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カミーユとロザリーの話  作者: 十月猫熊
第1章 ロザリーのお話
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朝、いつも通りに出勤して、ちょっとした雑務を片付けていたら、所長に、ジョルジュ先輩と一緒に会議室に呼び出された。


ええっ?私トリスタン君いじめてないですよ?

でも、その気がなくてもトリスタン君がそう受け取った時点でいじめですからね、どうしよう。


こないだ、物理防御の陣を布に念写するのをやっておいてねー、としばらく放っておいたら、トリスタン君、できなかったんだよ。

慌てて、「ええ?出来ないんだったの?出来ないことだったんなら、すぐに言ってくれたら良かったのに」って口走ったのも良くなかったのかもしれない。傷つけたかも。

午後に、お茶とお菓子をサロンで御馳走してご機嫌とっておいたつもりだったけど、ダメだったのか…?


「何に怯えてるの?」

先輩と並んで廊下を歩いていたら、びくびくしていることがバレたらしい。不思議そうに首を傾げられてしまった。


「いや、怒られる内容を想像して…」


「ロザリーはいつも呼び出されるときは、何かやらかして怒られる前提なんだね」


「あー…今までの人生を顧みるとどうしてもそうなってー」


「うん。カミーユから聞いたことあるよ。学院の実習場を何回も壊して、その度にどういう経緯だったか職員室に呼び出されて、その呼び出しに毎回カミーユが付きあわされてたってやつ」


「だ、だって客観的にあれが不可抗力だった、と証言をしてくれる人間を連れていかないと不利じゃないですか」

そんなことを話しているうちに会議室に到着。


大抵の会議室は部屋の外からは中の音が聞こえない防音の魔法がかけられているので、所長の席とか私達の席の周辺での話じゃない時点で、他人に聞かれたくない、聞かせたくない話であるのだ。


所長室は防音以外にもいろんな効果があるのにそこにしなかったのは、相変わらず座るところもないんだろう。ってことは、話は長そうだ。


中に入って、二人で椅子に座って待っていたら、所長がやってきてドアを閉め、盗聴の魔法があった場合にそれを打ち消す魔法を展開したので、念入りだな、と気を引き締める。


「例の邪神の神殿のダンジョン攻略についてなんだが」

私たちの向かいの席に座ると、何の前置きもなく、単刀直入。


今日の話は私が叱られるんじゃなくて、カミーユの事なんですね。


だからといってホッとするわけもなく、むしろ隣の先輩も私も、緊張感が高まっている。


「詳しいことは話せないが、攻略パーティーの無事を確認する手段があってな。誰も欠けることなく無事でいたことがずっと分かっていたんだが……数日前から、その消息がわからなくなった」


一瞬、頭の中にキイン、と音がして、目の前が真っ白になった。


気が付いたらジョルジュ先輩が心配そうに上から覗き込んでいた。


私は椅子の背もたれに上半身を預けて弛緩していた体に気付いて、慌てて座り直す。

どうやら一瞬失神してたみたい。


恥ずかしい。椅子に背もたれがあって良かった。


「す、すみません、話の途中に。ええと、消息不明、ですか」


二人からの心配そうな視線に耐えかねて、自分が聞いていて把握している最後のところを繰り返してみる。


「ああ、そうだ。以前にも1日や2日程度なら確認ができないこともあったそうなんだが、今回は数日経っているので、何かがあったと判断せざるを得なくなったようだ」


失神している間に話は進んでいなかったようだ。


「消息不明ということは、生きているのか死んでいるのかすら分からない状況にある、ということで、必ずしも全滅したとは言い切れない。そこは間違えないようにな」


「は、はい」


「救援は出すのでしょうか?」


ジョルジュ先輩が身を乗り出して、なんなら志願しますとでもいうような思いつめた顔をしている。

現実感が急になくなって、ぽわぽわしはじめた私とは、なんか温度差が。


「救援の準備はしているが…あの彼らでそこまで潜るのに二カ月。彼らほどの精鋭が揃わない中では、消息を絶ったところまで行くのに何カ月かかるか…」


重苦しい沈黙が部屋に落ちる。


選りすぐりの者で組んだパーティーだ。

カミーユが加わったりして、チームワークこそ、初めは無かったかもしれないけど、二カ月もお互いに命を預け合って過ごしていれば、それなりの連携は育めていたはずで、そんな中での消息不明。


なんらかのトラップにかかったのか、強敵に遭遇してどうにかなったのか。


「ダンジョンの踏破ではなく、何が起こったかの調査と救出目的の救援パーティーとなるだろう。ロザリーやジョルジュに声がかかるかは今のところ分からない。ただ、現状をお前たちに伝えておきたかっただけだ」


「はい、お気遣いありがとうございます」


私たちがそう言って頭を下げたところで、所長は会議室を出ていった。


彼の中で留めておいて、私たちに知らせないこともできたのに、正直な人だ。

あとで知らされたら私たちが荒れるだろうと想像がついたに違いない。


「ロザリー、立てる?」


へ?先輩、なんでそんなこと訊くの?と、立ち上がって見せようとしたら、全く立てなかった。


見たら、膝ががくがくしていた。


「あれ?なんで?変なの…」


あはは、と笑ってごまかそうとしたら、先輩が顔を悲しそうに歪めた。


「ロザリー、泣きたいときは泣いていいんだよ」


やだなあ、先輩、子どもじゃないんだから、と言おうと思ったのに、立ち上がった先輩が私をふわっと抱いてくれて、かぎなれたカミーユじゃない匂いの、でもあったかい胸に包まれたら…。


失敗した水魔法のように、涙が滝のようにあふれ出てきて、そのうちしゃくりあげてきて。

私は先輩の胸を借りて、わんわん声をあげて泣き続けた。


そして、泣きすぎて、泣きつかれて眠ってしまって、困った先輩が私を抱きかかえて医務室まで運んでくれて、その運ぶ様子を見た人たちから一部の噂話好きに話が伝わって、想像たくましい皆様が色々と妄想を繰り広げ始めたなんてことは、全然、全くつゆ知らず、私は医務室のベッドで眠り続けていた。




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