四つ目の宝石
婚姻の儀式は、神殿の祈祷堂で、これまでと同じように静かに執り行われた。
参列したのは、レオ、ヴィンス、フィンの三人と、オズワルドやリゼットといった、屋敷の親しい人々だけだった。
窓から差し込む光が、祈祷堂の床に、柔らかな影を落としている。
これで四度目になる儀式にも、慣れてきたはずなのに、陽向の胸は、いつもと変わらず高鳴っていた。
神官長の祈りの言葉とともに、陽向の腕輪に、また新しい光が集う。
やがてその光は、温かな琥珀色の輝きを持つ石へと形を変えた。
トパーズだった。
同時に、カイの首元にも、同じ琥珀色の石が嵌め込まれた飾りが現れる。
四つの宝石が並んだ腕輪を、陽向はしばらく、じっと見つめていた。
青、紫、翠、そして琥珀。
色も形も違う四つの石が、一本の腕輪の上で、静かに寄り添っている。
指先でそっと腕輪をなぞると、それぞれの石が、わずかに異なる手触りを返してきた。
その光景は、そのまま、この家族の在り方を表しているようだった。
儀式のあと、屋敷のサロンに戻ると、カイは早速、得意げな顔を四人に向けた。
胸元の琥珀の飾りを、これ見よがしに指先でつつきながら、満足げに笑っている。
「これで俺も、正式な夫だから」
胸を張ってそう宣言するカイに、レオが淡々と返す。
「一番後だ」
「……え、順位あるの?」
途端に不安げな顔になるカイに、ヴィンスがすかさず口を挟んだ。
「ありません」
「ありませんよ」
フィンも、同時にそう続ける。
三人の声が、見事に重なった。
「じゃあ、なんでレオはあんなこと言うんだよ」
「事実を言っただけだ」
「それが嫌味だって言ってるの!」
食ってかかるカイに、レオはどこ吹く風といった様子だった。
「……言葉のままだ。他意はない」
「絶対あるでしょ、その間」
やり取りを見ていたヴィンスが、堪えきれずに小さく吹き出す。
給仕をしていたオズワルドも、澄まし顔のまま、小さく肩を震わせていた。
「賑やかになりましたね、この屋敷も」
誰にともなく、そう呟く声が聞こえる。
そんな賑やかなやり取りに、陽向は思わず声を上げて笑ってしまった。
四人がこうして揃って、他愛のないことで言い合う光景が、なんだか無性に愛おしかった。
騎士団長、宰相、神官、そして魔術師。
まったく違う立場、まったく違う性格の四人が、今、こうして一つの家族になっている。
出会った順番も、選んだ理由も、それぞれまったく違う。
それでも、こうして一つの屋根の下に集っていることが、不思議で、かけがえのないことに思えた。
その事実が、じんわりと胸に染みわたっていく。
「これで、全員揃いましたね」
ヴィンスが、穏やかな声でそう言った。
「揃った、じゃなくて、揃えたんだよ、陽向が」
カイが、そう訂正するように付け加える。
その言葉に、陽向は小さく頷いた。
誰かに与えられた運命ではなく、自分の意思で選び、重ねてきた四つの出会い。
その積み重ねが、今、腕輪の上で輝いている。
窓の外では、夕暮れの光が、少しずつ部屋の中を橙色に染めていった。
その柔らかな光の中で、四人の笑い声が、いつまでも響いていた。
四人との婚姻は、こうして無事に完成した。
長かった道のりを思うと、陽向の胸には、達成感と、それ以上の温かさが満ちていた。
検査でΩだと告げられたあの日から、ここまで、本当に色々なことがあった。
絶望も、戸惑いも、喜びも、全部を経て、今この場所に立っている。
けれど、世間はこの家族を、ただ「幸せな五人」とだけ見てくれるほど、優しくはなかった。
穏やかな日々の裏側で、静かに、確かに、新しい波紋が広がり始めていることに、この時の陽向は、まだ気づいていなかった。




