↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第8章「指輪の宿命」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/74

3 災厄の余燼

三人は旅小屋で夜を明かし、スーラ=マナを探して西へ向かう

 エルヴィアは、旅小屋で一泊することを提案した。

 ネラも見つかったことだし、無理に急ぐ必要はないという思いからだ。

 ふたりとも、異論はないようだった。


 翌朝、三人は馬でサルディアを目指した。

 昼過ぎには町に到着し、厩舎で馬を預かってもらった。


 「ちょっと考えがあってさ――」

 隠れ家へ向かう途中、ネラが切り出した。

 「スーラ=マナと会った場所に、もう一度行ってみない?」


 それはいい考えだと思った。

 会えるとも限らないが、なにか手がかりがあるかもしれない。

 特にゲルブならば、なにかに気づく可能性もある。


 隠れ家で少し休んだ後、一行はディードルグへ繋がる転送石(ポータル)を目指した。


 転送石(ポータル)を通り、目的の場所へ着いたものの――

 そこにスーラ=マナの姿はなかった。


 念のため、連れていた獣の足跡なども探してみたが、それらしいものは全く見当たらない。


 「やっぱり、いないかぁ……」

 ネラは少し残念そうだ。

 「そう簡単には見つからんじゃろ。ワシなど、何十年も探しておるというのに、一度も姿を見ていないんじゃぞ」


 それを思えば、あの日は、稀有な日だったのかもしれない。


 「スーラ=マナは、なぜあの日、ここに現れたのかしら」

 エルヴィアが疑問を口にする。

 「私達に、予言を聞かせるため……?」


 ゲルヴも腕を組み、頭を捻っている。

 「確かに、腑に落ちんな。あれが〝凶事〟の予言だとして、それを伝えたところで、防ぎようもなかったのではないか?」


 考えても、謎は深まるばかりだ。


 「……やはり、王都へ行ってみるべきでしょうか」

 「うむ。じゃが、もうすぐ陽も落ちる。今日はサルディアに泊まり、明日に出発するのがよかろうな」


 三人は、もと来た道を引き返した。


    †


 王都の近くへ通じる転送石(ポータル)は、サルディアから北の方角にある。

 山の麓の洞窟に、その転送石(ポータル)が隠されているという。


 たどり着いた転送石(ポータル)の前で、ゲルヴが言う。

 「これは、王都の街外れに続いている。あちらの状況は分からんから、十分に注意していくぞい」


 眩い光が溢れ、それが消えると、周囲は緑色の光に囲まれていた。

 そこは、東の地の遺跡に似た場所だった。


 ゲルヴの先導で遺跡の中を進み、通路の突き当りにある低い天井に、開閉できる蓋のような扉があった。

 その扉を開けると、そこは茂みに囲まれた野外だった。


 ネラに引っ張り上げられ、土の上に立つと――

 妙に熱い風が顔に吹き付けてくる。


 「あれは……」


 ゲルヴが立ちつくしている。

 エルヴィアとネラは、その背中越しの景色を見た。


 「街が――」


 王都ドミネシアは、燃えていた。


 遠目からでも、それがもはや街といえるものではないことが知れた。

 戦の後でも、あのような惨状にはならないだろう。


 「なんと、恐ろしい……」


 〝炎の巨人〟――

 ゼリア神が降臨したというのも、あれを見れば、真実に思えてくる。


 「その、例の〝巨人〟はどこに行ったの?」

 ネラが呟いた。

 ここからでは、それらしきものは見当たらない。


 「危険かもしれんが――見にいってみるか?」

 ゲルヴの問いに、ふたりは頷いた。


    †


 街は、廃墟と化していた。

 至る所に、灰と瓦礫、そして焼け焦げた骸が散乱している。


 エルヴィアは絶句した。

 こんな酷いことが、あっていいのか――


 「おお、なんと愚かしい……」

 ゲルヴは、ひとつの骸の前に膝をついている。

 その骸には、今にも風にさらわれそうな焼け焦げたローブが絡みついていた。


 「……黒い月(ノル=ミーロ)の者でしょうか」

 「ああ、おそらくな――」


 誰のせいなのか――

 なにを求めた結果なのか――

 そんなことは、もはやどうでもいい。


 (こんなことは、あってはならない)


 エルヴィアは、心の内で叫んだ。


 「ねえ、大丈夫ッ?」

 

 背後でネラが声を上げている。

 その傍らには、放心した子どもが座り込んでいる。


 「お姉ちゃん、誰?」

 「アタシは――そ、そんなことより、怪我はない?」


 子どもの顔や服は煤で汚れてはいたが、負傷してはいないようだった。

 エルヴィアも、子どもに近づき、膝をつく。


 「一体、なにがあったの?」

 「――分かんない。僕は使いに出て、帰ってきたら、街が」


 この子はおそらく、下働きの庶民だろう。

 「お父さんか、お母さんは?」

 「親はいないよ」

 「そう……」


 膝に触れる地面が熱い。

 冬も近いのに、まるで真夏の天日にさらした鉄のようだ。


 「あなた、名前は?」

 「カシィル」

 「いい名前ね、カシィル……残念だけど、この街ではもう暮らせないわ」


 エルヴィアは、カシィルの肩にそっと手を置いた。

 「ここからずっと東へ行くと、砦の町がある。そこにいるカルスという人を尋ねなさい。きっと、力になってくれるわ」


 カシィルはエルヴィアの目をただ見つめていたが、やがて言った。

 「東には行けないよ」

 「それは、どうして……?」

 「〝巨人〟が東へ向かったから――」


 エルヴィアは、言葉を失う。

 まさか、次は――


 (砦の町が、焼かれるのか――?)


 戻るべきか――

 しかし、戻ってなにができる?

 いや、それでも町の皆に報せなければ――


 ふと気づくと、カシィルの姿はなかった。

 

 跳ねるように立ち上がり、辺りを見回すが――

 目に入るのは、荒んだ焼け跡ばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。