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オメガだとわかって絶望したのに、気づけば四人の夫に愛されています  作者: チュチュ


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花婿候補、多すぎませんか


「最低三名、ですか……」


神殿の一室で、陽向はまだその数字を持て余していた。


フィンが、申し訳なさそうに補足する。


「昔、一人の強いαがΩを独占して、国を割るほどの争いになったことがあるんです」


「その反省から、複数のαと婚姻することで、力が偏らないようにする制度ができました」


「……つまり、僕一人でどうこうできる話じゃないってことですね」


「そういうことです」


フィンは静かに頷いた。


「昔から続く制度ですし、貴族の方々にも広く理解されています。心配なさらなくても大丈夫ですよ」


その言葉に、少しだけ安心してみせる。


けれど内心では、まったく別のことを考えていた。


三人以上の相手と、これから関係を築いていく。


そんなこと、これまでの人生で想像したことすらなかった。


その説明は、頭では理解できた。


けれど、感情の方はまだまったく追いついていなかった。


翌日から、陽向の身の回りは急に慌ただしくなった。


「異世界から現れた、貴重なΩ」という話は、あっという間に王都中に広まったらしい。


王宮、神殿、貴族社会——あらゆる方面から、視線が一気に集まってくる。


そんな中、陽向専属の世話係として現れたのが、侍女のリゼットだった。


「よろしくお願いします、陽向様」


明るい赤毛を一つに束ねた、はきはきとした話し方の女性だった。


貴族の子女らしいが、物腰にどこか気取らない親しみやすさがある。


「気を張らなくて大丈夫ですよ。今日は顔合わせみたいなものですから」


その言葉に、陽向は少しだけ肩の力が抜けるのを感じた。


この世界に来てから、誰かに対等な言葉で話しかけられたのは、これが初めてかもしれない。


「あの、色々分からないことだらけで……よろしくお願いします」


「本音でいいですよ。困ったらいつでも呼んでください」


そう言われて向かった先は、神殿の中庭だった。


「まずは候補者と会うだけの、形式ばらないお茶会です」


神殿の説明は、そんな軽い調子だった。


けれど、中庭に足を踏み入れた瞬間、陽向はその言葉を疑った。


ずらりと並んだ男たちの数は、明らかに「形式ばらない」規模を超えていた。


「Ω様、初めまして。我が家の領地は、この国でも屈指の広さでして」


「私なら、Ω様に最高の暮らしをお約束できます」


「私の家柄をご存じでしょうか。三代前まで遡れば……」


「魔獣討伐で名を上げたのは、我が家の者です。武勇であれば、どこにも負けません」


「Ω様がお望みなら、王都で一番の劇場も貸し切ってご覧に入れますよ」


次々と話しかけてくる声は、どれも似たような響きを持っていた。


自分の身分、財産、家柄。


誰もが、それを競うように語ってくる。


その中には、ひときわ恰幅のよい、白髪交じりの髭を蓄えた壮年の男もいた。


「アイスフェルト侯爵家の当主、ゲルハルトと申します。この国の未来のためにも、Ω様には賢明な選択をしていただきたい」


重々しい声には、有無を言わせない威圧感があった。


長く政治の中心にいた者だけが持つ、独特の圧のようなものが、その一言一言に滲んでいる。


陽向は、笑顔を保ったまま、ただ頷くことしかできなかった。


ゲルハルトは満足げに一つ頷くと、次の相手へと視線を移し、その場を離れていった。


三十分ほど経った頃には、もう誰が誰なのか、まったく覚えられなくなっていた。


(あの人は……金髪侯爵その二、かな)


(さっきの人は、すごい肩幅伯爵)


(あっちは、声だけ妙にいい人)


(さっきから三回同じ自慢してる人は……もう、しつこい伯爵でいいか)


頭の中で、陽向は勝手にそんな分類を始めていた。


もう名前を覚える気力すら残っていなかった。


そうでもしないと、押し寄せる情報量に押しつぶされそうだった。


けれど、次第に気づいたことがあった。


誰一人として、「陽向自身」のことを聞いてこない。


好きな食べ物も、好きな季節も、休みの日に何をしたいかも。


誰も、それを尋ねてはくれなかった。


(誰も、僕が何を好きか聞かないんだ)


その気づきが、じわりと胸の奥に沈んでいく。


大勢に囲まれているのに、どこにも自分の居場所がないような感覚だった。


作り笑いを浮かべ続けた頬が、少しずつ強張っていく。


誰かと目が合うたび、また新しい自己紹介が始まってしまう。


陽向は、逃げ場を探すように、そっと視線を庭の端へと移した。


そこに、一人だけ、様子の違う男がいた。


壁際に立ち、誰とも話さず、こちらに近づいてくる気配すらない。


短く刈り込んだ焦げ茶の髪に、鍛え上げられた長身。


日に焼けた肌には、いくつもの古傷が刻まれている。


他の候補者たちのように着飾ってもいなければ、愛想笑いを浮かべてもいない。


(あの人は、参加する気があるんだろうか)


そう思うくらい、彼はその場から浮いていた。


リゼットが、そっと耳打ちしてくる。


「あちらは、騎士団長のレオハルト様です」


その名前を、陽向はまだ知らなかった。


「話しかけなくていいんですか、あの人」


「さあ……レオハルト様は、こういう場がお好きではないようですから」


リゼットも、少し困ったように肩をすくめる。


けれど、あの壁際の静けさだけが、この賑やかな中庭で唯一、陽向の目を引いていた。


周りの誰もが自分を売り込もうとする中で、ただ一人、何も語ろうとしない男。


けれどその静けさは、疲れ切った陽向の心に、なぜか小さな安らぎのような感覚を残した。

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