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オメガだとわかって絶望したのに、気づけば四人の夫に愛されています  作者: チュチュ


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四人で囲い込んだΩ


穏やかな日々が、しばらく続いていた。


四人との生活にもすっかり慣れ、屋敷には笑い声が絶えなかった。


朝食の席での小競り合いも、夜のチェスの対局も、もはや日常の一部として、すっかり馴染んでいた。


けれどその静けさは、社交界の片隅から静かに崩れ始めていた。


きっかけは、貴族院での小さな噂話だったという。


「あの重婚、本当に権力分散と呼べるのだろうか」


そんな声を、ヴィンスが政務の合間に耳にしたのが、最初だった。


最初は聞き流していたヴィンスも、同じ話を何度も耳にするうちに、次第に看過できなくなっていった。


「陽向様は、四人の有力アルファによって、共同で囲い込まれているのではないか」


その噂は、瞬く間に社交界へと広がっていった。


お茶会や夜会のたびに、誰かがひそひそとその話題を口にするようになったという。


一人のアルファによる独占ではない。


それは確かだった。


タブーとされる「囲い込み」の定義そのものには、厳密には当てはまらないはずだった。


けれど、騎士団長、宰相、高位神官、宮廷魔術師。


いずれもこの国の中枢を担う四人が、たった一人のΩと婚姻している。


その事実が、別の角度からの疑念を生んでいた。


「これは、本当に権力分散と呼べるのか」


そんな声が、貴族院の一部で、確かな広がりを見せているという。


屋敷に戻ったヴィンスから、その話を聞いた陽向は、しばらく言葉を失っていた。


サロンの空気が、一瞬にして張り詰めたものに変わる。


「囲い込み、なんて……」


自分たちのどこが、そう見えるというのだろう。


戸惑いと反発が、同時に込み上げてくる。


「単純な悪意なら、まだ対処のしようがあります」


ヴィンスの表情は、いつになく険しかった。


「事実無根だと突っぱねることも、法的に反論することもできるでしょう」


「けれど、これは筋の通った疑問でもある。だからこそ、厄介なんです」


正論めいた指摘には、真っ向から否定するだけの隙がない。


「誰が、そんな噂を広めているんでしょうか」


陽向の問いに、ヴィンスは少し言い淀んだ。


「まだ確証はありませんが……アイスフェルト侯爵が、貴族院で繰り返しこの話題を取り上げているようです」


その名前に、陽向は微かな記憶を辿る。


あのお茶会で、重々しい声で求婚してきた、恰幅のいい老貴族。


領地も爵位も申し分ない、自信に満ちた態度が印象的だった。


「あの人、まだ僕のことを覚えていたんですね」


「忘れるはずがありません。あなたを射止めそこねたことは、彼にとって、今も小さくない傷でしょうから」


ヴィンスの言葉には、皮肉と警戒が入り混じっていた。


「もっとも、本人はあくまで国のためだと主張するでしょうが」


「ですが、彼の主張には、個人的な感情だけでは片付けられない部分もあります」


「過去に、一人のΩを巡って国が割れかけた歴史がある以上、権力の集中には、誰もが敏感にならざるを得ません」


その説明に、陽向の胸に、ずしりとした重みが落ちてくる。


自分たちの婚姻は、確かに、自分の意思で重ねてきたものだった。


一人ずつ、時間をかけて、それぞれの理由で選んできた相手だった。


けれど、その結果として生まれた形が、かつての争乱の火種と、同じように見えてしまう可能性がある。


それは、これまで考えたこともない視点だった。


「僕たちは、幸せに暮らしているだけなのに」


小さく漏らした呟きに、ヴィンスは静かに首を振った。


「幸せであることと、それが制度として正しいかどうかは、また別の話かもしれません」


その言葉が、陽向の中に、重く沈んでいった。


これまで、四人との暮らしを、ただ大切に積み重ねてきただけだった。


けれど、その積み重ねが、思いもよらない形で問い直される日が来るとは、想像していなかった。


穏やかだった屋敷の空気に、初めて、はっきりとした不安の影が差し込んでいた。


その夜、レオとフィン、カイにも、同じ話が伝えられた。


「囲い込み、ね」


カイが、珍しく真剣な顔で腕を組む。


「言いがかりにしても、質が悪いな」


「誰かの言いがかりで、済むなら楽なんですが」


フィンも、静かに眉を寄せた。


「俺たちが、何かした証拠でもあるのか」


レオが、低い声でそう言い放つ。


「証拠ではなく、構図の問題なんです」


ヴィンスが、静かに補足する。


「事実がどうあれ、この国の中枢を担う四人が、一人のΩと婚姻している。その構図自体が、疑念を生む土壌になっている」


四人それぞれの表情に、困惑と苛立ちが浮かんでいた。


けれど、誰一人として、簡単な答えを持ち合わせてはいなかった。

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