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カミーユとロザリーの話  作者: 十月猫熊
第1章 ロザリーのお話
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ずずーん、と落ち込んだ私を無視して、「あ、僕手紙を書きたいんだけど、便せんとか貰える?」と古代神官風いじわる妖精は、ころりと話題を変えてきた。


はいはい、ご用意いたしますよ。


私が実家でも愛用していた、色気も何もないシンプルな便箋と封筒を渡すと、自分の通勤鞄から出したペンで、時々難しい顔をしながら手紙を書いている。


彼のプライベートに突っ込むほど無神経じゃないつもりなので、私は、髪を結わえるリボンに刺繍をすることにした。


お姉様からもらったリボンを見た時から思いついていたやつで、あの、うっかり本を開いちゃった時みたいに、意思に反した魔法が襲い掛かってきたときに、それをはじいたり、防御の一助となるような陣を縫い込んでおくのだ。


普段は紐で結わえてたけど、これからは仕事に行くときはこの刺繍を刺したリボンに変えればいいだけの話。


部屋の中に、ペンの走るカリカリいう音と、私の刺繍糸を滑らせる音だけがしている。


なんだろ、なんか落ち着くね!


いかにも充実した休日ですって感じがする。


お察しの通り、刺繍なんて得意なわけがない私なりに、魔力を込めながら丁寧に縫っていたので、気が付いたらカミーユは手紙を書き終え、窓からその手紙を手紙鳥にして送り出していた。


私も受け取ったことあるけど、カミーユからの手紙って、青い鳥になって届くの。


外にいたから、青い鳥が飛んできて、私の周りをくるくると飛び回って、私が受け取る意思を示して手を差し出すと、その手にとまってくれて、手紙の形に戻ったんだけど。


私の知る限り、あんなにきれいな鳥になるのはカミーユだけなのよね。

私の手紙は、カミーユの青い鳥を襲って食べそうな、いかつい鳥になりますが、文句は受け付けておりません。


私が刺繍に悪戦苦闘していると、カミーユがお茶を淹れて、缶に入っていたクッキーを見つけだし、休憩しよう、と声をかけてくれた。


うん、よくクッキーを見つけたね!これ、品質保持魔法のかかった缶だけど、中にアンヌの焼いたクッキーが入ってるなんて知らなかったわ。

これも日の目を見て何よりです。


「ふはー疲れるーやっぱこういうの苦手!」

針を針山に刺し、伸びをする。


「ね、見せて…」

カミーユが興味津々で刺繍を見ている。


「なるほどね、仕事中に身に着けることでこないだみたいな不意打ちを防ぐのか。先輩たちの仕事着にはそういう魔方陣を刺繍で入れてる人もいるそうだけど、すっごく高いらしいから。自分で刺せば無料、だもんね。いいね」


「時間かかるけど、カミーユにも作るよ。何に刺そうか?髪をリボンで結ぶのはさすがにね…じゃあ、タイ?でも毎日同じっタイて訳にいかないしね」


「普通にハンカチでいいよ。使うハンカチとは別に、護符として持ち歩くから」


「は!私もそうすればよかった!リボンは幅が無いから陣を小さくしなくちゃいけなくて、目がしばしばしてきてたの。ええい、これは習作ってことでお姉様にあげてもいいか。じゃあハンカチだったらもっと大きく陣が組めるから、色々付与できるよね、どんなのにしようか!」


私は早速、紙に思いつくままに案を描き込み始める。


「あのさ、休憩なんだから、今はお茶とお菓子楽しんで、その後にしたら?」

呆れたような声に、それもそうだ、といったんペンを置く。


子どもの時からこんな感じだから、いわゆる普通の貴族令嬢が出来るようなことはあまりしてこなかった。家族もそれを許してくれていたし。


20年そうやって生きてきて、なかなか急には変われない。


でも、もう大人なのだから、好きなことばかりをしていちゃいけない、という気持ちはちゃんとある。


せっかくなので、貴族令嬢がお茶会に招かれたときのようにふるまってみる。


「急にどうしたの?」


「いや、私も貴族令嬢の端くれだったってことを急に思い出したの。たまにやっておかないとガサツ令嬢のまま猫もかぶれなくなるかもしれないでしょ」


「そうだね、かぶる猫をもうどこかに落としてきたんだと思っていたよ」


「カミーユ相手にかぶる必要なくない?あと研究所でも」


うーん、猫はかぶってないけど小リスはかぶっているかもなあ…と口の中でつぶやいたカミーユの言葉は私の耳にははっきりと届かなかった。

そのとき私はクッキーの最後の一枚の所有権を主張していたから。


その後、カミーユと私では得意な魔法も違うということで、それぞれに応じた陣を構築するのに盛り上がり、気が付いたらとっぷりと日が暮れていた。


慌てて取り込んだ洗濯物はしっとりとしてしまっていて、それらを部屋の中に干し直し、夕食を作る時間として遅くなり過ぎていたので、簡単なもので済ませることになった。


私がまたお風呂を沸かして先に入っている間に用意されたご飯は、カリカリに焼いた塩漬け燻製肉のせサラダと、魚のスモークの薄切りを使ったクリームパスタ、シャーベット。


…これのどこが簡単なもの、なの???


でも、シャーベットはわかるよ、この子凍らせるの得意だから。


私達を怒らせたとして、カミーユは周りに冷気が走る。私は盛大に炎を背負う。


うん、私達ってそういうところも方向性が違ってていいコンビなのかもねー。

今回の仕事も私達二人じゃなかったら、納期に間に合わなかったと思うよ!なんかそこだけは自信ある。


今日のご飯も美味しいに違いないとワクワクしながら口に入れる。


パスタのクリームソースにスモークの香りがうっすら移っている。魚のうまみとクリームのコクがパスタに絡んで、ぴりっとスパイスがたまに効いて、たまりませんー。


「パンを焼く時間がなかったからね。実は一番時間かかったのはデザートだよ」

「あ、なんか聞いたことある。凍らせてはかき混ぜて、を繰り返すんでしょ?それにしても、このサラダのドレッシング、なんて美味しいのー!毎日でも食べたい!できることなら、これから毎日三食、カミーユの作るご飯が食べたいよー」


ああ、ほんとにこんなご飯を、毎日…せめて夕飯だけでも食べられたなら。


もし、毎日カミーユが作る超絶美味しい夕飯が食べられるなら、朝と昼抜いても構いません。


あー、でもそれじゃあ仕事にならないか、私達魔術師って大食いだから。


男性の魔術師は食べる量が騎士様達と同じ程度だとしてもそこまでは驚かれないけど、私達女性の魔術師も騎士様並みに食べる上に全く太らないから、平民にはよく驚かれる。

あ、もちろん魔力を消費しなかったら、どんどんぶくぶく太りますけどね。


「どうせ毎日たくさん食べるんだったら、美味しいものの方が幸せだよね!私、なんなら休みの日はめんどくさいから抜く日もあるだろうなーって今から予想ついててー。カミーユは自分にこんなにおいしいものを毎日作ってたんだねぇ。あ、ご実家の料理人の腕がいいんでしょ?それで舌が肥えたのねーきっと。美味しいものを作るのに妥協しないなんて、カミーユらしいかもねー」


もぐもぐの合間にぺらぺら喋っていて、ふと顔を上げると、お向かいさんは耳と頬を赤くして固まっていらっしゃいました。

なんだ?どうした?


盛大に?マークを飛ばした私と目が合うと、ハッとした顔をしてパスタを口に運んでもぐもぐし始めた。


んん?長い付き合いだけど、たまに理解不能なんだよねこの子。


お姉様が男性と女性では思考のパターンが全く違うものだから、いつまでたっても、分からないことはある、とか言ってたっけ。それか?それなのか?


ああ、でも最初に女の子だと思い込んで仲良くなったせいか、…それがたった一週間のこととはいえ最初の刷り込みの恐ろしさか…もしくは一年間半くらいは男の子だって知っててもやっぱり本当は女の子なんじゃないかと内心疑っていたからか…私の中でのカミーユのイメージは今でも女の子寄りの中性だ。


こんなに大きくなって、本当に男の子だったとがっかりしてからも、他の男の子とは別格だった。


学年が上がって選択授業だけになっていっても、全ての授業で一緒だったから、っていうのも、もちろんあると思う。

テスト前の勉強会だって、全科目一緒だから、いつも一緒に並んで勉強をしたものだったし。


いつの間にか、先生たちから在校生たちまでが、私達を二人で一組みたいな扱いをしはじめて、別行動していたらなんでか驚かれたりして。

だから、相談したわけでもないのに、希望する就職先が一緒だったときは、腐れ縁ってやつはすごいなあ、と本当に感心した。


「…いいよ。作っても」

「ん?」


今、何て言った?


聞こえたように思う音を脳内でもう一度再生してみたところ、いいよ、作っても、って言ったような?


随分時間が経ってるから、一瞬なんのこっちゃと思ったけど、もしや。


「え?ご飯、作ってくれるの?」


私が思わず目をキラキラさせてそう確認すれば。


「だって、君ってば一人暮らしに必要な家事スキルを全く持ち合わせていないじゃないか」


「そう、そうなの!もしかして、ご飯だけでなく、他の家事も手伝ってくれるの?」


ずうずうしくもそう畳みかけたら、こくん、と頷かれた。


「やったぁ!神様大天使様カミーユ様、だわ!」


「明日仕事帰りに僕の家から少し料理器具とか持ってくるから」


「うんうん、何でも好きにしていいよ」


私が材料費だけでこれから毎日美味しいご飯…とうっとりとしてしまっていて、カミーユがその長身を少し俯かせて顔を赤くしていたなんて気付く繊細さは、持ち合わせていなかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] Xから来ました。 つい読み飛ばしてしまうような文章が無く  するする読めて、気持ちが分かりやすくて大好きです! 毎日沢山UPされているので、それも楽しみです。 頑張って下さい!
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