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カミーユとロザリーの話  作者: 十月猫熊
第1章 ロザリーのお話
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私がゲートをくぐるカミーユを見送って、もう二月もたった。

夏もすっかり終わりかけている。


今は私とジョルジュ先輩のチームに、トリスタン君という後輩を一人受け入れていて、三人で仕事をこなしている。

でもこの子は魔術師庁の子で、しばらく経験を積むために出向してきているとのことだったので、あまり無茶ぶりはいけないよね、と後輩への指導の難しさに頭を悩ませる日々を送っている。


カミーユの任務は国際的に極秘任務なので、職場内ではトリスタン君と入れ替わりで魔術師庁に出向していることになっている。

しかも、地方にある支所に。

じゃないと、魔術師庁って近いところにあるのに、町で姿すら見かけないなんておかしい、ってことになるでしょ?


そんな訳なので、先輩も私も、カミーユが心配だ、なんてそぶりは、これっぽっちも出してない。


たまに、同僚達に、カミーユは元気なの?って私がきかれるんだけど。


うん、まあ地方にいるくらいだったら、あの子ならたまに手紙でも寄越すだろうから、私が近況を全く知らないっていうのもおかしいよね?ってことで、適当に、元気でやっているらしい、と嘘っぱちを伝えておく。


女の先輩たちが特によく声をかけてくれて、夕飯をご一緒したりすることが増えた。

私の家事能力の低さがバレてて誘ってもらってるわけではないことを、切に祈っている。


お父様とお兄様が仕事帰りに、私の家に顔を出してから帰っていくなんてこともあったりして、それが休みの前の日だったりすると、そのまま一緒に実家に帰ったりすることもあった。


実家なので、急に帰っても誰も嫌な顔せず、迎えてくれる。


ご飯の量とか急に変わるのでアンヌには申し訳ないと思ってるんだけど、むしろみんないつでも帰ってこい的な雰囲気で。


実はトリスタン君があんまり魔力の強い子じゃないもんで、カミーユとの三人でやっていたようなハードな仕事が来ないので、残業もほとんどないし、遠征もないし、疲れもたまらない。


前みたいに深刻に一分でも寝たい!っていう感じではないから、実家に戻ってもいいかな、とちょっと気持ちがぐらりとゆらぐ。


今日も一人で、自分が作った美味しくない晩御飯を食べて、ささっとお湯を使って汗を流して…。


暑い、と感じる日も減ってきて、秋が近いな、と思いながら、薄手のバスローブを羽織る。

そういやあの時、カミーユが着ると、膝丈だったっけね。


そう思い出したら、ぶわっと泣けてきた。


今でこそあんなに背が大きくなっちゃったけど、初めて出会った時は私よりも小さかったのに。


あの日、私は学院の入学式を終えて、自分のクラスに入り、座席表で指定されていた席に座って、次々と入ってくる子たちを眺めていた。

同じ年齢の国中の貴族の子が集まっているのだ。今年は20人が二クラス、平均的な人数だ。


ふと、小柄なきれいな子が、俯いて歩いてくるのが見えた。


周りを見回すこともせず、顔を俯かせて、すごく緊張しているのが分かる。

誰しもが多少は緊張しているものだったけど、その子は特にこわばった表情で、誰のことも見ようともせず、見られていることも意に介さず、まっしぐらに私の隣の席に座った。


私は一番後ろの窓側だったので、前と右隣にしか人がいない席だ。

その、私の右隣に座ったその子の横顔は、緊張だけでなく、憂いも浮かんでいるように見えた。


寂し気に見えたから、だったのか。すごくきれいで可愛い子だったから、なのか。


今となっても、理由は分からないけど。

私はその子が座った瞬間に話しかけた。


もちろん、話題なんてない。思いつくままに。支離滅裂なままに。

とにかく仲良くなりたい、という思いに突き動かされて、話しかけた。


急に話しかけられて驚いた顔をして、私の顔をみたその子は、やっぱりものすごく可愛くて。


貴族の中でも特にお金持ちなのだろうというのがわかる、上質なレースが襟についたブラウスシャツを着て、びっしり刺繍の入った上着を着ている。下は動きやすさ重視なのか、スカートではなく、膝下丈のキュロットタイプだ。

見える足首も華奢で、走ったら折れそうだ。

青いサラサラの髪を肩に着く位の長さで切りそろえていて、どうせならもっと伸ばしてリボンで結べばいいのに、と思った。


お姉様も美人だけど、こんなに可愛い子には会ったことがなかった。

教えてもらった名前もカミーユ、と、可愛かった。

絶対に仲良くなりたい気持ちが強くなる。


それまでは人にあまり興味のないまま過ごしてきた私だったけど、たくさん話をして、カミーユと仲良くなっていくのが楽しくて、学院に来て良かった、と心から思って、一生友達でいようね、と約束をした。


…その13歳のあの日から、こんなに長い間会わずにいたことが今まで無かったことに、気が付いた。


学院の夏季休暇などの長期休みの時でも、王都に用事があったから、とか、カミーユは私の実家に顔を出してくれていたし、学年が上がったら宿題合宿をするのも恒例になっていた。

海のそばにある、カミーユ所有の別荘に友人たちとこもって、宿題を仕上げるのだ。

まあ大体が私達二人に泣きついてくる友人たちの図、だったんだけどね。


カミーユの実家ってほんとお金持ちだった。

学生のカミーユが別荘を持ってるんだよ?まあカミーユも爵位持ってたから珍しくもなかったのかもしれないけど。


あんなに、人が嫌いで、私以外とは口もきかなければ視線も合わせないような、危なっかしい子だったのに、5年の間に軽く冗談を交わすくらいの友人もでき、見上げるほどに身長も伸びた。


私と違って、見た目も中身も、学院にいた間にものすごく成長したカミーユ。


口喧嘩もたくさんしたし、その延長で魔法を打ち合ったことだってあった。


いつも本気で全力で、学校の課題にも、自身の悩みにも、ぶつかっていた。


どんなことからも逃げ出したりはしていなかった。

そんなカミーユだから、一緒にいて心地よかった。



…とりとめのないことを考えていても、頭の中とは無関係に涙は流れていく。


頭と感情が別のものみたい。


最初は認めたくなかったんだけど、今はどうしようもなく、認めざるを得なくなった。


私は寂しいのだ。


いるのが当たり前すぎたので、寂しいと思うことがなかった。

今頃どうしてるのかな、と頭をよぎる頃には会いに来てくれていた。


当たり前なんかじゃなかったんだな…。


一人用のベッドだから、広すぎて寂しい、なんてことがあるわけもないのに。

一人で寝ていても暑いって感じる夜だったのに。


私を抱き枕にするあったかい腕が、胸が、そしてカミーユの匂いが、魔力が、恋しかった。


あのとき刺繍した言葉は、徹夜の勢いで…と自分に言い訳していたけど。

私の本心は、とっくに私自身より、私のことを知っていたのだ。


枕を抱いて涙を吸い取らせながらつぶやいた、早く帰ってきて、の言葉は、涙と同様に枕の中に吸い込まれ、誰に聞かれることも無かった。


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