8 陰謀と決意
ギルドの隠れ家にカルスが戻ったのは翌日の朝方だった
「辺境伯殺害の黒幕が分かった」
地下の隠し部屋で、カルスの調査報告が始まった。
「おそらくは〝南方の城伯〟の差し金だ。数ヶ月前から商人ギルドの代表と共に、『オラーク・サルディーン』卿に接触している」
〝オラーク〟は、エルヴィアの叔父に当たる人物だ。
「西方の商業を仕切っている商人ギルドですね。オラーク卿と関係を築いて、東方にも食い込もうという狙いでしょうか」
パリオの言葉にカルスは頷いた。
「女子が爵位を継ぐことは稀だが、エルの存在が不安要素ではあるんだろう。御しやすいオラーク卿が次の辺境伯に収まれば、連中は安泰ということだ」
そんなことのために父を殺したというのか。
「どこまで知っているか分からないが、エルオリド伯は型破りな人物で、東方の開拓も半ば独断で進めていた。反感を買うことも多かったはずだ」
カルスと父は知り合いだったという。
こんな闇ギルドが領内に存在していることも、その行動力の表れなのか。
「それもあるでしょうし、我々の〝商売〟も、商人ギルドにとっては目障りなのでしょうな」
パリオがネラを見る。
「あっ、もしかして、アタシの〝特上ポーション〟が売れすぎちゃったのがマズかったってワケ?」
「その〝特上〟を真似た粗悪品も、かなり出回っているらしいからな。市場は混乱しているんだろう」
カルスはエルヴィアに向き直る。
「ともかく、今後このエルオリド一帯、そして東の地〈モルディレイン〉は大きく変わる。我々にとっても非常事態だ」
エルヴィアと闇ギルドが置かれている状況は分かった。
陰謀に巻き込まれ、忌まわしい〈遺物〉に魅入られ、そればかりか、再び人の命を散らしてしまった。
己を守るためとはいえ――あれは明確に、自分の意思だったのだ。
「……これから、どうするのですか?」
それはカルスへの問いであり、自問でもあった。
「この流れを押し返すなど、容易なことじゃない。こちらにも相応の覚悟が要る」
カルスの表情に少し、疲れが見える。
「だがまずは、エルの安全を確保することからだ」
どうするというのだろう。
追手が来るたびに、倒し続けるのか。
「エルには、死んでもらうとするか――」
それを聞いたネラは、突然立ち上がる。
「ふざけてんの? じゃあ、なんのためにここに連れてきたの!」
カルスは憤る魔女を手で制した。
「本当に殺すわけじゃない。死んだことにするだけだ」
エルヴィアの想像のとおりだった。
つまり、別の死体を用意するということだろう。
「このギルドには、そういう仕事をする人間もいる。手回しに関しては、抜かりなくやるつもりだ」
そっぽを向いたネラが「またコロシかぁ」とこぼす。
「身代わりの候補は、すでに絞り込んだ。調べた結果、幸い南方の城伯はエルの顔を知らないらしい。上手くやれば、暗殺が成功したと思い込むだろう」
結局、また私は――
「なるべく急いで事に当たる。その間エルは、人目につかないよう、隠れ家にいてもらうことになるが――」
(待って――)
「私がやる」
「なんだって?」
「私がやる、と言ったのよ」
エルヴィアは、ゆっくりと立ち上がった。
「私はすでに人の命を奪ってしまった。そして、また同じことを繰り返そうとしている。血をもって生を望むなら、その血で汚すべきは私の手よ」
カルスは、真っ直ぐにエルヴィアの目を見る。
「本当に、できるのか?」
その問いに、しっかりと頷く。
「分かった――だが、こっちにも段取りがある。〝羊〟の用意は任せてくれ」
そう言うと、カルスは休息を取るために別室へ移った。
椅子に腰掛けたままのパリオは、
「見事なご決断です――感服いたしましたよ」
と、暗い穴のような目で囁いた。




