9 魔の地を目指して
サルディアに集ったハイエルフと闇ギルドの一行は、ディードルグへ向かう
ハイエルフの首領、マン・キンフは、サルディアの隠れ家の前に集まった闇ギルドの皆に語りかけた。
「危険を顧みず来てくれた、勇敢なる友人達に感謝を――我らハイエルフは、この日を忘れず、永久に語り継ぐだろう」
闇ギルドからは、エルヴィア、ネラ、アニス、ミノーク、ママナが参加した。
他の者達は、砦の町に残っている。
再び、町が急襲される可能性を考えてのことだ。
「師匠のゴーレムがいれば、町は大丈夫だよ」
ゲルヴの魔術は卓越したもので、ゴーレムまで作り出せるのだ。
ただの石や岩が、巨人へと変わる様は圧巻だった。
ゴーレムが門番に加わったことで、砦の防衛はより強固なものとなった。
アニスが引き締まった表情で告げる。
「――状況から見て、ダークエルフ達は城に潜伏していると思われる。正門以外にも、秘密の出入り口があるはずよ」
城にはおそらく、抜け道や隠し通路があるはずだ。
あの時、魔物を呼び出したダークエルフも、城から出てきたのだろうとエルヴィア達は考えている。
「とはいえ、考えなしに突入するのも危険よ。まずは、奴らがこれ以上、魔物を呼び出せないように、怪しい石の輪を破壊する」
それが、今回の遠征の最初の目的だった。
魔物の出どころを絶ち、その後に城を攻略する作戦だ。
「分かった。では、その場所まで案内してくれ」
マン・キンフをはじめ、ハイエルフ達の表情から緊張が伝わってくる。
「では、行きましょう。大丈夫、私達は必ず勝つわ」
アニスの声に、静かな闘志が感じられる。
ハイエルフと闇ギルドの部隊は、ディードルグへと通じる転送石に向けて、颯爽と歩き出した。
†
妖精の泉を過ぎ、城の方角へ進む。
目的地が近づくにつれ、部隊の緊張も少しずつ増している。
先頭を行くアニスが、皆に呼びかけた。
「途中に魔物がいないとも限らない。注意を怠らないように」
警戒しながら、森の中を進んでいると――
(あれは――?)
前方に、人影らしきものが見える。
アニスが腕を横に伸ばし、部隊の前進を制した。
「なにかしら……?」
不信な人物は、微動だにしない。
ただ、じっとこちらを見つめているようだ。
なんだかとても、気味が悪かった。
「――どうする? 行ってみる?」
エルヴィアが問うと、アニスは頷いた。
「ええ……」
部隊はゆっくりと前進する。
そして人影の近くまで進み、少し間を空けて再び停止した。
謎の人物は、まだ動かない。
そして、その隣には――見慣れぬ〝獣〟の姿があった。
「――あなたは、何者?」
アニスが切り出す。
その謎の人物は、見るほどに異様な風体だった。
痩せ細り、ボロボロの服を着て、手には粗末な木製の杖を携えている。
片目は潰されたかのように、赤黒く濁っていた。
そして、なぜか――ずっと微笑を浮かべている。
「この先へ行くのかい?」
少女か少年か、判然としない声色――
短く問うた後、そのまま黙り込む。
皆が、困惑した。
その人物はまるで難民のように汚れていたが――
隣に鎮座する獣は、一切の汚れがない綺麗な白い毛並みで、幻想的なほどに美しかった。
「そうだ――我々は、この先へ行かねばならぬ」
キンフが謎の人物に言い放つ。
少し間を置いて、謎の人物と獣は道を空けた。
エルヴィア達は、不信感を覚えながら、おもむろに歩き出す。
列の後方にいたネラが、なにを思ったか、謎の人物に話しかけた。
「あのさ、行く場所がなくて困ってるなら、東の国境にある町へ行くといいよ」
ネラの言葉にも返答はない。
だが、部隊の全員が通り過ぎようかという時――
「今夜は、星が降るよ」
再び、鈴のような声が聞こえた。
†
ディードルグの城の目前――
部隊は、森の端に待機し、城の外観を眺めていた。
「あれは……多分もう、駄目ですねぇ」
ママナが呟いた。
ディードルグ城は――
まるで陥落したかのように、壁は崩れ、塔は倒れ、炎や煙が上がっていた。
「一体、どういうこと……?」
アニスの言葉は、部隊の皆の心中を代弁していた。
「ホントに、騎士団が突入したとか……?」
ネラが言うが、それにしては妙に静かだ。
エルヴィアは、さっきの謎の人物を気にしている。
城への行く手をふさぐように立っていた――
このことを知っていたのではないか?
「どうする? 予定通り、魔物の元を潰しにいくか、それとも――」
キンフが、アニスに問いかける。
「城の様子を見に行くか?」
アニスは少し考えてから答えた。
「予定通り、森へ入りましょう。城には、なにかしらの〝危険な存在〟がいるかもしれないわ」
部隊は、城の外周に沿って、森へ向かう。
心なしか、皆の足取りは重い。
エルヴィアの胸の内には、不吉な予感がへばりついて離れなかった。




