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オメガだとわかって絶望したのに、気づけば四人の夫に愛されています  作者: チュチュ


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観察対象、陽向


フィンとの婚姻が公になってしばらく経った頃、王宮の魔術師団から、一通の通達が届いた。


「異世界からの転移者であるΩ様について、魔力的な観測と保護を行いたく存じます」


「つきましては、専属の魔術師を一名、派遣させていただきます」


その知らせに、屋敷の面々は、それぞれ怪訝な顔を見合わせた。


「観測、とは」


ヴィンスが、書状を読みながら首を傾げる。


「異世界からの転移という現象自体、前例がないものですから。魔力構造がどう変化するか、専門家の目で見ておきたいということでしょう」


もっともらしい説明だったが、陽向はどこか落ち着かない気分だった。


「観測って、具体的に何をされるんでしょう」


「魔力の流れを見たり、簡単な検査をしたりする程度だと思います」


フィンが、努めて穏やかにそう説明してくれる。


「危険なことはないはずですが、念のため、僕も同席しましょうか」


「頼めるか」


レオも、真剣な顔で頷いた。


家族全員が、それとなく身構えているのが、陽向にも伝わってくる。


これまでのお茶会や婚姻とは違う、また新しい形での関わりが、静かに始まろうとしていた。


数日後、屋敷を訪れたのは、明るい銀髪を無造作に流した、まだ若い青年だった。


魔術師のローブを着崩し、指先には小さな魔力の光を絶えずまとわせている。


年齢のわりに幼く見える顔立ちに反して、宮廷魔術師団の紋章が、その胸元で堂々と輝いていた。


「はじめまして。宮廷魔術師団のカイル。カイって呼んで」


人懐こい笑みを浮かべながら、遠慮なく陽向へ近づいてくる。


その距離の詰め方に、陽向は思わず一歩、後ずさった。


「あの、よろしくお願いします」


「うん、よろしく。話には聞いてたけど、本当に別世界から来た子なんだ」


カイは、興味津々といった様子で、陽向の顔を覗き込む。


「見た目は、普通にこっちの人間と変わらないんだね」


「……そう、ですね」


じろじろと観察される居心地の悪さに、陽向は思わず視線を逸らした。


「さっそくだけど」


カイは、にこやかな笑顔のまま、陽向の髪に手を伸ばしかけた。


「髪の毛、一本もらっていい?」


「……嫌です」


「え、なんで。魔力の残留物を調べるのに、一番手っ取り早いんだけど」


「理由があっても、嫌なものは嫌です」


「じゃあ、血は?」


「もっと嫌です」


「爪とか」


「帰ってください」


「まだ何も持ち帰れてないんだけど」


あまりに遠慮のない要求の連続に、陽向はとうとう本気で距離を取った。


カイは、それでも気にする様子もなく、興味深そうに陽向を眺め回している。


「そういう反応も、参考になるんだよね。ストレス反応が、この世界の人間とちょっと違う気がする」


「観察対象みたいに言わないでください」


「観察対象だよ、今のところは」


あっけらかんと言い切るカイに、陽向は言葉を失った。


その様子を、部屋の隅で見ていたレオが、じろりとカイを睨みつける。


「危険はないんだろうな」


「危険もなにも、ただの調査だよ。信用ないなあ、騎士団長さん」


軽い調子で受け流すカイに、レオの眉間の皺が、さらに深くなった。


「お前の目つき、俺を敵か何かだと思ってる目だ」


「思い過ごしでは」


「絶対、そうじゃない」


低い声でそう言い切るレオに、カイは肩をすくめてみせる。


ヴィンスも、笑顔の奥に、いつもより鋭い警戒を滲ませている。


「魔術師団随一の実力者だと伺っておりますが、少々、距離感に難がおありのようですね」


「よく言われる」


悪びれる様子もなく、カイはあっさりと認めた。


フィンだけは、困ったように苦笑を浮かべている。


「カイ殿は、昔からこういう方なんです」


「フィンまで、酷くない?」


「事実を言ったまでです」


「魔術塔にいた頃から、変わってないってことでしょ」


「否定はしません」


穏やかな口調のまま、フィンが淡々と切り返す。


その様子から、二人が以前から見知った仲であることが窺えた。


「二人は、知り合いなんですか」


陽向が尋ねると、カイは軽い調子で頷いた。


「神殿と魔術塔って、意外と交流あるんだよね。儀式に魔力計算が絡むことも多いし」


そんなやり取りを眺めながら、陽向は密かに思う。


この魔術師とは、どうやら一筋縄ではいかなさそうだ、と。


夫三人の警戒をよそに、カイは屋敷の中を、興味津々といった様子で見回していた。


「へえ、これが重婚家庭の屋敷か。噂には聞いてたけど、思ったより普通だね」


誰に言うでもなく、そんな呟きを漏らしながら、あちこちに視線を巡らせている。


天井の意匠や、飾られた調度品まで、一つ一つ物珍しそうに眺めていくその姿は、まるで好奇心旺盛な子どものようでもあった。


けれど時折、ふと真剣な目つきになる瞬間があることに、陽向は気づいていなかった。


「それじゃ、また来るね。次はちゃんと道具持ってくるから」


軽い調子でそう言い残し、カイは颯爽と屋敷を後にした。


嵐のような来訪者が去ったあと、サロンにはしばらく、気の抜けたような沈黙が漂っていた。


「……疲れた」


陽向が思わずそう漏らすと、レオが無言で頷き、ヴィンスも珍しく肩をすくめてみせた。


その無邪気にも見える態度の奥に、何が隠れているのか、この時の陽向には、まだ知る由もなかった。

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