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カミーユとロザリーの話  作者: 十月猫熊
第1章 ロザリーのお話
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「ほえ?」

変な声が出た。


だって消息不明だったんじゃないの?

本物?

まだ寝ぼけてる?

お腹すきすぎて幻覚みてるとか?


ぐう、とお腹が鳴った。

そういえば昨日の朝ごはん以降何も食べてないや。

カミーユの顔見たらカミーユの作ったご飯思い出すとか、どんだけ餌付けされてるの私。


「っていうか、本物?」


ドアを閉めると、長い足で、すたすたと歩いてきた人物が、すとん、とソファーの私の隣に座ったので、ほっぺをつまんで引き伸ばしたり、髪の毛をつまんでみたりしたけど、実物っぽい。


「うん、ただいま」


そういって、カミーユは私をぎゅっと抱きしめてくれた。


かぎなれたカミーユの匂いがして、あ、本物だ、って分かった。


私は必死に「お帰り」って声を出すと、わたしもぎゅうって抱きしめ返して、うわーん、ってまた声をあげて泣いてしまった。


「うーん、なんか思ってたのと違う…」


頭の上からそんな謎な言葉が降ってきたけど、私はしばらく泣き止めなくて。


「こんなに泣き虫だったっけ?」


そういいながらハンカチで私の涙と鼻水を拭いてくれる。


私はそのハンカチを奪い取って鼻をかんで、それからまだぽろぽろと流れる涙を止められないまま、もう一度確かめるようにカミーユの顔を見上げた。


良く見ると、相変わらず色白なものの、今までのお育ちのいいお坊ちゃん、という雰囲気は薄くなっていて、なんというか精悍さが増していた。


そりゃあそうだろう、一瞬でも気を抜けば、命とりとなるようなところに数カ月もいたのだから。

良く心を壊さず帰ってきてくれたものだ。


っていうか、本当に中身、変わってないのかな…。

確かめるように目を覗き込む。


うん、やさしく私を見るその緑の目は変わっていないみたい…って近い近い、近すぎて見えなくなるから…ってのけぞった私の後頭部に手が回って、緑の目が近づいて、唇にちゅ、っとあったかいものが触れて、音がした。


「へ?」

「泣きすぎ。しょっぱくなってる」


そういうと、また顔が近づいたので思わず目を閉じたら、また唇にあったかくて柔らかいものが触れて。


あれ?これっていわゆるキスってやつ?


混乱しているうちに、味を確かめるようにぺろりと唇を舐められて、くすぐったくて、やめて、と言おうとしたら、その開いた唇の中に、熱いものが入り込んできた。


え?なに?いったい何事?

キスってさっきのやつでしょ?

こうやって口の中舐められるのは、じゃあ、何?


あ、でもカミーユってこんな味するんだね、…ってそうじゃなーい!


頭の中は大混乱。


息の仕方も分からなくて、はふはふしてたら、ようやく離してくれて、でもなんでか力が入らなくて、くったりと胸元に寄りかかったら、機嫌のいい時のくすくす笑いが頭上から降ってきた。


何だか色々な衝撃で、私の涙は止まっていた。


…ねえ、これ、やっぱり偽物じゃない?


私の長年知ってるカミーユじゃない気がする。


そう疑いの眼差しで見上げたら、目じりや瞼にキスが降ってきた。


やっぱりお前は偽物だな?カミーユはそんなことしない!


私が偽物を糾弾しようとしたとき、玄関の呼び鈴が鳴った。


対応しようにも、私はまだくったりしていたので咄嗟に立てなくて、どうしようと思っている間に、カミーユが対応に出てくれて、戻ってきたときにはたくさんのパンや料理の入った籠を持っていた。


「食べ物が全然なかったから、市場にさっき行ってきたんだけど、注文しといたんだ、できあがったら届けてね、って」


カミーユの作ったご飯も恋しいけど、数カ月ぶりに帰ってきた人に、すぐご飯作ってくれというのもひどい話だよね。


美味しそうな匂いをかいで、またぐう、とお腹が鳴った私は、いつかのように抱き上げられて食卓テーブルのところまで運ばれて、料理の一部をお皿に移すように言いつかり、カミーユはコーヒーを淹れてくれた。


コーヒーを飲むと、まぎれもなくこれはカミーユが淹れたコーヒーで。


やっぱりこのカミーユは偽物じゃなく、本物なのか、と首を傾げる。


私たちの好きな、焼いた薄切り肉と野菜がたくさん挟まった薄焼きパンにかぶりついて、瓶詰になっている果汁をグラスに注いで飲んで、コーヒーを飲んだら、生き返った気がした。


うん、ご飯大事。



落ち着いたところで、カミーユが帰還のいきさつを話してくれた。


消息不明扱いになっていたことに、本人たちは気付いていなかったらしい。


最後の最後に、神殿の御神体、邪神の力の宿った鏡を壊したところ、ダンジョンのお約束、脱出の陣が出現したので、みんなでそれでダンジョンの外に出て、そこからは魔術師庁のゲートを使って帰ってきたんだとか。

それが昨日の昼頃。


で、まずはこのミッションの言い出しっぺでもあり責任者でもあったうちの国の国王陛下に謁見して、報告をして、秘密の仕事でもあったので祝賀会とかは一切なくて、ご褒美の目録だけとりあえず貰って、家に帰ってきたのが昨日の夜だったそう。


で、帰ってみたら私が家に居なくって、どこにいるのかと研究所に来てみれば、医務室で寝てたのを見つけたから、家に持って帰ってきておいてやった、とのことでした。


うん、昨日から今朝の謎が解けて何より。先輩に手紙鳥を飛ばさずに済んだし。


…っていうかさ!


前半部分、詳しく覚えていてはいけない、と虚ろな目で聞いていたよ!


だって邪神の力が宿っていたのは鏡だった、とか、どうやって倒したか…ええ、鏡が魔物に変化したそうです…とか、神殿としての機能を持たないように破壊してきたとか。

それ、国家機密どころか、世界の秘密じゃないか!


私は何も聞いてない、私は何も知らない…。


うう、カミーユのバカ!なんでそんな詳細まで教えるのよー!

私はそんな世界の秘密なんて知らずにのほほんと生きていたいのにー!!


うっかり、「鏡に力を閉じ込めるのは初級っていうか基本だから、邪神が自ら戯れでやったんじゃなくて、その暗殺者集団が力を集めてそこにため込んだんだろうね」とか考察しちゃったじゃないか!


そんでもって、口にはしなかったけど、なんとなくどうやって鏡に邪神の力をためたかの想像がついて、わたしならできそうだな、とか思っちゃったじゃないかー!どうしてくれる!何も知らずに生きていたかった!


ああ、穢れを知らない私はもういない…。


まあ私がどんなに内心で悪態をつこうとも、とりあえず、その神殿は力のない形だけのものになったので、異常な能力の持ち主だった暗殺者たちも、その能力を失っているはずだとか。


弱体化した彼らを一網打尽に出来る日は近いそうです。


「はー、良かったね、頑張った甲斐があったね」

私は身を乗り出して、カミーユの頭をなでなでしてやった。


ちょっと嬉しそうにしている顔は、学生時代に良く見た顔で、ああ、やっぱり本物なのか、と思うことにした。


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