第1話 知らない場所と見知った人
第11回アース・スターノベル大賞応募作品です。
「ぐあーっ、ま、まぶしっ ! 」
目が覚めて一番初めに飛び込んできたのは強烈な太陽光。
慌てて上半身を起こしてぐるりと頭を動かし辺りを確認すると、木、木、木、レシート。
「レシート。なんで」
頭上には澄み渡る青空を所々隠すように葉が覆っている。
都市部住みの俺には馴染みのない光景。
ザ・森。
しかも深めときた。
「どこなんだここは」
とりあえずレシートの他に何かないかと足元を見る。
うん、土だ。どう見ても山道なんだが。木の根もなんと立派な。
レシートを拾い上げ、無造作にズボンのポケットへ突っ込む。
ポケットの中に何もないことが不思議で理解できず、自分の手のひらをじっと眺める。
「あっ、スマホと財布。あとバッグどこいったんだ」
山道の脇に生い茂る低木をかき分けてみたり、己の何倍あるかも知れない高さのある、立派な大木の枝に引っかかってはいないかと注意してみたが。
「見当たらない。まずいな、早くここがどこか知りたいのに」
どこかに落ちてはいないかとあっちへ行ったり、こっちをガサガサ探しながら山道を小走りで進む。
ふと前を見ると、一人の男が俺のスクールバッグを拾い上げ物珍し気にしていた。
ベルト部を強く引っ張ってみたり、鼻に近付けて匂いを嗅いでみたり。
俺の持ち物はそんなに汚いものではないのだが。
誰かも知らない男が気になり大木の陰から様子を見ていると、スクールバッグを開けて中身を乱暴に振り出し始めた。スマホを地面に叩き落とされたらたまったもんじゃない。
思わず身を出して叫んでいた。
「ちょっと待て、それは俺のだ。乱暴にするな ! 」
「は ? 」
「え ? 」
男は俺に気付いて目を丸くし、俺は男の容姿に驚いて目を丸くした。
スクールバッグを乱暴に扱っていた男は良く知る人物だったからだ。
「あの。す、すまん。これ君のだったのか」
「え。う、うん」
君 ? 今、君って言ったよな。
ガキの頃から一緒にいるのに何言ってんだ。しかもいつもと違って流行りのマンガに出てくる、いかにも長く森の中で狩人してますみたいに弓矢を背負ったりしてるし。
「人が入ることがほとんどない場所だから、悪い奴らに連れてこられて命を。と、勘違いしたんだ」
「人が来ない」
「そう。ああ、行商人は来るぞ。ところでその格好は王都で着られているものなのか ? 」
待て、ちょっと待て。
人が来ない森。
たまに来る行商人。
王都。
教室にいたはずなのだが……。
頭の中が混乱してきた。
なんか甘いの口にしたい。
幼馴染が持っているスクールバッグを返してもらい、中を覗き込むとスマホに筆記用具があった。
それと姉に押し付けられた宇宙柄の巾着。
中には誰もが知る、手に取りやすい価格帯のボトルに入ったラムネがある。
考え込むとどうしても口にしたくなるのでボトルのまま持ち歩いていたら、姉がこれなら男でも持てるでしょうと寄こしたのだ。
ザラザラという音のわりには手のひらに出てくる数は少ない。
大粒のものも売られているが過剰摂取もよくないので、わざと子供が手に取るパッケージの方を選んでいる。
一粒口に入れてカリっと噛むと、口中に広がる爽やかな甘さにほっとする。
「それは何だ。今、白い粒を口にしたよな」
幼馴染は急に青い顔をして俺の口を無理やり開けた。
「ひょっ、らりっ ! 」
「よくない奴らの間で白い粒の変な薬が出回ってるんだ。もしや仲間じゃないだろうな」
「は ? 」
「こっち来い」
そんなドスのきいた声で言わなくてもよくないか。
スクールバッグを持った手と反対側の手で手首を強く握られた。
「ちょっと、痛いんだけどっ」
掴まれている手をはずそうとするがびくりともしない。
「大人しくしろ」
「何も悪い事などしてないだろうが ! 」
おかしいなー。こいつ優しすぎて人にこんなことできるわけないんだけど。
村長の所へ連れていくと言われ、居心地悪い時間を二日は共に過ごしたと思われる。
道中に夜が二回きたのだが、夜空でもおかしなことがあったんだ。
一つのはずの月が二つあったんだよ。
なんで一つじゃないんだって言ったら、やっぱり薬を口にしたんだなと、余計に疑われることになってしまった。
それ以降は言葉を交わしていない。
昼の間は歩き通しのためか、山道に慣れないのもあって足が悲鳴を上げる。
今までにないくらい痛いのだが、常に睨みをきかせてくる幼馴染には言いづらく我慢することにした。
もう俺が何を言っても聞き入れてくれないんだろうなと、諦め歩を進める己の足を見つめながらこの先の不安を抱える。
「おい、顔を上げろ。村に着いたぞ」
「……そう」
疲れて上手く口が動かなくてそっけない返事をした時だった。
「おーい、やっと帰ってきたかー」
ぽつぽつと点在する家の方から明るい声の少年が走ってくる。
「ミルコ、どうした。何かあったのか」
いちいち俺を睨むな無関係だぞ。
「今、村長の所に王都から騎士団の人たちが来てさ。何か探してるみたい」
「騎士団 ? 」
だから俺は関係ないんだけど。お前、なんでそんなに性格が変わっちゃったんだよ。
睨みつけてくる幼馴染の姿が急に見えにくくなる。
なんか異様にまぶたが重いんだが。
「おい ! 」
自分の体が傾いたのと、一人の男と少年の慌てた顔を見たところで記憶が無くなった。
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