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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第7章「星を望む者」

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10 混迷の奔流

ハイエルフと闇ギルドの部隊は、魔物の発生源を破壊する

 森の奥にある魔物の出どころは、苦もなく破壊できた。

 ミノークやママナが、石の輪や石柱を、その怪力でめった打ちにすると、石は崩れ去り、紫色の不気味な光もやがて消えた。


 これで、魔物は出てこられないはずだ。


 「ねえ、これ……」

 アニスがなにかを見つけたようだ。

 側へ行くと、その足元には――


 「……ダークエルフ?」


 それは、ローブをまとったダークエルフの骸だった。


 「なぜ、ここで死んでいる?」

 マン・キンフが眉間に皺を寄せる。


 「憶測に過ぎないけど――」

 アニスが骸を見ながら言う。

 「呼び出した魔物にやられた……のかもしれないわね」


 エルヴィアも、そう思った。

 城が、あの有り様なのも、魔物の仕業ではないのか。


 「危険かもしれないけど……城の様子を見にいく?」

 アニスが問うと、キンフは頷いた。

 「ああ、できればそうしたい」


    †


 「これは……酷いね」


 城門を潜ってすぐの辺り――

 アニスが狼の魔物と戦い、〈遺物〉の力を知った場所。


 周囲には、ダークエルフや魔物の死骸が転がっている。

 

 「まさか、同士討ちしたのか――?」

 キンフをはじめ、ハイエルフ達は戸惑っている。


 「分からないけど……まだ生き残りがいるかもしれない。油断しないで」

 アニスが半壊した塔を見上げる。

 「上にも――気配はないわね」


 「おやおや……」

 ママナが、なにかに気づいた。

 「見て下さい、この傷を……おかしいですねぇ」


 エルヴィアは、ダークエルフの骸に近づき、その傷跡を見た。


 (これは……!)


 血(・)が(・)流(・)れ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)――


 妙なのは、それだけではない。

 これだけの骸の数にも関わらず――

 周辺の石畳にも、血の痕がほとんど見られないのだ。


 血が流れない傷痕――

 それはまるで、〝悪魔の手〟による外傷だ。


 アニスに、その違和感を伝えた。

 「……ちょっと、話が複雑になってきたわね」


 嫌な予感は、どんどん膨らんでいく。


 散乱する骸、そして不審な傷痕。

 指輪が食い込んでくるような錯覚を覚える。

 足元がふらつく。

 頭が重い。


 「ごめんなさい、少し、具合が悪いわ――」

 エルヴィアは、額に手を添える。


 アニスはキンフに問いかける。

 「キンフ、もう少し調査したいとは思うけど――今日のところは砦の町へ戻りましょう?」

 「――そうだな。我々にも害が及ばないうちに、撤退すべきかもしれん」


 エルヴィアの肩を、ネラが支えてくれた。

 「エル、大丈夫?」

 「ええ……ありがとう」


 アニスとキンフの指示で、部隊は素早く集合し、城を後にした。


    †


 部隊はサルディアの町で休息をとり、翌朝、ハイエルフ達と別れた。

 

 エルヴィアの体調は多少回復し、そのまま馬で砦の町へ向かった。

 道中の旅小屋で一泊したが、その夜は悪夢を見た。

 砦の町が襲われる夢だった。


 そして次の日――


 ようやくたどり着いた現実の砦の町は、平穏そのものだった。

 門の前には、ゴーレムが佇んでいる。

 その様子を確かめて、エルヴィアは胸を撫で下ろした。


 「色々あったよ。色々ありすぎて、もうワケ分からないよ」

 

 闇ギルドの隠れ家――

 ネラが部屋の隅の木箱に腰を下ろした。


 アニスから、砦の待機組へ報告がなされた。

 「おそらく、城に生き残りはなし。ただ、なにが起こったか、明確な情報は得られなかったわ」


 報告を受けたカルスは、怪訝な表情だ。

 「どうにも不可解だな。その、傷痕のことといい……だが、こちらに被害がなかったのは幸いだった」


 「こう言ってはなんですけど、少々、肩透かしでしたねぇ」

 ママナが呟く。

 「この手で悪を滅ぼせると思っていたのに、勝手に死んでるんですから」


 ネラが「ママナは石を壊したじゃん」と言うと、

 「石は悪ではありません! 悪とは、思想であり行いです!」と応えた。


 カルスが、他に報告はないかと尋ねると、ネラが手を上げる。

 「そういやさ、町に変な人が来なかった?」

 「変な人? どんな姿だ?」

 「なんか、杖を持ってて……あれ、目が見えない人じゃないかなあ」


 すっかり忘れていた。

 城へ続く道で出会った、白い獣を連れた者のことか――


 「そうそう。見たことない獣と一緒にいたよ」

 「獣……? そんな者、町には来ていないはずだが」


 思い返せば、あの人物も本当に奇妙だった。

 そういえば――


 「あの人、すれ違いざまに『星が降る』とか、言っていた気がする。意味は分からないけれど……」


 エルヴィアがそう言った途端――

 今まで黙っていたゲルヴが突然、声を上げた。


 「〝星が降る〟と言ったのか?」

 「ええ――」

 「そうか……ううむ」


 それきり、黙り込んでしまう。

 星、という言葉が気になったのか。


 「なに? なんか知ってるの、師匠?」

 ネラが尋ねると、ゲルヴは険しい顔になる。


 「これは、古文書や伝承で伝わっとる話で、確かなことかは分からんが――」

 老魔術師は、ひとつ咳払いをした。

 「世界に〝凶事〟が訪れる時、『星が降る』と告げる者が現れた、という話が複数、残っておる」


 いいようもない不気味さが、エルヴィアの胸中に蘇った。


 「その者は、美しい獣を連れているとも伝えられとる……」

 「ええ……ホントに? 師匠の作り話じゃないよね?」

 ネラも、なんだか不安げな表情だ。


 「作り話などではないわい。さらにじゃな――」

 ゲルヴに、全員が釘付けになる。


 「その者こそが〝スーラ=マナ〟である、といわれておるんじゃ」


 ――あの微笑みが、脳裏に浮かぶ。

 エルヴィアは、軽い目眩を覚えた。

 

 †††


 第7章「星を望む者」終

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