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オメガだとわかって絶望したのに、気づけば四人の夫に愛されています  作者: チュチュ


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不器用な騎士団長


あの噴水のベンチでの一件から、陽向とレオの「交流期間」が始まった。


神殿の決まりでは、婚姻を決める前に、候補者と一定の時間を過ごすことになっている。


その最初の相手として、陽向はレオを選んでいた。


「本当に、レオハルト様でよろしいのですか」


準備を手伝いながら、リゼットが少し意外そうに聞いてくる。


「あの人数の中から、真っ先にあの方を選ぶ方は、なかなかいませんよ」


「なんとなく、です。うまく説明できないんですけど」


陽向自身、その理由をまだうまく言葉にできずにいた。


とはいえ、交流というものが、こんなにも静かなものだとは思っていなかった。


「今日は、王都の外れを歩いてみようと思っている」


迎えに来たレオの言葉は、それだけだった。


案内されるまま、陽向は石畳の道を並んで歩く。


会話は、ない。


レオは前を向いたまま、たまに陽向の歩幅に合わせて速度を緩めるだけだった。


道の両側には石造りの建物が並び、時折、露店から漂う香草の匂いが鼻をくすぐる。


見るものすべてが珍しく、陽向はきょろきょろと辺りを見回していた。


けれど、その感動を分かち合おうにも、隣のレオは黙って歩き続けるだけだ。


(無言……)


気まずさに耐えかねて、陽向はどうにか話題を探す。


「あの、この道はよく通るんですか」


「たまに」


「……そうですか」


会話はそこで途切れ、また静けさが戻ってくる。


喫茶店に入ったときも、状況は変わらなかった。


窓際の席に案内され、湯気の立つ茶が二つ、テーブルに置かれる。


向かい合って座ったものの、レオは運ばれてきた茶を黙々と飲むばかりだった。


店内に流れる小さな話し声や食器の音だけが、二人の間の沈黙を埋めていく。


これ以上の沈黙には耐えられず、陽向は思い切って口を開く。


「レオさん、何か話しません?」


レオは少し考えるような間を置いてから、答えた。


「……天気はいい」


窓の外は、確かに気持ちのいい晴天だった。


けれど、それだけだった。


続く言葉は、何もない。


「……それだけですか」


「悪いか」


「悪くはないですけど」


思わず陽向が笑ってしまうと、レオは怪訝そうな顔をした。


「何がおかしい」


「いえ、その、レオさんって本当に口数少ないんだなって」


「見れば分かるだろう」


「十分見れば分かります」


そのやり取りに、陽向はまた小さく噴き出してしまった。


レオは相変わらず表情を変えなかったが、耳の先が、少しだけ赤くなっている気がした。


見間違いかもしれない、と陽向は思うことにした。


日が傾き始めた頃、二人は神殿への帰り道についた。


橙色に染まった空の下、行き交う人々の影が長く伸びている。


風が出てきて、陽向は思わず身をすくめる。


薄手の上着一枚では、夕方の冷え込みには心もとなかった。


「……寒いか」


「あ、大丈夫です」


強がってそう言ったが、レオは何も言わずに、自分の外套を脱いだ。


そのまま何も言わず、陽向の肩にかける。


「え、あの」


「風邪をひかれても困る」


それだけ言うと、レオはまた前を向いて歩き出した。


大きめの外套には、まだレオの体温がわずかに残っていた。


その温かさに、陽向は思わず頬が緩むのを感じる。


ふと気づくと、通りを歩く二人の位置も、いつのまにか入れ替わっていた。


人通りの多い道では、レオが必ず車道側に立っている。


誰かとすれ違うときには、さりげなく陽向を建物側へ寄せていた。


言葉での気遣いは、ほとんどない。


けれど体は、いつも先に動いていた。


考えてみれば、噴水のベンチで隣に座ったときも、風向きを気にするように、さりげなく陽向を風下側に座らせていた気がする。


あのときは気づかなかったが、今になって思い返せば、それも同じ癖だったのかもしれない。


(この人、口より先に、体が動くんだ)


その気づきに、陽向は思わず口元を緩める。


不器用という言葉が、これほどしっくりくる人も珍しい。


けれどその不器用さの中に、何か確かなものが隠れている気がした。


神殿の門が見えてくる頃には、行きに感じていたあの気まずさは、もうどこにもなかった。


会話のない時間が、こんなにも心地よく感じられるなんて、陽向自身、少し驚いていた。


門の前でレオが足を止める。


「また、来ていいか」


その問いかけ方は、ひどくぎこちなかった。


まるで、断られることを半分覚悟しているような声だった。


「はい、ぜひ」


即答すると、レオは一瞬だけ、驚いたように目を見開いた。


「今日は、ありがとうございました」


「……ああ」


短い返事だったが、陽向にはもう、それで十分だった。

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