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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第8章「指輪の宿命」

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1 連なる凶報

 人々に魔術を、そして〈神の遺物〉の知識をもたらした者。

 伝承や古文書に語られる、非凡なる賢者。

 あの薄気味悪い微笑みを湛えた人物が、その〝スーラ=マナ〟だというのか。


 今、思い返してみると――

 あの人物と邂逅してから、妙に胸がざわついている。

 ディードルグの城で具合が悪くなったのは、そのせいもあるような気がする。


 「繰り返すが、あくまで伝承や記録にある話じゃ。それを知る者が、悪ふざけでやったことかもしれん……」


 ゲルヴはそう言うが――

 エルヴィアには、あれが戯れであるとは、どうしても思えなかった。


 「しかし〝凶事〟とは……一体、なにが起こるというんだ?」

 カルスが誰にともなく尋ねる。


 「ダークエルフ達が、城で死んでたことかなぁ?」

 ネラの言葉に、アニスが反論する。

 「それは多分、違うわ。〝あれ〟は『今夜、星が降る』と言ったんでしょう? 城は日が落ちる前に、既に陥落していた」


 「あの予言めいたものが真実だとすれば――」

 ママナが口を開く。

 「あの日、城を後にして、サルディアに泊まった夜に〝星が降った〟ということになりますよねぇ?」


 (星が降る……)

 

 普通に考えれば、流星のことだと思われるが――


 「ディードルグの件といい、分からないことが多すぎる。緊張のしどおしで大変だとは思うが、十分に警戒して過ごしてくれ」

 カルスが総括し、闇のギルドの会議は終了した。


    †


 砦の町に、驚くべき報せが飛び込んできたのは、その二日後だった。


 王都近辺で情報を集めていたパリオが戻ってきた。

 緊急の報告があるらしく、急いでギルドの一同を集めてほしいという。


 やがて隠れ家に集合した面々を前に、パリオが切り出した。


 「聖教庁が、攻撃を受けました」


 聖教庁――アゼリア聖教の本拠地だ。


 「敷地の建物、特に大聖堂の被害は大きく――私も遠目に確認しましたが、いくつもの火柱が上がり、半壊している模様です」


 攻撃の方法や、その首謀者は不明であるという。

 「最も疑わしいのは、やはり黒い月(ノル=ミーロ)ですが……」

 パリオによれば、王都やその周辺は、完全に混乱状態だという。


 「その攻撃があったのは、いつのことだ?」

 カルスが問う。

 「四日前の夜ですね」


 四日前の夜は――

 ディードルグ城から戻り、サルディアへ泊まった夜だ。


 「スーラ=マナに会った日ね」

 アニスが、鷹のような目で虚空を見据える。


 『世界に〝凶事〟が訪れる』


 また、あの嫌な感覚がエルヴィアを支配する。


 「スーラ=マナ?」

 パリオが反応するが、カルスが〝待て〟をするように手を突き出す。

 「それについては、後で報告する。他に、王都付近の情報は?」


 少し間を空けて、パリオが口を開く。

 「急いで戻ってきたもので、確実な情報は取れていませんが……聞くところによると、〝炎をまとった巨人〟が王都に出現したと――」


 そんなことが――あり得るのか?


 黒い月(ノル=ミーロ)の出現。

 ディードルグでの不可解な出来事。

 そして、スーラ=マナの予言との符合。


 それらの要素が、理屈を超えて、全てを必然に思わせる。


 「その〝炎の巨人〟ってさ、魔物なわけでしょ?」

 ネラが問いかける。

 「ひょっとしてさ……ディードルグの時と同じように、その巨人も呼び出されたんじゃないの?」


 それを聞いて、ゲルヴが溜息をつく。

 「ネラよ……肝心なことを忘れとりゃせんか?」

 「え?」

 「王都という場所――そして〝炎〟といえば、なんじゃ?」


 ネラは口を開けて固まっている。

 ゲルヴは目を閉じて首を振った。


 「魔物であれば、まだ救われる話ですが――」

 パリオが、西側の壁に首を向ける。

 「〝炎の巨人〟の話が本当であれば、これは〝大いなる破局〟を意味する」


 そう――

 幼い頃から、何度も聞かされて育った。

 アゼリアの民に刻み込まれた伝承。


 「王都に〝ゼリア神〟が降臨したのです」


 光と火の始まり――

 全能なる神、ゼリア。

 決して消えぬ光焔を帯び、水と木と土を清浄なる霊風へと還す。


 「どうにも、腑に落ちないんだけど」

 アニスが首を捻る。

 「ゼリア神は、この地に加護をもたらす存在ではないの? それが〝破局〟を意味するって、どういう――」


 「ゼリアが加護をもたらすのは、そのとおり。しかし――」

 パリオがアニスへ向き直る。

 「伝承はこう語る。神が顕現する時、世界は炎に包まれ、全ての命が絶える、と」


 それを聞いたネラは、頓狂な声を上げる。

 「そんな神様、要らないでしょ」


 パリオは苦笑した。

 「いずれにしても、今、王都は危険な状況です。我々はどう動くべきか、熟慮する必要があると考えます」


 聖教の伝承が、まるきり真実とも思えないが――

 その〝破局〟こそが、スーラ=マナがいう〝凶事〟だとすれば?

 人の身に、なにができるというのだろう。


 「ワシは……王都へ行こうと思う」

 突然、ゲルヴが言った。


 「えぇ? なんで?」

 ネラが再び、上滑りした声を上げた。

 「どう考えても危ないよ!」


 カルスも、ゲルヴへ問う。

 「……承服しかねるが、理由を聞かせてくれ」


 ゲルヴは、いつになく寂しげな表情を見せた。

 「今更だが、奴らを……黒い月(ノル=ミーロ)の連中を、止められなかったことが、ずっと気になっておった」


 部屋に、沈黙が訪れる。


 「奴らが〝凶事〟の元凶ならば、同じディの末裔として、その結末を見届けるべきではないかと思うんじゃ」


 彼は、止めても行くだろう。

 ゲルヴの眼差しを見て、エルヴィアは確信した。


 胸騒ぎは止まらず――

 ネラがゲルヴを引き止める声だけが、耳の奥に響いていた。

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