3 災厄の余燼
三人は旅小屋で夜を明かし、スーラ=マナを探して西へ向かう
エルヴィアは、旅小屋で一泊することを提案した。
ネラも見つかったことだし、無理に急ぐ必要はないという思いからだ。
ふたりとも、異論はないようだった。
翌朝、三人は馬でサルディアを目指した。
昼過ぎには町に到着し、厩舎で馬を預かってもらった。
「ちょっと考えがあってさ――」
隠れ家へ向かう途中、ネラが切り出した。
「スーラ=マナと会った場所に、もう一度行ってみない?」
それはいい考えだと思った。
会えるとも限らないが、なにか手がかりがあるかもしれない。
特にゲルブならば、なにかに気づく可能性もある。
隠れ家で少し休んだ後、一行はディードルグへ繋がる転送石を目指した。
転送石を通り、目的の場所へ着いたものの――
そこにスーラ=マナの姿はなかった。
念のため、連れていた獣の足跡なども探してみたが、それらしいものは全く見当たらない。
「やっぱり、いないかぁ……」
ネラは少し残念そうだ。
「そう簡単には見つからんじゃろ。ワシなど、何十年も探しておるというのに、一度も姿を見ていないんじゃぞ」
それを思えば、あの日は、稀有な日だったのかもしれない。
「スーラ=マナは、なぜあの日、ここに現れたのかしら」
エルヴィアが疑問を口にする。
「私達に、予言を聞かせるため……?」
ゲルヴも腕を組み、頭を捻っている。
「確かに、腑に落ちんな。あれが〝凶事〟の予言だとして、それを伝えたところで、防ぎようもなかったのではないか?」
考えても、謎は深まるばかりだ。
「……やはり、王都へ行ってみるべきでしょうか」
「うむ。じゃが、もうすぐ陽も落ちる。今日はサルディアに泊まり、明日に出発するのがよかろうな」
三人は、もと来た道を引き返した。
†
王都の近くへ通じる転送石は、サルディアから北の方角にある。
山の麓の洞窟に、その転送石が隠されているという。
たどり着いた転送石の前で、ゲルヴが言う。
「これは、王都の街外れに続いている。あちらの状況は分からんから、十分に注意していくぞい」
眩い光が溢れ、それが消えると、周囲は緑色の光に囲まれていた。
そこは、東の地の遺跡に似た場所だった。
ゲルヴの先導で遺跡の中を進み、通路の突き当りにある低い天井に、開閉できる蓋のような扉があった。
その扉を開けると、そこは茂みに囲まれた野外だった。
ネラに引っ張り上げられ、土の上に立つと――
妙に熱い風が顔に吹き付けてくる。
「あれは……」
ゲルヴが立ちつくしている。
エルヴィアとネラは、その背中越しの景色を見た。
「街が――」
王都ドミネシアは、燃えていた。
遠目からでも、それがもはや街といえるものではないことが知れた。
戦の後でも、あのような惨状にはならないだろう。
「なんと、恐ろしい……」
〝炎の巨人〟――
ゼリア神が降臨したというのも、あれを見れば、真実に思えてくる。
「その、例の〝巨人〟はどこに行ったの?」
ネラが呟いた。
ここからでは、それらしきものは見当たらない。
「危険かもしれんが――見にいってみるか?」
ゲルヴの問いに、ふたりは頷いた。
†
街は、廃墟と化していた。
至る所に、灰と瓦礫、そして焼け焦げた骸が散乱している。
エルヴィアは絶句した。
こんな酷いことが、あっていいのか――
「おお、なんと愚かしい……」
ゲルヴは、ひとつの骸の前に膝をついている。
その骸には、今にも風にさらわれそうな焼け焦げたローブが絡みついていた。
「……黒い月の者でしょうか」
「ああ、おそらくな――」
誰のせいなのか――
なにを求めた結果なのか――
そんなことは、もはやどうでもいい。
(こんなことは、あってはならない)
エルヴィアは、心の内で叫んだ。
「ねえ、大丈夫ッ?」
背後でネラが声を上げている。
その傍らには、放心した子どもが座り込んでいる。
「お姉ちゃん、誰?」
「アタシは――そ、そんなことより、怪我はない?」
子どもの顔や服は煤で汚れてはいたが、負傷してはいないようだった。
エルヴィアも、子どもに近づき、膝をつく。
「一体、なにがあったの?」
「――分かんない。僕は使いに出て、帰ってきたら、街が」
この子はおそらく、下働きの庶民だろう。
「お父さんか、お母さんは?」
「親はいないよ」
「そう……」
膝に触れる地面が熱い。
冬も近いのに、まるで真夏の天日にさらした鉄のようだ。
「あなた、名前は?」
「カシィル」
「いい名前ね、カシィル……残念だけど、この街ではもう暮らせないわ」
エルヴィアは、カシィルの肩にそっと手を置いた。
「ここからずっと東へ行くと、砦の町がある。そこにいるカルスという人を尋ねなさい。きっと、力になってくれるわ」
カシィルはエルヴィアの目をただ見つめていたが、やがて言った。
「東には行けないよ」
「それは、どうして……?」
「〝巨人〟が東へ向かったから――」
エルヴィアは、言葉を失う。
まさか、次は――
(砦の町が、焼かれるのか――?)
戻るべきか――
しかし、戻ってなにができる?
いや、それでも町の皆に報せなければ――
ふと気づくと、カシィルの姿はなかった。
跳ねるように立ち上がり、辺りを見回すが――
目に入るのは、荒んだ焼け跡ばかりだった。




