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オメガだとわかって絶望したのに、気づけば四人の夫に愛されています  作者: チュチュ


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11/30

帰りたい場所


その日、陽向は神殿でΩに関する定期的な検診を受けることになっていた。


「昼過ぎには戻ります」


そう言って出かけたはずが、検診のあとフィンに会ったので、この世界の暦や制度について質問攻めにしてしまった。


「フィンさんの生まれた村って、どんなところなんですか」


「重婚の記録は、どのくらい前まで遡れるんですか」


聞きたいことが次々と浮かんできて、気づけば時間を忘れて話し込んでいた。


気づけば、予定していた時間をとっくに過ぎている。


「すみません、つい長居してしまって」


「いえ、僕も楽しかったです。また来てください」


フィンの見送りを受けて神殿を出る頃には、空はすでに茜色に染まっていた。


一方その頃、レオの屋敷では。


「旦那様、また玄関を確認されるのですか」


オズワルドの声に、レオはびくりと肩を揺らした。


「……別に、様子を見ているだけだ」


「そうですか。ちなみに、これで七回目でございます」


「数えていたのか」


「数えたくなくても、目に入りますので」


涼しい顔でそう言うオズワルドに、レオは何も言い返せなかった。


窓の外を、何度も何度も確認してしまう。


日はとっくに傾き、通りを歩く人影もまばらになっていた。


いつもより少し遅いだけだ、と頭では分かっている。


それでも、じっとしていられなかった。


万が一、何かあったのではないか。


道に迷っているのではないか、あるいは誰かに絡まれているのではないか。


そんな考えが、拭っても拭っても浮かんでは消える。


「心配なら、迎えに行かれてはいかがです」


「……大げさにする必要はない」


そう言いながらも、レオの視線は玄関扉に釘付けのままだった。


そんなやり取りが、もう何度目になるだろうか。


ようやく、扉の向こうから足音が聞こえてきたのは、それから間もなくのことだった。


「ただいま帰りました、遅くなってすみません」


息を切らせて戻ってきた陽向を見て、レオは立ち上がる。


その拍子に、椅子が小さな音を立てて揺れた。


「……遅い」


たったそれだけの言葉だった。


けれど、その硬い声の奥に、隠しきれない安堵が滲んでいるのが分かった。


「すみません、話が長引いてしまって」


「……そうか」


「ただいま」


陽向が改めてそう言うと、レオは少しの間を置いてから、短く返した。


「……ああ」


たったそれだけのやり取りだった。


けれど、その一言に、陽向の胸はじんわりと温かくなる。


「おかえり」とは言われなかった。


けれど、帰りを待ってくれている人がいる。


「ただいま」と言える場所がある。


そんな当たり前のことが、この異世界では、まだどこか特別なことのように感じられた。


日本にいた頃、実家を出て一人暮らしを始めてからは、誰かが帰りを待ってくれていることはなかった。


電気のついていない部屋に一人で帰る夜が、当たり前になっていた。


それが、こんなにも心を満たすものだったとは、今まで知らなかった。


ここが、自分の帰る場所になっている。


その実感が、じんわりと胸に染み渡っていく。


「今度からは、遅くなるときは連絡します」


「……頼む」


素直にそう言うレオがおかしくて、陽向は小さく笑った。


けれど、その穏やかな空気は、長くは続かなかった。


「陽向様、王宮より使者が参っております」


オズワルドの声に、二人は顔を見合わせる。


穏やかだった空気が、一瞬にして張り詰めたものに変わった。


「王宮から、僕に……?」


嫌な予感と、少しの好奇心が入り混じる。


レオも、わずかに眉をひそめていた。


その使者が告げた用件が、陽向をやがて、もう一人の男との出会いへと導くことになる。

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