第3話 夢だったはず
「……と、木里 ! 」
(なんだ、うるさいな。強面さんはこれからどうなるんだ)
「痛っ」
「何が強面さんだ」
目を開けるとそこはいつもと変わらぬ教室の中だった。
頭に走った痛みは、目の前に居る強面の担任教師が教科書の角で叩いたものだった。
クスクスと笑うクラスメイトの中に幼馴染が居る。
「授業中に堂々と居眠りをするな」
「え。あ、はい。すみません」
夢を見ていたのか ? あまりにも生々しかったぞ。
目の前の教師と牢にいた強面さんの声があまりにも似すぎているし。
「今回はここまで。クラス委員長は手伝ってくれ」
「分かりました」
そう返事をして席を立ったのは、俺を牢から出してくれた線の細い青年だった。
あれ……。
これ、現実だよな ?
幼馴染の方を見ると、穏やかな優しい表情で近づいてくる。
「どうしたの、豆鉄砲食らったような顔して」
「あー。いや、なんでもない」
何の気なしに机脇に掛けてあるスクールバッグの中に手を入れる。
ぽよんとした感触が手に当たる。
中を見てみると、牢の中で使われていた水入れ袋があった。
(なんでここにあるんだ ?! )
背中を流れる冷たい汗を感じながら、目の前で心配そうに俺の様子を窺っている幼馴染に問う。
「な、なあ。もしも……もしもの話だけど」
「うん」
「一時的にでもマンガみたいなファンタジー世界に入り込んで、そこが現実の世界だとしたらお前はどう思う ? 」
目を大きくして何言ってんだコイツみたいな顔をして笑いだした。
「変な事言うなー、寝すぎかよ」
元気出せよと俺の手のひらにラムネを一粒渡してきた。
それをじっと見つめて、あの森の中で会った幼馴染のことを思い出していた。
俺の表情が真剣だったからか、ちょっと考え込んでから言う。
「木こりと称した村の見回り人って役割なんていいんじゃないかな」
その返答にぞっとした。
ああ、正にその通りだと思う。狩人っぽかったけど。
「お前は真面目だからな」
これ以上は怖くて発狂しそうだったので、平常心を保つ努力をしながら帰宅した。
自室に閉じこもり自分の身に何が起きたのかと、頭の中で整理をしていると母の声が届く。
「お風呂に入っちゃってくれるー」
「はーい」
今が現実だよなとまだ混乱している。
湯船につかって体を温めれば思考回路も柔らかくなるかもしれない。
いつものようにボディタオルで背中を洗っていると覚えのある痛みが走る。
恐る恐る鏡に背中を映してみる。
「……嘘だろ」
そこにはくっきりと、あの牢で過ごした痕跡が残っていた。
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