必要じゃない。でも
翌日、陽向は魔術塔にいるカイのもとを、自ら訪ねることにした。
見上げるほど高い塔は、独特の緊張感を漂わせていた。
塔の入り口で取り次いでもらうと、カイは驚いた顔で降りてきた。
「陽向? どうしたの、こんなところまで」
いつもの軽い口調を装ってはいたが、その目は明らかに戸惑っていた。
「話したいことがあって来ました」
陽向は、まっすぐにカイを見据える。
その真剣さに、カイは少しだけ身構えたようだった。
塔の外の、人気の少ない庭園まで、二人は移動した。
石造りのベンチに、少し距離を置いて座る。
「この前は、ごめんなさい」
まず、陽向はそう切り出した。
「言い方が、悪かったです」
「いや、別に。事実だし」
カイは、いつものように、へらりと笑ってごまかそうとする。
「気にしてないから、大丈夫」
「気にしてます、僕が」
陽向は、それを遮るように、はっきりと言った。
「カイがいなくても、法律上は困りません」
あえて、もう一度その言葉を口にする。
カイの表情が、わずかに強張った。
「……それ、わざわざ言いに来たの」
自嘲するような声だった。
「最後まで聞いてください」
陽向は、それを制するように続けた。
「でも」
陽向は、続ける。
「いてほしいんです」
「……え」
「法律とか、制度とか、そういうのは関係なく。僕が、カイに、いてほしいんです」
まっすぐな声だった。
「夫になってほしいです」
その言葉に、カイは、しばらく言葉を失っていた。
いつもの飄々とした表情が、完全に消えていた。
風が、二人の間を静かに通り抜けていく。
「必要かどうかじゃなくて、好きだから。それだけの理由で、僕はカイを選びたいです」
これまでの三人は、それぞれ違う経緯があった。
制度の中で出会い、政治の中で結ばれ、信仰の狭間で選び合った。
そのどれもが、大切な出会いだったことに変わりはない。
けれど今、陽向は初めて、ただ純粋な想いだけを理由に、誰かを選ぼうとしていた。
誰に強制されたわけでも、事情に背中を押されたわけでもなく、ただ自分の心が、そう望んでいた。
「……ずるいよ、それ」
かすれた声で、カイがようやく口を開いた。
顔を背けながら、乱暴に目元を拭う仕草が見えた。
「そんな風に言われたら、断れるわけないだろ」
その声には、隠しきれない震えが滲んでいた。
「断らなくていいです。受け取ってくれれば」
陽向がそう言うと、カイは、くしゃりと顔を歪めて笑った。
これまで見た、どの笑顔とも違う、飾らない表情だった。
「……ありがとう」
小さく、けれどはっきりと、カイはそう呟いた。
屋敷に戻ると、その日のうちに、陽向はカイを連れて、レオとヴィンス、フィンにも報告をした。
顔合わせも兼ねて、カイも一緒に来てもらうことにしたのだ。
サロンに三人を集め、陽向は少し緊張しながら口を開く。
「カイを、四人目の夫に迎えたいと思います」
三者三様の反応が返ってくる。
「……騒がしくなるな」
レオが、ため息交じりにそう言った。
「今でも十分だと思いますが」
ヴィンスが、苦笑しながら付け加える。
「では、お部屋を用意しましょう」
フィンだけは、あっさりとそう申し出た。
「もう空いている部屋の位置も、大体分かっていますので」
「……もう、俺が住む前提なんだ」
隣で聞いていたカイが、思わず声を上げる。
「当然でしょう」
フィンが、澄まし顔でそう返す。
「早いよ、話が」
「陽向様が決めたことですから」
その様子に、陽向は思わず笑ってしまった。
「四人目か。前途多難な気がするけど」
レオが、腕を組んだまま、ぼそりと呟く。
「今更でしょう、それは」
ヴィンスが、すかさず切り返した。
賑やかな声が飛び交うサロンに、また一つ、新しい温かさが加わろうとしていた。




