第2話 沁みる優しさ
目を覚ました時には牢の中にいた。
冷たい石の床に転がされ、ろくに洗いもしていないのだろう、すえた臭いのする小汚い薄い布を体に掛けられていた。
「こ、こは……」
体内の水分がまったく足りていないんだろう。張り付いた喉からやっと出たのは弱く擦れた声だ。
「よお、目が覚めたか兄ちゃんよ」
声のする方へゆっくりと首を動かすと、いかにもなゴツイ強面の筋肉ムキムキお兄さんが、嘲笑うようにニヤニヤとしていた。
「お前さん一体何やらかしたんだ」
「…………」
(何もしてない。ラムネ食べただけ)
「おい。だんまりかよ」
「…………」
説明をしたくても声が出ない。意識が飛んでいる間水なんて一滴も飲めやしないだろうし。
まあ、牢に入った人の世話など丁寧にしてくれるわけもないよな。
「チッ。だから水ぐれぇ寄こせって言ったのによ」
強面さんは立ち上がって柵の向こうへ大声を出す。
「おい ! 目ぇ覚めたぞ、水持ってこいや。これじゃあ何にも話せねぇぞ ! 」
牢という場所なのだからやはり地下なのだろう。大声の反響がうるさい。
どのくらい経過しているのか分からないが、その間一切飲み食いできていたわけでもなく、体も服も幼馴染に会った時よりボロボロだった。
「大声出すな耳が痛い」
ファンタジー世界での定石である鎧姿をし腰に剣を下げた青年が、何かが入った袋を持ちながら両手で耳を塞いでいる。
「鍵開けるから奥へ行け」
「はいよ」
素直に牢の奥へと下がる強面さん。
青年騎士は俺の上半身を乱暴に起こす。
「いたっ」
背中に強い痛みが走る。
(なんだ ? 疲労で足に痛みがある自覚はあるんだが)
「おい、乱暴にするな。まだ罪状も決まっちゃいねぇし、調べも済んでねぇんだろうがよ」
貸せ。と言って青年騎士からひったくる様に取った袋からちゃぷんと音がした。
「これは水だ。ゆっくり飲め」
きゅぽんと袋の栓を抜いて自分で一口飲むと、喉奥にゆっくりと水が流れてくる。
「けほっ」
一口飲んだだけで咽るとは。
「慌てるな」
何度か咽た後、再びゆっくり少しずつ水を含ませてくれる。
強面さんほんとに罪人かよ。薄暗くて顔よく見えないけど知ってる雰囲気なんだよな。
面倒見もいいし。
しばらくの間彼に牢の中で世話になり、体が動くようになった頃。
心に余裕が出来て思い出す。
「あの」
「なんだ」
「俺がここに来た時に大きめのバッグ持ってたんですけど」
「知らんな」
動ける今の内にと牢内を探してみたのだが見当たらず、仕舞いにはうるさいから大人しくしていろと注意されてしまった。
「荷物は騎士の奴らが検分するんで持ってったんだろ」
(マジか。スマホと筆記用具は戻して欲しいんだけど)
ここで出されるものは食えたもんじゃないし、ラムネが手元にあったら安心だったのに。
肩を落として悔やんでいると。
「良かった、生きてた」
これまたファンタジーな世界でしか見られないデザイン服を着た、いかにも文官ですというような線の細い青年が現れ目が合う。
「なんて酷い…早くここから彼を出してください。罪人ではありませんよ ! 」
早くと促されて不満顔の青年騎士が牢の鍵を開ける。
強面さんに視線をやると、目を閉じて瞑想をしているかのように座り込んでじっとしている。
「さ、行きましょう」
短い間だったけど、色々と世話を焼いてくれた強面さんとこのまま別れることに気が引けた。
青年騎士が閉める牢の扉の音が異様に大きく聴こえる。
「あ、あの。ありがとうございました」
感謝の言葉に強面さんが片手をあげて答えてくれた。
線の細い青年に連れられて長い石造りの階段を上り終えると、太陽光の眩しさに目を瞑った。
なんかデジャヴなんですけど。
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