僕の話を聞いてください
審問の間には、重々しい空気が満ちていた。
高い天井から差し込む光が、居並ぶ人々の緊張した顔を、青白く照らしている。
陽向への召喚状には「お一人で」とあったが、婚姻の当事者としてレオ、ヴィンス、フィン、カイにも、それぞれ別に召喚状が届いていたという。
会場に着くと、四人はすでに、緊張した面持ちで並んで待っていた。
正面の高座には、神殿と王宮から派遣された数名の審問官が並んでいる。
その脇には、アイスフェルト侯爵の姿もあった。
腕を組み、値踏みするような視線を、こちらへ向けている。
「本日は、婚姻の経緯について、確認をさせていただきます」
審問官の一人が、そう切り出す。
視線は、陽向ではなく、傍らに並んで立つレオ、ヴィンス、フィン、カイへと向けられていた。
「まず、レオハルト殿。あなたが最初の夫となった経緯を」
促されたレオが、口を開こうとする。
「待ってください」
その声を遮るように、陽向が一歩前に出た。
心臓が、痛いくらいに早鐘を打っている。
それでも、足は止まらなかった。
審問官たちが、意外そうな顔で陽向を見る。
「どうして、夫たちに聞くんですか」
震える声だったが、はっきりとした問いだった。
「結婚したのは、僕なんです」
その場にいた誰もが、一瞬、言葉を失った。
隣に立つレオが、驚いたように陽向を見つめている。
「経緯を話すなら、僕から話します」
陽向は、審問官たちを、まっすぐに見据えた。
胸の奥から、これまでの記憶が、次々と溢れてくる。
「一人目のレオさんを選んだのは、あのお茶会で、彼だけが僕自身の気持ちを聞いてくれたからです」
「他の誰も、僕が何を望むかなんて、聞いてくれませんでした。レオさんだけが、それを聞いてくれた」
一言一言、確かめるように、陽向は言葉を紡いでいく。
「二人目のヴィンスさんは、最初は政治的な思惑があったと知りました。それでも、僕を守るために、自分の立場を危険に晒してまで動いてくれた。その姿を見て、僕は彼を選びました」
ヴィンスが、静かに目を伏せる。
「三人目のフィンさんは、神官という立場上、本来は結婚しない方でした。それでも、僕は彼のことが好きで、選びたいと思いました。神様が決めたからじゃありません。僕がそう望んだからです」
フィンの肩が、微かに震えているのが見えた。
三人分の理由を語り終えると、陽向は一度、大きく息を吸った。
「そして、四人目のカイさんは」
声が、一瞬だけ詰まる。
けれど、すぐに、揺るぎない声が続いた。
「四人目は、制度上、必要ありませんでした」
審問の間に、微かなざわめきが走る。
「法律上は、もう三人で足りていました。それでも、僕がカイさんに、いてほしいと思ったんです」
「必要だからじゃありません。好きだから、夫になってもらいました」
その言葉に、審問官たちが、顔を見合わせる。
陽向は、さらに続けた。
「僕は、この世界に来る前、自分がΩだと分かったとき、家族にすら打ち明けられませんでした」
その告白に、レオたちが、はっとしたように陽向を見る。
「Ωであることが、恥ずかしくて、怖くて、誰にも言えなかった」
声は震えていたが、止まらなかった。
あの検査室で告げられた瞬間の記憶が、鮮やかに蘇る。
けれど今は、あの頃とは違う自分が、ここに立っていた。
「でも今は違います」
陽向は、審問の間にいる全員を、まっすぐに見渡した。
「僕はΩです。そして、この四人を、愛しています」
はっきりとした、迷いのない声だった。
その声は、高い天井にまで、静かに響き渡った。
その一言に、審問の間は、しばらく静まり返った。
かつて、自分の性を口にすることさえできなかった少年が、今、大勢の前で、堂々とそう告げている。
その姿を見つめるレオ、ヴィンス、フィン、カイの目に、驚きと、それ以上の誇らしさが浮かんでいた。
フィンは、そっと目元を押さえていた。
カイは、まぶしいものを見るような目で、陽向を見つめている。
アイスフェルト侯爵だけが、複雑な表情で、陽向を見つめていた。
その顔には、苛立ちとも、戸惑いとも、あるいは別の何かともつかない感情が、静かに揺れていた。
審問官たちは、しばらく顔を見合わせたあと、一人が咳払いをして口を開いた。
「……本日のところは、以上とさせていただきます」
その言葉に、張り詰めていた空気が、わずかに緩んだ。
けれど、これで終わりではないことを、陽向は分かっていた。
それでも、自分の言葉で、ここまで語れたという実感だけが、確かに胸の中に残っていた。




