2魔術学院~第一学年 ロザリーとの出会い
「ねえ、名前なんていうの?私はロザリー。2年生にお兄様がいるのよ。だから入学するのをすごく楽しみにしていたんだー。今度お兄様を見かけたら教えてあげるね!わあ、綺麗な髪だね!せっかくきれいなんだから、肩のとこで切らないでもっと伸ばせばいいのに!ってあれ?名前なんだっけ?」
入学式を終え、指定された教室に入って、窓側から2列目の1番後ろの自分の席に座ると、隣の窓側の席に座っていた女の子が突然話しかけてきた。
肩より長い、茶色い髪を結いもせずに無造作に垂らし、少し明るめの茶色い瞳を輝かせて、僕を見ている。
「ええと、まだ教えてない」
僕は面食らったけど、とりあえず返事はしてみた。
「あーそか!ごめん!もう聞いた気になってた!で?」
「あの、カミーユって…」
「ふわあ!かわいい子って名前も可愛いんだね!私なんてロザリーだよ!人形につけるような名前だと思わない?」
「…人形も可愛いし君も可愛いし、似合ってると思うけど…」
「あはは、平凡な容姿に平凡な名前ってことよね、確かに似合ってるって自分でも思っているわ。私にガブリエルとかクリスティアーヌは似合わないって分かるもん。そだ、カミーユにも兄弟はいるの?私はね、もう学院を卒業した大きいお姉様がいて、さっき言った2年生のお兄様がいて、末っ子なの」
「ええと、僕は4年生に兄がいて、10歳の妹がいるよ」
「えー!妹かあ、私、妹欲しかったんだよねー、いいなあ、妹さんとはどんなことして遊ぶの?」
「えと、あの…」
正直、戸惑った。
今まで、こんなふうに普通に話をしてくる他人、特に同年代の子には会ったことがなかった。
大人を含め、話し始めは普通でも、会話をしていくうちに、相手がしどろもどろになったり、顔を赤くして顔を背けられたり、たちが悪いと、鼻息荒く手を握られたり匂いをかがれたりするものだったのだ。
だから、気を許した一部の使用人と家族以外とは、目も合わせないし、口も利かず、どうしてものときも挨拶以上の会話はしなくて良い、と両親からも言われていた。
下手に気を遣って会話などした日には、あとを付け回されたり、部屋に忍び込まれたりするのだ。
恐怖でしかない。
だから、親の言いつけと自分の恐怖心の両方から、教室に入ってからずっと俯いて、前髪で目を隠し気味にして、誰とも目を合わさないようにしていた。
向こうから話しかけられて、人懐っこい雰囲気に、うっかり会話にのってしまったのだけど、いつもならとっくにおかしな様子になってくるはずなのに、このロザリーという少女は目を合わせて会話していても、何の変化もない、いや、若干嬉しそうなだけだ。
いつもと違う。
そして、会話の内容的にも返答に困った。
妹とはそんなに遊んだ記憶はない。
仲が悪いわけではなく、もう少し幼い頃は一緒にお人形遊びをしたり、花をつんで編んだりしたものだったけど、ここ数年は自分が部屋にこもって本を読むことが増えていた為だ。
せいぜい、午後のお茶の時間を一緒に過ごす程度。
何て言おうかと口ごもったときに、教官が教室に入ってきたので、こちらを向いて横向きに椅子に座っていたロザリーも正面を向いて座り直し、だまって真面目な顔をした。
さっきまでのキラキラと目を輝かせて喋っていた姿と、にわかに真面目な顔をはじめたそのギャップに思わず口元がほころんだ。
仲良くなれそうな気がした。
入寮してから、入学式の数日前に、新入生は全員テストを受けていた。
それによってクラス分けをしたり、奨学生を決めたりするのだ。
そして、隣のロザリーが学年にたった一人しか選ばれない、今年度の奨学生だということを教官が告げると、クラス中の視線がロザリーに集まり、ロザリーが耳まで赤くして、見られることが恥ずかしいようで体を小さくした。
え?なに?可愛いんだけど…。
さっきロザリーは僕の顔を見て、普通に話をしてくれた。ちょっと勢いが良すぎたけど。
家族以外に、ほんの数人そういう『大丈夫』な使用人がいる。
ロザリーも、彼らと同じ『大丈夫』な人なのかもしれない。
うん、もうちょっと様子は見なくちゃだけど、『大丈夫』だったら仲良くなろう。
自分で誰かと仲良くなろう、と思ったのが生まれて初めてだということに、この日部屋に帰って話をしたブノアに指摘されるまで、僕は気が付かなかったのだった。




