7 闇の顕現
エルヴィア達は、魔物の調査のため、ディードルグの城へ向かう
「……魔物、いないね」
三人は、城が見える場所まで来ていた。
木の陰に隠れ、身体を低くして様子を窺うが、辺りは静かで、魔物の姿は見当たらない。
しばらく城門を監視していたが、何者かが出てくる様子もない。
「もう、中に入っちゃう?」
ネラが言うと、アニスは全力で拒否する。
「駄目よ! 本当に黒い月達がいたら、ただでは済まないわよ」
とはいえ、ここでずっと城を見ていても埒が明かないのも確かだ。
三人は、目立たぬように、城の周囲を回ってみることにした。
城の裏手――
城壁の周りは堀で囲まれていて、裏口らしきものはない。
「こちら側には、誰も来なそうね……」
城門の前と同じく、こちらも静かだ。
時折、鳥の声や梢の音が聞こえるくらいで、人や魔物の気配はなかった。
「妖精の勘違いじゃない? あの城、空っぽだよ、きっと」
あまりの平穏さに退屈したのか、ネラは大きくあくびをしている。
「いえ、でも――」
エルヴィアが口を開く。
「彼女〝城の方角〟から魔物が来ていると言った。必ずしも、城を根城にしているわけではないかもしれないわ」
間もなく陽が落ち始める。
暗くなる前に帰るならば、そろそろ潮時という頃合いだが――
「あッ、見て、あれ……」
アニスがなにかを見つけたようだ。
目を細めて、アニスが指差した方を見ると――
確かに、歩く人影があった。
人影は、城から離れ、森へと入っていく。
「黒いローブ……どうやらあれで間違いないわね」
「ねぇ、あれ、追いかける?」
「危険かもしれないけど――エル、どうする?」
エルヴィアは、少し考えてから答える。
「そうね……周囲を警戒しながら、静かについていきましょう」
他のふたりが頷いた。
三人は、かなり距離を取って人影を追った。
森は鬱蒼として薄暗かったが、アニスの目はしっかりと人影を捉えているようだ。
(だいぶ、奥まで来てしまった……)
こんな森に、一体なんの用があるのだろう。
まさか、この奥に黒い月の拠点があるのか?
やがて、たどり着いた場所には――
(あれは……!)
転送石――のような石の輪があった。
その大きさは、いつも使っているものより大きく、形も少し違った。
周囲には、石柱が何本か立っている。
あれは――どこかで見たような形だ。
石の輪の中心は、紫色にぼんやりと光っている。
その前で、黒いローブの人物が、祈るような動きを繰り返していた。
「ねえ……明らかにヤバいでしょ、あれ」
ネラが声を潜めて言う。
石の輪の光は、次第に光量を増し、辺りを不気味に照らす。
そして――
(そんな……まさか!)
周囲に黒い瘴気が漂い始めたかと思うと――
ローブの人物を囲むように、数体の魔物らしきものが現れた。
「魔物を呼んだ……?」
アニスが食い入るように、魔物達を見つめている。
エルヴィアも、息を殺して様子を窺う。
まるで飢えて衰弱したような体躯。
異様に長い手足、大きな口、鋭い牙。
そして、顔の側面には、無数の目が不規則に並んでいる。
「まずい――こっちに来るわ」
アニスの声で、ハッと我に返る。
「茂みの側に伏せて、身を隠して」
三人は、素早く腹ばいになる。
黒ローブは、魔物を従えるように、ゆっくりと来た道を戻っていく。
どうにか、やり過ごせたかと思ったその時――
森におぞましい金切り声が響いた。
魔物の声だ。
一体の魔物が、エルヴィア達が隠れている茂みに顔を向けると、連鎖するように他の魔物も肩を震わせ、叫びだす。
「誰だッ?」
黒いローブの人物が振り返る。
「……姿を見せろ。出てこなければ、死ぬことになるぞ」
どうする――?
戦うか、それとも逃げるか。
迷っている時間はない――
「クソッ……」
アニスが歯ぎしりをしている。
エルヴィアは、静かにナイフを握りしめる。
「ふたりとも、聞いて――」
ネラが小声で言う。
「アタシが、あいつらを足止めする。合図したら、全力で逃げて」
足止めといっても、どうやって――?
「ネラ、危険よ。逃げるなら一緒に――」
「勿論、アタシも一緒に逃げるよ。別に、オトリになるつもりじゃないから」
そう言うと、ネラは不敵な笑みを見せた。
「まあ見ててよ。いい方法を思いついたんだ」




