーの眉をひそめた表情は、『私の分は?』という意味だ。
「何から食べる?」
僕は、ワゴンに載せられたロザリーの食事を見せてやる。
「肉ー」
トレーに肉の皿を乗せて、渡そうとして…「ロザリー寝たまま食べるの?」体を起こす気配がないので、そう訊いてみたところ、「さっきから起きようとしてるんだけど、起きられないのよー」と、目をパチパチとさせている。
「おや、気が付いたんだね。魔力枯渇は初めてだろう?まずは、飲み物から。肉みたいにしっかり噛まなくてはならないものは、最初には噛むこともできないからね」
僕らの会話の声を聞きつけて来てくれた、医務室に常駐してくれている医師の先生が、よいしょ、とロザリーの上半身を引っ張り起こし、ロザリーの背中に板のようなものとクッションをあてがって、斜めではあるものの、食べられるくらいには起こしてくれた。
この板は、こういう魔力切れで座ることもできない魔術師に食事をとらせるときの補助具なんだそうだ。
「ロザリー嬢?食事の介助はカミーユ君でいいかな?お兄さんを呼んでくるかい?」
僕なら既にここにいるんだから、わざわざアルセーヌ君を呼ぶかどうか確認するだなんて、なんでだろう?と思ったら、ロザリーも同じ思いだったみたいで、「はい、カミーユさえよければカミーユでいいですけど?」と不思議そうな顔をした。
医師の先生は、へえ、という顔を一瞬だけした後、「まずは果汁、スープの上澄みだけ。噛めるようになったら、柔らかいスープの具、そんな感じで進めてくれるかな」そう僕に指示を出して、「何かあったら呼んで。むせないように気を付けてね」と、あっさり控室に戻っていってしまった。
僕は指示通りに、果汁の入ったコップをロザリーの口元に持って行って、こぼさないように気をつけながら飲ませてやった。
「ふおーすごい、飲んだそばから何かに変わっていく感じがするー」
果汁の次のスープを飲ませ終えたころには、「うん、ほんとだ、先生の言う通り、そろそろ噛めそう」というので、今度は柔らかく煮えていたスープの具の野菜たちをすくって食べさせる。
何回かそうやっていたら、医務室に人が入ってきた気配があって、僕達のいるベッドの周囲を個室のように囲んでいたカーテンが急に開かれた。
僕らはびっくりして固まって、カーテンを開けた人物を確認した。
僕はスープのお皿を片手に持って、反対の手はスプーンをもって丁度ロザリーの口に運んだところだったし、ロザリーは僕が差し出したスプーンをぱくり、としたところだった。
そんな状態で、入ってきた人物と僕らは数秒見つめ合う。
カーテンを開けたのは、アルセーヌ君だった。
そして、僕らをみて、彼も数秒固まっていたのだ。
「ロ、ロザリー、お前…」
ぽかんと口をあけて僕らを数秒眺めたあと、アルセーヌ君は何かを言いかけ、そして、ぐ、と口をつぐんだ。
そして、そのあとアルセーヌ君の口から出てきたのは、延々と、お説教だった。
食べながらでいい、と言ってもらえたので、ロザリーの口に食べ物を押し込みながら、僕も食べ、そして、食べ終わってもお説教は終わらなかった。
ロザリーはしょぼんとしながらも慣れた様子だったけど、僕はこんな風にがみがみと誰かに叱られるなんて初めての経験で、最初は驚き、次に僕は巻き添えをくっただけなのに、と不満を持ち、最後にはアルセーヌ君がそれだけロザリーだけでなくて僕のことも心配してくれているんだ、と嬉しい気持ちになった。
お説教されているのに、ニコニコしだした僕に、アルセーヌ君はひるんだ様で、
「ま、まあ、あとは学院長からもお説教があると思うからこの辺にしといてやる!」
そういって、なんだかんだいいながら、ロザリーの頭をひと撫でして出て行った。
「ほんと誰に似たんだか、昔から怒ると私にお説教するのよ!ひとつしか違わないのにー」
ロザリーはそんなことを言って、僕にお茶のおかわりを注いでくれと要求してきたけど、僕は学院長からのお説教、というアルセーヌ君の言葉に震えていた。
ロザリーは気を失っていたから、実習場の惨状を知らないせいで、こうして平然としていられる。
あの場所をまた実習場の状態に戻すのに、どれだけの労力やお金がかかるか…それが、僕らの両親にまで話が行くものなのかどうなのか…。
ロザリーにすぐに教えるべきか迷っているうちに、学院長が事務長と共に、医務室に来てしまったのだった。
結論から言うと、学院の教職員の能力で、外部に頼まずとも修復できるのだそうで、ただ、ロザリーの家には、ペナルティ的意味合いで、少しの請求が行くことになったらしい。
後日、何が起こったかを、学院に普段はいないような国のお偉いさん達にも説明しなくてはならなくて、僕もロザリーも冷や汗をかいた。
そして、恐ろしいことに、ここまでの大惨事は二度となかったものの…いや、僕が死ぬかと思うような、似たような事件はもう一度あったりはしたのだけど…ロザリーはその後もうまく魔法を制御できず、実技の授業中や放課後の自主練習中に、なにがしかを破壊してしまうことが多発した。
さすがに修復の職員に賃金を上乗せせねばならぬ、ということで、ロザリーの家には若干の修繕費の請求がさらにいったようだった。
僕の両親も気を遣って、学院にお金を寄付してくれた。
ロザリーは、『制御力バカ子』という不名誉なあだ名がささやかれ、別件で教員に呼び出されても、何かやらかしたっけ、と動揺するようになった。
僕はいつでもロザリーに寄り添い、時に証言し、時にロザリーを励ました。
急に爆発的に使える魔力の量と技術が上がったせいで、制御が上手くできなくなったロザリーを支えるのに一生懸命になりすぎて、その年の成績もうっかりと二番に甘んじた。
もちろん実技単体だったら僕が一位だったけど、総合すると二位になってしまったのだ。
筆記で全科目満点ではなく、二科目で満点を逃したから、なんだろうけど。
そしてロザリーの兄であるアルセーヌ君が、卒業直前に、ロザリーのことを頼む、と言ってきてくれたことには感激をした。
もはや幼なじみという間柄になりつつあるアルセーヌ君と僕だったけど、僕のロザリーへの…執着、に眉をひそめて見ていることも多かったのだ。
この頃には、僕が僕らしくいることができる唯一の存在であるロザリーに対して、執着している自覚があった。
でも、そんなロザリーの兄に、頼む、と言われたのだ。
もちろん「全力で!」と答えた。




