四人の夫
審問を終えても、別居の措置は、まだ解かれていなかった。
それでも、四人は動くことをやめなかった。
その日の夕方、四人は人目を避けるようにして、神殿の一室に集まった。
フィンの計らいで、陽向もその場に同席していた。
久しぶりに顔を揃えた四人の表情には、それぞれ違う種類の緊張が浮かんでいた。
「もう、黙って見ていられない」
レオが、真っ先にそう言った。
「俺は、証言と護衛を引き受ける。陽向の言葉に、嘘がないことを、この目で見てきた人間として証言する」
「私は、法律と政治の側面から動きます」
ヴィンスも、すぐに続いた。
「制度上の矛盾点を洗い出し、貴族院で正式に問題提起します。侯爵の主張の穴を、一つずつ潰していきましょう」
「僕は、神殿の古い記録を当たってみます」
フィンが、静かに手を挙げる。
「重婚の制度が生まれた経緯や、過去の判例を調べれば、今回の疑惑に反論する材料が見つかるかもしれません」
「俺は、転移現象と第二性の関係を、研究資料としてまとめる」
カイも、いつになく真剣な顔で言った。
「陽向が特殊な存在だってことを、感情論じゃなく、データで示せば、少しは説得力が増すはずだ」
四人は、それぞれまったく違う得意分野から、同じ一点を目指し始めていた。
「陽向本人の意思が、最優先されるべきだ」
その一点だけは、誰の言葉にも共通していた。
かつては、互いに顔も知らない、時に恋敵として警戒し合っていた四人だった。
出会った頃を思えば、想像もできない変化だった。
それが今は、一つの目的のために、迷いなく力を合わせている。
その光景を眺めながら、陽向は胸が熱くなるのを感じていた。
数日間、それぞれの持ち場で、慌ただしい日々が続いた。
レオは騎士団関係者への聞き取りに奔走し、ヴィンスは連日、貴族院との交渉を重ねた。
フィンは神殿の書庫にこもり、古い文献を漁り続けた。
カイは、研究室にこもりきりで、資料をまとめていた。
進捗を共有するため、四人は数日おきに、神殿の一室で落ち合うようになっていた。
そんなある日の集まりで、カイが突然、苛立たしげに立ち上がった。
「ちょっと、アイスフェルト侯爵の屋敷に、乗り込んでくる」
椅子を蹴倒す勢いで立ち上がったカイに、三人が同時に反応した。
「待て」
「駄目です」
「それは悪手ですよ」
レオ、フィン、ヴィンスの声が、見事に重なった。
三人がかりで、あっという間にカイは取り押さえられる。
腕を掴まれ、椅子に押し戻されるカイの姿に、陽向は思わず目を丸くした。
「なんでだよ! 直接文句言った方が早いだろ!」
「相手の思う壺です」
ヴィンスが、冷静にそう指摘する。
「短気を起こせば、それだけで囲い込みの疑いに、真実味を持たせてしまう」
「頭を冷やせ」
レオが、低い声でそう釘を刺す。
「落ち着いてください、カイ殿」
フィンも、困り顔で加勢した。
三人がかりで説得され、カイは不満げに頬を膨らませる。
「夫が三人いると、怒られる回数も三倍なんだけど」
「四人目なんだから、四倍では?」
ヴィンスが、澄まし顔でそう訂正すると、カイはますます不貞腐れた顔になった。
その様子に、陽向は思わず噴き出してしまう。
張り詰めていた空気が、少しだけ和らいだ瞬間だった。
不貞腐れながらも、カイは結局、大人しく席に座り直していた。
けれど、その和やかさの奥で、四人の目には、確かな決意が宿っていた。
もう二度と、誰にも、この家族を引き裂かせはしない。
その思いだけは、四人とも、揺るぎないものになっていた。
夕暮れの神殿を出るとき、陽向は四人の背中を、そっと見つめた。
それぞれ違う方向へ帰っていく背中を見送りながら、早く一緒に暮らせる日が来てほしいと、切実に思った。




