夫二人、恋の応援を始める
あの日から、陽向はどこか元気がなかった。
食事の量も心なしか減り、笑う回数も少なくなっている。
表向きは普段通りに振る舞っているつもりでも、ふとした瞬間に、視線が遠くなる。
そんな様子を、レオとヴィンスは見逃さなかった。
陽向が湯浴みに立った隙を見計らい、二人はサロンでひそひそと話し込んでいた。
「このままにしておくのは、よくない」
レオが、腕を組んで低く唸る。
「同感です。とはいえ、正直なところ」
ヴィンスが、珍しく言い淀む。
「面白くはありません」
「……お前もか」
「当然です。私だって、陽向様が他の誰かに心を寄せているのを、平気で見ていられるほど、できた人間ではありませんので」
嫉妬を隠さず、ヴィンスはあっさりとそう認めた。
「俺も、同じだ」
レオも、素直に頷く。
腕を組んだまま、少しばつが悪そうに視線を逸らした。
二人とも、フィンとの仲が進展することを、手放しで喜べるわけではなかった。
それでも、俯きがちな陽向の顔を思い浮かべると、このままにはしておけない。
「呼んでくる」
レオが、立ち上がろうとする。
「待ちなさい」
ヴィンスが、素早くその腕を掴んだ。
「あなたが直接乗り込んだら、それはもう求婚ではなく、脅迫です」
「別に、脅すつもりはない」
「顔と気迫だけで、十分脅迫的なんですよ、あなたは」
「……そうか」
心なしかしょげるレオに、ヴィンスは呆れたようにため息をつく。
「では、どうする」
「恋愛には、段取りというものがあります」
ヴィンスは、指を一本立てて、もったいぶった調子で続けた。
「まずは、フィン殿の本心を、それとなく探ることから始めましょう」
「回りくどい」
「不器用よりは、ましです」
「では、具体的にどうする」
「手紙を送り、それとなく世間話に紛れさせながら、陽向様への気持ちを確かめる。それから――」
「もう待てない。俺が直接聞く」
「今、待てと言ったばかりでしょう」
「段取りとやらが、遅すぎる」
「気が短いにもほどがあります」
言い合いを続ける二人の声は、次第に大きくなっていった。
そんなやり取りを交わしていたところに、湯浴みを終えた陽向が戻ってきた。
「あの、二人とも何してるんですか」
神妙な顔を突き合わせている二人を見て、陽向は思わず声をかける。
「これは……」
「作戦会議です」
ヴィンスが、涼しい顔で答えた。
「作戦?」
「陽向様とフィン殿の仲を、取り持とうかと」
あまりに率直な返答に、陽向は言葉を失った。
「え、待ってください、二人とも嫌じゃないんですか」
「嫌に決まってるだろう」
レオが、即座にそう答える。
「正直、腹の中は穏やかではありません」
ヴィンスも、隠さずそう続けた。
「けど、お前が沈んだ顔をしてる方が、もっと嫌だ」
レオの一言に、陽向は思わず息を呑んだ。
「私たちにとっても、フィン殿は、いずれ家族になるかもしれない相手です」
ヴィンスが、穏やかな声で続ける。
「敵として蹴落とすのではなく、迎え入れる形で、力になりたいと思っています」
その言葉に、陽向の胸が、じんわりと熱くなる。
自分のために、嫉妬を抱えながらも、それを表に出さず、力になろうとしてくれている。
そんな二人の不器用な優しさが、たまらなく愛おしかった。
「……二人とも、変わってますよ、本当に」
呆れ半分、感謝半分でそう漏らすと、レオとヴィンスは顔を見合わせた。
「褒め言葉として受け取っておく」
「同じく」
「ただし」
ヴィンスが、一転して真剣な顔になる。
「これは、あくまで陽向様の背中を押すための手助けです。最終的にどうするかは、あなた自身が決めてください」
「僕が、ですか」
「あなた以外に、誰が決めるんですか」
レオも、静かに頷いた。
その言葉に、陽向は改めて、自分の足で立っていいのだと感じた。
そんな二人の様子に、陽向は久しぶりに、心の底から笑うことができた。




