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カミーユとロザリーの話  作者: 十月猫熊
第1章 ロザリーのお話
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「ねえ、そろそろ起きた方が良いんじゃない?今日は仕事もしないでずっと寝てたって聞いたけど」


誰かが耳元で話しかけてくる。


うるさいよ、今日くらい現実逃避させてくれたっていいじゃない。

私は悲しいの。悲しい現実に戻りたくないのよ。


「…ほんと起きないよね昔から。仕方ないな…」

眠る私にかけられていた掛布がはがされる。


あれ、こんなことするのはお姉様かしら?


でも、よいしょ、と掛け声とともに膝裏と背中に手が入って持ち上げられて、部屋から連れ出される。

頭のどこかで何事かしら、と思っても、不眠症になっていた私がようやく眠ったのだもの、すぐにうとうとしてしまってそう簡単には目を覚ませない。


空気が変わって、ああ、外に出たのね、と思ったら、軽いめまいがして。


そしてまたすぐにベッドに降ろしてもらえた。

ああ、良かった、私は寝ます。


この二カ月が全部夢だったらいいのに。





ぱちり、と目を開くと、何がどうしてこうなったのか、私は家のベッドで寝ていた。


思い起こせる記憶を辿っても、会議室で先輩にすがって泣いてしまったところまでだ。


時計を見ると、もう朝だ。

仕事にいかねば。

そして先輩に恥を忍んで何があったか訊こう…って今日は休みだった!


休み明けまで、何が何だか分からないままなのって、きっついね、精神的に良くないよ。


仕方ない、手紙鳥でも飛ばして訊くしかないか…。

うん、むしろ職場で、何がありましたか、って訊くよりは訊きやすい!


手紙鳥を飛ばすにはまだ早朝すぎるので、休みだったらもう少し寝直そうかという気持ちもあったけど、なんでこうなったか分からない気持ち悪さで、寝られる気がしなかった。


服は昨日出勤した時に着ていた服のままだった。

研究所の建物内は不審者の侵入を防ぐために、転移の魔法は効かない。無意識に転移して帰宅したっていう線もないし、深酒をした覚えもない。


うん、やっぱり考えるだけ無駄ってやつ。


私はため息をつくと、ベッドの上でまずは起き上がって、室内履きを履いた。


って、おお!服は昨日のままなのに、ちゃんと靴を脱いである。

何でだ。

ほんと分からん。


ふわあ、とあくびをしながらリビングに通じるドアを開けて、何か食べるものあったかなあ、とリビングとつながっていて間仕切りのないキッチンに目を向ける。


とりあえず漁ってみるか、なんて思いながら洗面所に向かい、さっとお風呂にも入ってすっきりと目覚めてから、もう一度リビングに戻って、違和感を感じた。


ソファーに、なにやら無造作に布が丸まって置かれている。しかも見覚えのあるやつ。


さっきまではソファーは背の方から見ていたので座面は死角だった。

私の視線はソファーに釘付けとなって、心臓がバクバクとうるさくなる。


近づいてそっと持ち上げて広げてみると、やっぱりマントだった。


あの日、徹夜で刺繍したマント。

さっと目を走らせると、カミーユのものであることを示す刺繍が残っていた。間違いない。


どうしてマントだけ家にあるんだろう。

トラップで飛ばされてきたんだろうか。

持ち主のところに戻らないってことは、万が一のことがあった、ということだろうか。


ざっと血の気が下がり、倒れてしまいそうな予感に、慌ててソファーに座る。


そして改めて詳しくマントを調べていく。


あんなに刺した刺繍は、擦り切れたり、何度も効果を発動しすぎて、魔力が込められた活きた陣特有の光を失ったりしていた。


まだ効力があったのは、おまけで刺しておいた幸運を祈る陣…これって本当に効果があるのか分からないから半分冗談だったんだけど…と、私のメッセージだった。


今見ると、疲れていたのと徹夜のテンションで、言葉にも魔力を込めていたらしい。


他の陣が光っていた時は全く目立たなかったのに、今となると言葉が光って見えていて、容易く読めるようになっている。


他人に見られたら恥ずかしいけど、こうしてマントだけ帰ってきたのなら、私はこれを宝物にして残りの人生を歩めばいい。

どうせ結婚はする気はなかったし、相棒の形見も何もないよりはましじゃないか。


そうは思っていても、私はそのマントに顔を押し付けて、また泣いてしまった。


「カミーユ、どうしてマントだけ家に帰ってきてるの?あなたは一体どこにいるのよ…」

思わず、そう呟いたとき。


「え?僕が帰ってきたからマントもあるだけだけど?」


空耳にしてはしっかりした声が聞こえて、声の聞こえてきた玄関に目を向けると、開いたままのドアの前に、マントの持ち主がやけに軽装で、何やら大きな籠を持って立っていた。



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