↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第8章「指輪の宿命」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/74

2 追い求める者

王都へ向かう魔術師のゲルヴォーグを、エルヴィアは呼び止める

 「ゲルヴ先生……どうしても行くのですか?」


 砦の門の前で、エルヴィアはゲルヴに問いかけた。


 杖をつき、右足を少し庇いながら歩く小さな背中からは、不思議と固い意志が伝わってくる。

 老魔術師は、振り返らずに応えた。


 「お前さんも……いや、皆が感じていると思うが――」

 ゲルヴは空を仰ぐ。

 「なにか、不吉な予感がする。王都だけでなく、この大地の全てに災いが訪れるような気がするんじゃ」


 エルヴィアも、同じ思いを抱えている。

 このいいようのない不安は、どうすれば晴れるのか――

 きっと、考えても答えは出ないだろう。


 ゲルヴは、とにかく行動することで、このもどかしさを消し去ろうとしているのだろうか。


 「――今朝から、ネラの姿が見えません」

 砦の町をひととおり探したが、ネラは見つからなかった。


 ゲルヴは沈黙する。


 「あの娘――ひょっとしたら、王都へ向かったかもしれません」

 ネラは、時々、思いもよらない行動に出る。

 「彼女もまた、自分の目でなにかを確かめたいんじゃないかって、そんな気がするんです」


 帽子の上から頭を掻いて、ゲルヴは溜息をついた。

 「――変わらんな、昔から」

 老いた魔術師は、静かに語りだした。


 「一緒に出かけると、あれはいつもワシの先を歩いて、早く来いと急かされたものじゃ」

 「……ネラらしいですね」

 「ああ――案外、今回はワシに先を越されそうになって、へそを曲げているのかもしれんな」


 ゲルヴは、杖をついて歩き出す。

 「また迷子になられては敵わん――急いで探しにいかねばな」


 エルヴィアも、ゲルヴを追う。

 「私も、お供します」

 「……よいのか?」

 「ええ。最初から、そうするつもりでした。カルスにも言ってありますから」


    †


 砦の町とサルディアの間にある旅小屋に着くかという頃――

 エルヴィアとゲルヴは、馬を休ませようか、などと話していた。


 「あまり長くは休めませんが、お体は大丈夫ですか?」

 「なに、まだそこまで老いぼれてはおらん。馬には悪いがな……」


 砦の町の周辺では、闇のギルドの面々がネラの捜索を続けている。

 エルヴィア達は、ネラが王都へ向かったなら、サルディアの隠れ家で一泊するだろうと考え、先を急いでいた。


 やがて、旅小屋が見えてきた。

 ふたりは馬から降り、獣避けの柵に馬を繋いだ。


 「しかし、今日は一段と冷えるのう」


 ゲルヴがそうこぼした、その途端――


 「むッ?」

 「あっ……」


 ふたりの身体が、宙に浮いた。


 エルヴィアは、とっさに柵につかまる。

 そのままゲルヴに片手を伸ばしたが、手は届かない。

 ゲルヴは、どんどん空へ近づいていく。


 「この先は、通行止めだよっ」


 小屋の陰から姿を現したのは、ネラだった。

 杖を掲げ、虚空に浮かぶゲルヴを見上げている。


 「やれやれ……仕方のないヤツじゃ」


 ゲルヴも杖を掲げる。

 やがて、彼の身体はゆっくりと地面へ近づき、静かに着地した。


 「あっ」

 「まだまだ未熟じゃのう。力も精度も足りておらん」


 ネラの浮遊の魔術は、さすがにゲルヴの魔力には到底及ばないようだった。


 「……ワシを止めるために、待ち伏せしておったのか」

 ゲルヴは、ネラに語りかける。


 「そういうワケじゃないよ」

 「ではなぜ、ここにおる?」

 「アタシさ、思ったんだ――」


 ネラは掲げていた杖を下ろし、こちらへ近づいてくる。

 「師匠、本当はさ、スーラ=マナを探しにいくんでしょ?」


 ゲルヴは、ネラの言葉に応えず、黙っている。

 「だって、おかしいよ。元々、王都が危険だから逃げてきたはずでしょ。今更、戻るのは変なんだよ」


 確かに、それはそうだ。

 黒い月(ノル=ミーロ)が気になるなら、こうなる前に、行動に出ていたはずなのだ。


 「師匠は、スーラ=マナの話題が出たあたりから、妙にそわそわしてた。アタシには判るよ。長いこと一緒にいたんだから」


 ゲルヴを見ると、嬉しそうな、それでいて寂しそうな、不思議な顔をしていた。


 「……それで、ネラ、結局お前はどうしたいんじゃ」

 「アタシも一緒に行く。スーラ=マナを、一緒に探す」


 ネラの瞳には、固い決意の輝きがあった。


 深い溜息をつき、ゲルヴが口を開く。

 「言い出したら聞かんからのう、昔から……」


 そして、エルヴィアの方を向く。

 「巻き込んでしまって、すまんかった。悪いが、皆に伝えておいてくれ。ワシらは、スーラ=マナを探しに行った、と――」


 エルヴィアは、少し悩んで、応えた。

 「私も一緒に行きます」


 ネラは慌てて両手を振る。

 「エルは駄目だよ!」

 「どうして?」

 「だって、危険だよ。王都はきっと、大変なことになってる――」


 エルヴィアは、ネラの目を見つめて言った。

 「置いていかれる気持ち、ネラにも解るでしょう?」


 その言葉に、ネラは黙ってしまう。

 「それに、スーラ=マナが気になるのは、私も同じ。この指輪のこと、なにか分かるかもしれないもの」


 そう――

 スーラ=マナが現れたことには〝意味〟があるはずだ。

 砦の町でじっとしていたら、なにかを逃してしまう気がする。


 「ネラよ、それがエルの意志であれば、ワシらに止めることはできんよ」

 ゲルヴは、ネラの肩にそっと手を置く。

 「外は寒くていかん。さあ、小屋へ入るとしよう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。