五人を離す命令
調査が本格化するにつれて、神殿と王宮は、一つの決定を下した。
その知らせは、思いのほか早く、屋敷に届いた。
「疑いを避けるため、しばらくの間、皆様には別々にお過ごしいただきます」
その通達に、屋敷の空気が凍りついた。
「離れる、というのは」
陽向の問いに、使者は淡々と答えた。
「共同での囲い込みを疑われている以上、同居の継続は、心証を悪くしかねません。調査が終わるまでの、一時的な措置です」
事務的な口調が、かえって現実味を帯びて響く。
抗議しようとするレオを、ヴィンスが目で制した。
「ここで反発すれば、かえって疑いを強めるだけです」
苦渋の表情で、ヴィンスがそう言った。
こうして、四人はそれぞれの持ち場へと戻ることになった。
レオは騎士団の宿舎へ。
ヴィンスは王宮の官舎へ。
フィンは神殿へ。
カイは魔術塔へ。
荷物をまとめるレオに、オズワルドが声をかけられた。
「旦那様に付いていくよう、指示を受けておりますが」
「私は旦那様の従者であると同時に、陽向様にお仕えする者です」
オズワルドは、きっぱりとそう言い切った。
「一人残られる陽向様のおそばに、私は残ります」
その言葉に、レオは一瞬驚いた顔をしたが、やがて小さく頷いた。
「……頼む」
四人が出立したあと、屋敷には、これまでにない静けさが訪れた。
夕食の時間、陽向は一人、食堂の椅子に腰を下ろした。
長い食卓には、五つの椅子が並んでいる。
けれど、座っているのは、自分一人だけだった。
オズワルドが、いつも通り静かに給仕をしてくれる。
その気遣いだけが、今の陽向にとって、唯一の救いだった。
かつて、この席を巡って四人が賑やかに言い合っていたことを思い出す。
「今日は俺がこの席だ」と言い張るカイの声。
「席順くらいで」と困り顔で仲裁するフィンの声。
その騒がしさが、今はどうしようもなく恋しかった。
最初にこの世界に来た頃も、こんな風に一人で食事をしていたはずだった。
なのに今は、あの頃とは比べ物にならないほど、静けさが胸に堪えた。
「……いただきます」
誰もいない部屋に、自分の声だけが、小さく響いた。
一方、それぞれの場所でも、四人は落ち着かない日々を送っていた。
騎士団の宿舎で、レオは机に向かい、便箋を睨んでいた。
「陽向へ」
「変わりないか。俺は」
そこで、ペンが止まる。
何度書き直しても、その先の言葉が続かない。
丸めては捨てた便箋が、机の周りにいくつも転がっていた。
何を書けばいいのか分からず、結局、三行で手が止まったまま、便箋は真っ白のままだった。
同室の部下が、心配そうに顔を覗かせる。
「団長、大丈夫ですか」
「……問題ない」
そう答えるレオの声は、いつもより明らかに元気がなかった。
王宮の官舎では、ヴィンスが、驚くべき速さで書類を片付けていた。
「今月中の案件、すべて終わりました」
部下が、目を丸くして報告してくる。
「そうですか」
ヴィンスは、涼しい顔でそう答えたが、内心では、この効率の良さの理由を、誰にも説明できずにいた。
考え事をする暇があるくらいなら、手を動かしていた方がましだった。
神殿では、フィンが祈祷の言葉を唱えながら、何度も詰まっていた。
「どうか、この国に安寧を。そして、陽向様が……いえ、皆様が、どうか健やかに」
口をついて出るのは、いつも陽向の名前ばかりだった。
隣で祈っていた同僚の神官が、目を細めてこちらを見ているのにも、フィンは気づいていなかった。
魔術塔では、カイが、遠見の術を使って屋敷を覗こうとし、上司にこっぴどく叱られていた。
「監視対象でもない屋敷を覗くとは、何を考えているんですか」
「いや、ちょっと様子が気になっただけで……」
「謹慎、二日」
「厳しくない!?」
抗議するカイを尻目に、上司はさっさと部屋を出ていってしまう。
一人残されたカイは、机に突っ伏して、深いため息をついた。
そんな風に、それぞれの場所で、四人は落ち着かない時間を過ごしていた。
そして数日後、陽向のもとに、一通の召喚状が届いた。
審問への出頭を求める、正式な書状だった。
「陽向様お一人で、お越しください」
その一文に、陽向は思わず、腕輪をぎゅっと握りしめた。
これまでは、いつも誰かが、隣で守ってくれていた。
レオの背中に、ヴィンスの言葉に、フィンの静けさに、カイの明るさに、いつも支えられてきた。
けれど今度は、自分一人で、立ち向かわなければならない。
オズワルドが、静かに隣に控えている。
「陽向様なら、大丈夫です」
短いその一言に、陽向は小さく頷いた。
「今度は、僕が話す番だ」
静かな決意を胸に、陽向は召喚状を、しっかりと握りしめた。




