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「そういえば、マント以外の装備品はどうしたの?」
「ああ、結構穢れをうけてたから、王宮に入る前に魔術師庁に預けてきた。マントは何ともなかったからそのまま、っていうか、誰にも渡せなかったって言うか…」
何?歯切れ悪いし。
向かい合って座っていたカミーユが、ちょいちょい、と手招きをするので、なんですか?と顔を寄せたら、持っていたコーヒーカップを取り上げられ、両手をカミーユの大きい手に包み込まれた。
「ねえ、ロザリー結婚して?」
「…は?」
「ダメ?」
「え?」
「僕と結婚してって言ってるんだけど…僕じゃダメ?」
今日のお昼ご飯はパスタでいい?っていう感じで軽く言われた求婚に戸惑い…というより急な話題転換に、求婚であると頭が理解するのにしばらくかかり…は?とか、え?とか言ってるうちに、さっきちょっと精悍になったかも、と思ったのは勘違いだったと思うほどに、13歳の頃みたいな顔でしょぼんとしたので慌ててしまった。
何を急にバカなこといってるのよ!
そう言おうと思っても、しょんぼりした顔で手を握りしめられて、しどろもどろになる。
「あ、いや、ダメじゃない…?ん?いや…でも…」
「ほんと?もう、やっぱりやめた、はきかないよ?いいんだね?」
「え?う…あ、まって、そもそもカミーユの家って高位貴族もいいところじゃない?貴族院の承認ないと婚姻は無理でしょ?だって私、男爵家だし通らないと思うけど」
ようやく絞り出したことは、昔から思っていたことだったのですらすらと出た。
カミーユって普段忘れちゃうんだけど、オスマン侯爵家の次男さんなのだ。で、カミーユも社交界に出たらハーレ伯爵って呼ばれる。
カミーユは伯爵の爵位をもっているのだ。
魔力が強いってことはそれだけ高位貴族なことが多いからね、何気にジョルジュ先輩も伯爵だし。
とにかくこの国では数家しかない侯爵家の、次男とは言え息子さんが、この国の貴族のほぼ最下位である男爵家の娘との婚姻はちょっと無理というか。
参考までに並べると、王家(本家)、公爵(王家の分家)、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士爵、というのがこの国での貴族の順位だ。
騎士爵は準貴族扱いで、騎士本人は貴族扱いになるけど、一代限り、というもの。魔力持ちではない騎士さんもいるからね。
で、伯爵までが上位貴族とされていて、それ以下の貴族とは貴族院での扱いが少し異なる。
この国は魔力持ちが平民になることができないので、領地なしの男爵家はとても多い。平民に近い生活をしながらも、爵位持ち、という我が家のような家がたくさんあるのだ。
だから、領地なしの男爵家というのは、魔力持ちのなかの平民、といっても過言ではない。
ただ、一応貴族の端くれのために、年に一度は王宮に出向き、王族にご挨拶をしなくてはならないんだけど…。
で、話は戻って、公爵家含む王族と、国屈指の権力を持つ侯爵家の一族までは、婚姻相手は貴族院の審査が通らないと認められない。
婚姻の前の婚約申請の段階で、ふさわしくないと判断された時は、はねのけられる。
我が家がせめて領地持ちの子爵だったらマシだったかな?
いや、伯爵程度の出身ではないと、侯爵家の嫁として、嫁本人が肩身が狭い。
やっぱ無理でしょ。
正直、私がカミーユとどんなに仲良くなっても、一緒に暮らしても、同居人としての認識以上に至らなかった理由はここにある。
だってね、次男のカミーユですら伯爵持ちってさ。オスマン家ってすんごい名門なんだよ。
だからね。友達。
友達だったら一生一緒にいられるじゃない?
13歳の時に仲良くなって最初に、一生友達でいようね、って約束したじゃないか。
まあ、その約束した時はまだカミーユが女の子だって思ってた時だったけど。
友達として、仕事の相棒として、同居人としても、これ以上の人はいないだろうっていうのはもう分かってる。
私には、もうカミーユがいないなんて無理だって。
でもね、それと、侯爵家の次男嫁、ハーレ伯爵夫人になるっていうのとはまたなんか違うっていうか…。
「え?逆に何で通らないと思ってるの?ロザリーってヴィリエじゃないか」
「へ?」
「ヴィリエなら、王族にだって嫁げるのに」
「えーと?」
カミーユさんによると、我がヴィリエ家は、困った家系だそうで、本来公爵として存在してほしいのに、領地運営もしたがらないし、名誉も欲しがらない。魔術の研究しかせず、付き合う相手を選ぶ。
国として、ヴィリエ家だけを資金援助するわけにも行かず、お金が無くなって没落していくのを、歯がゆく周りが見ていて、うんぬんかんぬん。
だから、ヴィリエの娘は、嫁として垂涎の的で、嫁にとれたなら資金援助くらい、なんてことないんだとか…。
へー…。
伯母様とかお姉様のセクシーぶりに骨抜きになってお金出してるもんだとばかり。
我が家のルーツとか歴史について、両親から勉強するように言われてたけど、あんまり興味なかったし、建国史の国の興りの場面でヴィリエって名前出てきて、わーうちと同じ名前だーって思った位で、まさかそこから連綿と続いているのが我が一族だなんて思わなかったし。
あと、ヴィリエの血を濃く引く者は男女問わずみんな一途で、地位も名誉も本当にお構いなしに、『この人』と選んだ人としか結婚してくれないので、政略結婚もままならないから、余計に射止めるのが難しいと有名なんだとか。
そして、その選んだ人と必ず一生添い遂げ、相手に先立たれても、再婚したりはしないのだそうだ。
ほえー、初めて聞いたけど。そんな話。
嘘なんじゃない?と目をすがめて睨んでみたけど、言われてみたら、私ってデビュタントの年に数回ちょろちょろと社交界に顔を出しただけで、その後王宮での年一回の参加せざるを得ないやつ以外、ずーっと社交界を無視してたっけ。
私の耳に入らなくてもおかしくないなー。
家族がそんな話を家族間でわざわざするとは思えないし。
あ、でも今でもお父様のことが大好きなお母様と、直接的な言葉は少なくてもお母様のことを大事にしているお父様を見れば、そんな気もしてくるなあ。
お姉様達夫婦も仲良しだし。
でも、なるほど、それでセクシー美女なお姉様をめぐる恋のさや当てが大変なことになっていたのね。
みんなお姉様の心を得ようと必死だった、と。あくまでも、選ぶ側はお姉様だったのね。
で、ついでのように、実はお兄様もあんなナリで実は学院で、ひっそりとモテていたことをカミーユが教えてくれて、びっくりした。
一学年違いだったし、合同授業もあったのに、全く気付かなかったわ!
「だってさ、アルセーヌ君が昼休みに女の子に追い回されて中庭を顔色悪くして逃げてたとき、ロザリーは図書室で僕と魔術書読んでたじゃないか。多分ね、君が知らないことはこの世にたくさんあると思うよ」
そういったあと、ニヤリと笑ったカミーユを見たら、何故か背筋がぞくっとした。
それをいうなら、カミーユだって知らないことが世の中にたくさんあると思うけど?
学院時代の、カミーユが気が付いてなかっただろうカミーユにまつわる事件を教えてやろうか。
「知らなくていいことは知らないまま一生を終わりたいと思います!今のままで十分です!」
「んー、でも、今、一つだけ教えていい?」
「なに?」
「あのマント、すっごくからかわれた。でも、お陰で生きて帰れた。ありがとう」
ずっと握ったままだった私の手の甲にちゅ、っとされた。
ぎゃー、やっぱり偽物?
ソファーにあるマントに、光り輝く文字で記された、『無事に帰ってきて』の文字。
その祈りのこもった私の言葉に、どんな効力があったのか、今の私はまだ知らない。
でも、後に、『魔法の言葉』という、新しい陣の形として将来花開くことになるなんて、本当に思いもよらないのだった。




