10魔術学院~第4学年 カミーユの魅力減退魔法
4年と5年は選択授業のみとなるため、3年までのようにホームルームとなる教室は無くなる。
なのでクラス替えだの席の場所だのはもう関係なくなっていた。
そして、4年の選択授業は、わざわざ聞かなくても、ロザリーがどの授業をとるだろうかの予測がついた。そしてそれは僕がとろうとするものと同じだろうということも。
授業の取得希望の書類を提出する前に、冗談めかして答え合わせをしてみたら、本当にぴったり一致していたのだ。
なので、4年になっても僕らは全ての授業で一緒だった。
1年に妹が入学してきていたので、あまり変なところは見せられない、と威嚇行動は少し自重することにした。
ロザリーに近づく人間は全て威嚇していたのを、一人ひとり精査して、必要に応じて、に変えたのだ。
そして、僕の人生にとっての大きな転機が訪れた。
4年になってすぐの頃に、父から、この魔法を試すように、という手紙が届いた。
それはみたところ、存在が気付かれにくくなる効果のある、気配遮断の魔法に似ていて、そこにさらにアレンジが加えられていた。
難易度も高く、消費魔力量も多い術式だったけど、試してみると、その場にいたブノアが見たこともないくらいに驚愕していた。
それはブノアによると、僕の、『魅了の効果を弱め』、さらに、『人外レベルの美貌を直視できるレベルまでダウンさせる』らしかった。
自分で鏡を見ても、どう変わっているのかがさっぱり分からなかったのだけど、長年ついてくれているブノアが興奮して言うからにはそうなのか、と、試しに寮の大食堂に一人で行ってみた。
いつもなら、足を踏み入れた瞬間に、ざっと視線を浴び、ざわついていた食堂が一瞬だけ静かになるのに、今日はそれがなかった。
試しに、そこらにいた人たちを眺めてみたけど、こっちをみて顔を赤くしている者は一人もいなかった。
そこにロザリーが来て、でもロザリーには「なんだろ?なんか少し…髪型変えた?」と首を傾げられただけで、その後はいつものように一緒にご飯を食べた。
でも、スプーンの上げ下ろしまで、その場にいる全員からの注目を集めるのが生まれたときから当たり前だった僕にとっては、そこまでの注目を浴びずに食事をする、人生初の経験となった。
すぐにその絶大なる効果を感謝とともに父に報告したら、両親からも、ようやくお前に人並みな人生を送らせてやることが出来る、と喜びにあふれた返事が来た。
自分では僕のどこが『人外』なのか、『魔性』なのか、さっぱりわかりかねていたものの、それでずっと困ってきた人生だったので、そのことから解放されたのは、まるで生まれ変わったように感じられた。
僕の『魅了』もどきが弱まり、普通の人に近くなったこと、そしてロザリーに近づく者達を無差別に威嚇していたのを、きちんと相手を選んで威嚇するようになったこと。
それらの結果、もともと人懐こいロザリーの周りを、つまりはいつも一緒にいる僕のことを含めて、あっという間にたくさんの友人が取り巻くようになった。
ただ、昨年までの僕の様子をみんなしっかり記憶してくれていたので、一線をひいた友人関係にとどまってくれたのは有難いことだった。
彼らにしてみたら、入学してから僕らとずっと仲良くしたかったのに、気後れしたり、威嚇されたりで仲良くなれずにいた3年間だったらしい。
僕やロザリーと話す彼らはとても楽しそうだった。
17歳になって、僕はまだ背が伸び続けていて、たまに骨が痛んで眠れないことや、気分が悪くなって倒れたりすることはまだ起こっていた。
そして自分でも制御できないイライラに襲われて、ブノアに当たったりすることもあった。
顔の骨格も変わってきて、ロザリーほどではないにしてもくりっとしていた目もとはすっきりと涼やかになりはじめ、顎のラインもシャープになってきた。
僕が変化しているように、ロザリーも女の子から女の人に変わり始めていた。
その存在に気が付くかどうか程度だったぺたんこだった胸元は、この数年でふっくらと盛り上がり、つややかな髪は背中まで伸びている。
時々その髪に、手に、触れたい衝動にかられたりして、そばを離れたくないのに、そばにいるのが苦しい時もあった。
夏季休暇には、17歳の誕生祝いとして貰った別荘に、友人たちも一緒に招待して、課題をやったり、日がな一日遊んだりして過ごした。
ある日、別荘の庭で、みんなで魔法の試しうちしていると、ロザリーが何かわかった、というように目を輝かせたかと思うと、とんでもない威力の炎の魔法を打ち出した。
危うく森が焼けるところで、大慌てで友人たちと消火に当たった。
夏休み明けからはロザリーの放つ魔法は、実習場の結界を超える威力を持っていた。
それが分かったのは、ある日の放課後。
「人のいないところを探しても、森だったりするでしょ。また火事になっても困るしー。やっぱりここが一番か、って思ったのよ」
ロザリーが、放課後に実習場の使用許可をとってあるから、一緒に魔法の試し打ちをしないか、と誘ってきた。
夏休みに、僕の別荘の敷地の森を、焼きかけたことを気にはしているらしい。
「まあ、確かに、実習場はそのための場所だしね。何を試したいの?」
「もちろん、火炎の魔法よ!なんかね、こう、急に、体内の魔力を火炎に変えて放つイメージが湧いたのよ、今までとはなんか感覚が違うやつが…上手く言えないんだけど…あのときに一回試したっきりだから、もう一回やってみたいのよ」
「まあ、そういうのって確かにイメージが大事だからね。まあ、モノにするには実践あるのみ、だね。また火事でも起こしそうになったら対処してあげるから、思う存分やってみなよ」
「うん!ありがと!さすがカミーユ、頼りにしてるから」
ロザリーはそう嬉しそうに笑った後、えげつないほどの高火力の火炎を放った。
僕の別荘の庭で出したやつが可愛く思えるほどだ。
咄嗟にロザリー本人と僕自身を結界で包んで熱で焦げないようにしたけど…。
たった数秒後。
火炎がおさまり、辺りを見回して、実習場の惨状に目を見張った。
まず、いつも感じられる、実習場をドーム状に覆っている魔法結界を感じ取ることが出来ない。
魔法結界は、魔法の打ち損じをしても、被害は実習場内だけに留まるように張られているものだ。
それが、ロザリーの火炎の魔法の威力の前に、破られてしまったのだ。
そして、実習場の半分以上は尋常ではない熱で焼け溶け、地面はどろどろとした灼熱の何かに変わっていた。
そして、そのどろどろしたものが流れた先で触れたものが燃え上がり、被害が拡大していく。
僕は冷気系が結構得意な自信があったけど、これは僕の手に負えるのか、と青くなりながら、必死に氷系統の魔法をどろどろの先端に放つ。
もの凄い蒸気が立ち上ると同時に爆発音がしたけど、どろどろの流れが止まる。
とりあえず、がくがくする自分の膝をなだめつつ放った何回目かの氷の魔法で、赤くどろどろした灼熱の何かは黒くなって硬くなり、流れるようなことはなくなった。
ようやく、対応してるのが僕だけだと気が付いて、ロザリーも手伝ってよ、と横を向いたら、ロザリーは気を失って倒れていた。
まさかの…魔力切れ!
「嘘だろ…」
灼熱のどろどろにすぐに自分たちが焼かれる心配は無くなったけど、いまだに実習場だった場所は灼熱地獄の様相を呈している。
どろどろが固まったと思ったところも、しばらくすると表面が割れて、また赤く光るどろどろが流れ出てきたりするのだ。
自分たちを灼熱から守る結界を張りつつも、氷の魔法を連発して、僕も魔力切れを起こしそうになってきた。
「どうしよう…」
僕まで倒れてしまったら、僕やロザリーの身の安全が保てない。
でも、ここをこのままにして逃げるわけにもいかない。
青くなっていたら、ものすごい数の教職員が、すごい勢いで駆けつけてきてくれた。
そして、とりあえず僕らはその場から連れ出してもらえて、実習場の処理は、先生たちがしてくれることになった。




