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カミーユとロザリーの話  作者: 十月猫熊
第2章 カミーユのお話
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3魔術学院~第一学年 ロザリーと仲良くなる


席が隣なので、授業が始まって二人一組で、なんていうときにはロザリーとペアになった。


僕にとってはペアの相手は死活問題だったので、同じクラスに『大丈夫』なロザリーがいてくれてその上ペアであることは、奇跡のようだった。


ロザリーも僕も、先生の話をちゃんと聞いて、すぐ理解するタイプだったので、他の組が苦労しているような課題も、僕らはあっという間に片付けた。


ロザリーとは話をしていても、変な気配がしてこないし、とにかく楽だった。


今までは、やむにやまれず同年代の子と話すときには…たまには大人が相手であっても…、相手に合わせて会話のレベルを下げるのが普通だったのに、ロザリーが相手だとその必要がなかった。


いちいち口に出す前に分かりやすい言葉に変換しなくて済む気楽さに、つい、休み時間もロザリーとばかり話しこんでしまい、僕らと話をしたくて寄ってくるらしい級友たちは、僕らの話に入りたくても内容について行けず、周りを取り巻いて聞いてるだけだった。


5日目にして、一生友達でいようね!とロザリーに言われて、即座にうん、と頷くほどに、お互いに気が合うことを実感していた。


入学前に読み終わっていた魔術書が随分と重なっており、その中でもお気に入りだった本が一緒だったり、読んでいて疑問に感じたところなんかが一致していたりした。


いや、そもそも魔術書を読むのを趣味としている同じ歳の子に出会えるとは思っていなかった。


両親や兄がものすごく心配していた学院での生活だったけど、何事もなく、楽しくやれるのではないか…そう思い始めていた。


ところが、たった一週間で、事件が起きた。


魔法実技の時間、初めての実技の授業でもあり、基本中の基本である『水を的に向けて放射する』という課題が出された。


その男子が、本当に失敗したのか、僕に対して何か思うところがあったのかは未だにわからない。

でも、的とは全く逆方向の、順番待ちの列にいた僕に…僕だけに、思いっきり水がかけられたのだ。


全身ずぶ濡れになって、頭から雫をぽたぽたと垂らしながら、呆然と立ちすくんだら、隣にいたロザリーが僕に水をかけた子に、ものすごい勢いで大量の水を浴びせかけた。


発動までの時間の短さと言い、勢いといい量といい、素晴らしかったのだけど。

ロザリーは先生に叱られてしまった。


でも、僕の隣に戻ってくるなり、「カミーユが濡れてなかったら、雷の魔法も追加しとくんだったのに」とぼやいて、僕を笑わせた。


僕は先生にお願いをして、順番を早めてもらってびしょ濡れのまま実技をこなして合格を貰うと、着替えるために寮に戻っていいことになった。僕をびしょ濡れにしたやつは、とっくに着替えに戻っていた。


そうしたら、ロザリーが心配だから寮まで送っていく、と言い出して、先生も何を思ったのかそれを許した。


ロザリーはさっきの仕返しの技の披露で、どうやら実技の合格は出ていたようだった。


「風邪ひいちゃう、早く行こ?」


ハンカチで僕の顔を拭いてくれたロザリーと連れ立って寮に向かう。


学舎と寮は歩いて3分ほど。

壁も屋根もある渡り廊下があって、雨でも雪でも濡れることもない。

でも、実技棟からだと寮までは少し距離があって、僕が歩いた後には雫が垂れていた。


「これ、僕らがあとで拭かなくちゃいけないのかな?」


心配になった僕は上着を脱いで、廊下の窓をあけて、窓の外で絞った。


絞った服をロザリーに持っててもらって、シャツを脱いで上半身裸になってシャツも絞った。

春のまだ肌寒い空気が濡れた上半身に寒い。


「あわわわ、カミーユ、今は私しかいないけど、だめだよ、そんなかっこしちゃ!誰に見られるか分かんないよ?…ぺったんでも、おっぱい見せちゃだめだって」


早口だった後半をちゃんと聞き取り損ねたけど、それもそうだ、と絞ったシャツはまだ気持ち悪かったけど羽織って、上着は着るのをあきらめた。前ボタンは留める気にならなくて、そのままで急いで寮に向かった。


「ねえ、前留めた方が良いって!授業中だから廊下に人はいないけど、どこから誰が見てるか…」


口うるさく言ってくるのも、本当に心配してくれているんだと分かるのでうざったくはない。

そうこうしてるうちに、寮の入り口についた。


ここの寮は、学舎とつながる正面入り口と、その奥にある大食堂と、二階に上がってすぐの談話室までは男女の別はない。


談話室の奥、左右両端にある扉が、それぞれ男子寮と女子寮の入り口だ。


その扉の先は、それぞれの性別の者しか入ることを許されない、特別な魔法がかかっている。

貴族の子どもしか通うことのない場所なので、『間違い』などがあってはいけないからだ。

この国では、魔力を持つものがすなわち貴族であるので、平民が紛れ込むことはあり得ない。



談話室を突っ切って歩いて行くうちに、ロザリーは女子寮の入り口に、僕は男子寮の入り口に向かって行って距離が離れていく。


ん?ロザリーはこの談話室まで、じゃないの?

実は自分の部屋に用事があるのかな?


「へ?カミーユ、そっちは男子寮だよ?こっちでしょ?」

「……え?」


僕とロザリーは談話室の中ほどで立ち止まって、お互いを見つめた。


「…ええと。もしかして。ロザリーって僕のこと女の子だって思ってた?」


「当たり前じゃない?」


「僕、自分のこと僕って言ってるけど?」


「え、女の子で一人称が僕な子っていっぱいいるよ?私には似合わないけどカミーユには似合うって思ってた」


「…女子寮の中で会ったこと無くない?」


「だってまだたった一週間だし、カミーユって特別室なんでしょ?階も違うし部屋にお風呂もついてるんでしょ?会わなくて当たり前じゃない?大食堂とか談話室では会ってたじゃないの。まあ正確にはカミーユはお兄さんといつも一緒だったけどね」


…ダメだ、これははっきり言わないと通じない。


「僕…男なんだけど」


「…は?ええええ?いや、そんな冗談いらないから」


「いや、冗談じゃないんだけど…とにかく着替えてくるから」


いぶかしげな顔をしたロザリーを談話室に置いて、寒くなってきた僕は男子寮の中を駆け上がる。

特別室には、談話室の扉をくぐってすぐの階段を上っていくのだ。


自室のドアを開けたら、ブノアが僕のシャツにアイロンをかけていて、びしょ濡れの僕を見てびっくりしてアイロンに触ってあちっ、と飛び跳ねた。


「坊ちゃん、どうしたんですかー何事が?」


すぐさまアイロンを安全な場所に置いて、僕の服を脱がすのを手伝ってくれる。

上半身を脱いだところで、下は自分で何とか脱いでいると、全身をタオルで拭かれた。


そうしながら、実技の授業での事故だった話をする。


ついでに、心配してついてきてくれているロザリーが、僕のことを女の子だって思ってたみたいだと口を尖らすと、下穿きも脱いでいたからか、「ちゃんと坊ちゃんには立派なものがついてますのにねえ」と言われて微妙な気持ちになった。


体も小さいし、どうみても立派ではないと思うんだけど。

他人と比べたこともないし、同年代の体を見ようにも、寮の大浴場は使用禁止だと兄からも厳しく言われているし。


まあ僕も大浴場は怖くて行ってみる気にはなれないけど。


既に男の先輩たちからの、なんとも言えない気持ちの悪い視線に怯えているところだ。

兄がいなかったら怖くて寮内を歩けない。


とりあえず水が垂れなくなったところで、乾いた服を着て、ようやく落ち着く。


まだ頭をわしゃわしゃと拭かれながら、そうだ、こないだ実家から届いたキャンディがあったな、と思い出して、可愛らしい油紙に包まれたキャンディを二つ握った。

「水が垂れないならもういい」と出ていこうとしたところで、風邪をひいてはいけない、とストールを巻かれた。


談話室に降りていったら、ロザリーが腕を組んで談話室の中央に立ち、男子寮の出入り口を凝視していた。


「ほんとに男子寮に入っていって着替えて出てきた!もしかして、女子側の特別室が全部埋まってたから仕方なく、とか…」


「あのさ、ロザリー、女子寮に男性が、男子寮に女性が入り込んだら、けたたましい警報が鳴るって教わったでしょ」


「いや、何事にも抜け道ってのはあって…」


「もう。それより、これ、食べよ?僕らは実技もう終わってるし、他の子のをみて学ぶことなんてないだろうし」


「そだね。食べ終わってから戻ろっか。そのストールめっちゃ可愛いね!そういうのって誰が選んでるの?」


二人でキャンディを口に放り込み、それから日の当たる席を選んで座って、誰もいない談話室でしばらくとりとめもない話をして盛り上がった。


ロザリーといると、俯く必要がない。

息をするのも楽に感じた。


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