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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第7章「星を望む者」

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5 夜半の集い

ある日、砦の町の隠れ家で、闇ギルドの会議が行われる

 「――他に、気になることはあるか?」


 カルスが、薄暗い部屋に集った闇ギルドの面々に尋ねた。


 一日が終わりに近づき、町の者の殆どがねぐらへ帰る頃――

 闇のギルドの皆もまた隠れ家へ集まり、情報や問題の共有を行っている。


 「あ、アタシ、あるよ」

 ネラが手を上げた。


 彼女は、師であるゲルヴに本格的な魔術の手ほどきを受け始め、今までに増して生き生きとしていた。

 以前までは退屈そうにしていた会議でも、近頃は意欲的に見える。


 「薬の材料が足りません!」


 ネラによると、解毒薬の材料となる〝妖精(ニンフ)の水〟が不足しているという。


 「こないだ、東の地に汲みに行ったんだけどね、使ってみたら、普通の水と殆ど変わらなかったんだよぅ」


 それを聞いて、アニスが口を開いた。

 「ああ、泉の妖精(ニンフ)なら、もうディードルグの森へ戻ったわよ」

 「えぇ? 聞いてないよ、そんなのぉ!」


 妖精(ニンフ)がいない泉は、ただの泉――

 ネラはとんだ無駄足を踏んでしまったことを知り、落胆したようだ。


 「それについて、ちょっと補足があるんだけど――」

 アニスが皆の注目を集める。

 「最近、またディードルグの雰囲気がおかしいのよ」


 先の吸血鬼(ヴァンパイア)の騒動の後――


 ディードルグ城は、未だ次の主が決まっていないそうだ。

 魔物が出現し、先の城主が不審死した曰くつきの城なのだし、名乗りを上げる者がおらずとも、やむを得ないが――

 

 城は放置され、今や廃城寸前ともいわれている。


 「妖精(ニンフ)は、魔物の姿を見たと言っていたわ。吸血鬼(ヴァンパイア)は私達が倒したはずだし、あの辺には元々、魔物なんていないのよ」


 「吸血鬼(ヴァンパイア)の時の残党ということはないか?」

 カルスが尋ねる。

 「多分、ないと思う。妖精(ニンフ)がディードルグに戻ってしばらくは、平和そのものだったらしいから」


 魔物といえば――

 

 この砦の町にも、魔物の襲撃があった。

 それは黒い月(ノル=ミーロ)の仕業だったわけだが――


 「ひょっとして、黒い月(ノル=ミーロ)が関係しているのかしら」

 アニスは、エルヴィアと同じことを考えているようだ。


 「――ゲルヴはどう思う?」

 カルスがネラの隣に座っていたゲルヴに話を振った。

 今は彼も、闇のギルドに協力してくれている。


 「そうじゃな……まず、魔物というものについてだが」

 皆がゲルヴを見る。

 「魔物とは、〝マナを取り込んだ生き物〟なんじゃ」


 ゲルヴはゆっくりと立ち上がる。

 「マナの多い土地では、長い月日をかけて獣が魔物へ変わる。そして、魔物はさらにマナを求めてさまよう」


 マナが濃い土地に魔物が多いのは、把握していた。

 しかし、魔物が元は獣であることは知らなかった。


 エルヴィアは、そこであることに気づく。

 「……ひょっとして、獣にマナを与え続ければ――」

 「あ! 魔物を〝作れる〟ってこと?」

 ネラが後に続けた。

 

 「そのとおり。マナの扱いに長けたものならば、不可能ではないな」

 エルヴィアの予想は、当たっていたようだ。

 「じゃが……魔物の群れをけしかけ、砦を落とすなどという所業は、常軌を逸しておる。なにか、別の方法があるはずじゃ」


 それを受けて、カルスが言う。

 「ディードルグに魔物が増えているのが事実なら、近づくのは危険だな――」


 ネラが渋い顔になる。

 「……水汲みに行くの、やめたほうがいいかなぁ」


 せめて原因が判るまでは、そうすべきだろう。


 「カルス――ディードルグを調査してみるのはどう? 私も少し気になるし」

 アニスが提案する。


 カルスは腕組みをして、しばらく考えていたが、やがて応えた。

 「そうだな……一度、様子を見に行くのも、いいかもしれん」

 「じゃあ、私が――」

 「ただし、黒い月(ノル=ミーロ)が関係しているようなら、すぐに手を引くんだ。奴らには無闇に関わるべきではない」


 カルスの意見はもっともだ。

 下手に黒い月(ノル=ミーロ)を刺激して、再びこの砦の町が襲われることは避けたい。


 「コッソリ行って、サッと水汲んで帰ってくればいいよね?」

 ネラが小声でエルヴィアに尋ねる。

 「それにさ、師匠に魔術を習ったし、アタシも魔物と戦えるよ」


 新しい杖を振り回すネラを見て、ゲルヴは顔をしかめる。

 「調査と言っておるじゃろう。それに、魔物相手に魔術を乱用してはならん」

 「なんで?」

 「さっき説明したじゃろ。魔物はマナに寄ってくる。魔術なぞ使ったら、いたずらに奴らをおびき寄せるだけじゃ」

 それを聞いて、ネラは不満げな声を上げた。


 「いずれにしても、気をつけて調査してほしい。人選に関しては、アニスに任せてもいいか?」

 カルスが訊くと、アニスは頷いた。


 ネラがアニスに、にじり寄る。

 「ねえ……アタシも連れて行ってくれるよねぇ?」

 「そ、そうね――いいけど、あくまで調査するだけよ。場合によっては、すぐに撤退する。ちゃんと守れる?」

 「守れる!」


 まるで母娘のようだな、とエルヴィアは苦笑する。


 「エル、あなたも同行してよ」

 「え?」

 「私ひとりじゃ、この子の面倒は見きれないわ。子守はあなたに任せる」


 ネラが再び口を尖らせる。

 それを見て、皆が笑った。


 闇のギルドも、随分と賑やかになった。

 この暖かな一時に、エルヴィアは束の間の安らぎを感じていた。

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