5 夜半の集い
ある日、砦の町の隠れ家で、闇ギルドの会議が行われる
「――他に、気になることはあるか?」
カルスが、薄暗い部屋に集った闇ギルドの面々に尋ねた。
一日が終わりに近づき、町の者の殆どがねぐらへ帰る頃――
闇のギルドの皆もまた隠れ家へ集まり、情報や問題の共有を行っている。
「あ、アタシ、あるよ」
ネラが手を上げた。
彼女は、師であるゲルヴに本格的な魔術の手ほどきを受け始め、今までに増して生き生きとしていた。
以前までは退屈そうにしていた会議でも、近頃は意欲的に見える。
「薬の材料が足りません!」
ネラによると、解毒薬の材料となる〝妖精の水〟が不足しているという。
「こないだ、東の地に汲みに行ったんだけどね、使ってみたら、普通の水と殆ど変わらなかったんだよぅ」
それを聞いて、アニスが口を開いた。
「ああ、泉の妖精なら、もうディードルグの森へ戻ったわよ」
「えぇ? 聞いてないよ、そんなのぉ!」
妖精がいない泉は、ただの泉――
ネラはとんだ無駄足を踏んでしまったことを知り、落胆したようだ。
「それについて、ちょっと補足があるんだけど――」
アニスが皆の注目を集める。
「最近、またディードルグの雰囲気がおかしいのよ」
先の吸血鬼の騒動の後――
ディードルグ城は、未だ次の主が決まっていないそうだ。
魔物が出現し、先の城主が不審死した曰くつきの城なのだし、名乗りを上げる者がおらずとも、やむを得ないが――
城は放置され、今や廃城寸前ともいわれている。
「妖精は、魔物の姿を見たと言っていたわ。吸血鬼は私達が倒したはずだし、あの辺には元々、魔物なんていないのよ」
「吸血鬼の時の残党ということはないか?」
カルスが尋ねる。
「多分、ないと思う。妖精がディードルグに戻ってしばらくは、平和そのものだったらしいから」
魔物といえば――
この砦の町にも、魔物の襲撃があった。
それは黒い月の仕業だったわけだが――
「ひょっとして、黒い月が関係しているのかしら」
アニスは、エルヴィアと同じことを考えているようだ。
「――ゲルヴはどう思う?」
カルスがネラの隣に座っていたゲルヴに話を振った。
今は彼も、闇のギルドに協力してくれている。
「そうじゃな……まず、魔物というものについてだが」
皆がゲルヴを見る。
「魔物とは、〝マナを取り込んだ生き物〟なんじゃ」
ゲルヴはゆっくりと立ち上がる。
「マナの多い土地では、長い月日をかけて獣が魔物へ変わる。そして、魔物はさらにマナを求めてさまよう」
マナが濃い土地に魔物が多いのは、把握していた。
しかし、魔物が元は獣であることは知らなかった。
エルヴィアは、そこであることに気づく。
「……ひょっとして、獣にマナを与え続ければ――」
「あ! 魔物を〝作れる〟ってこと?」
ネラが後に続けた。
「そのとおり。マナの扱いに長けたものならば、不可能ではないな」
エルヴィアの予想は、当たっていたようだ。
「じゃが……魔物の群れをけしかけ、砦を落とすなどという所業は、常軌を逸しておる。なにか、別の方法があるはずじゃ」
それを受けて、カルスが言う。
「ディードルグに魔物が増えているのが事実なら、近づくのは危険だな――」
ネラが渋い顔になる。
「……水汲みに行くの、やめたほうがいいかなぁ」
せめて原因が判るまでは、そうすべきだろう。
「カルス――ディードルグを調査してみるのはどう? 私も少し気になるし」
アニスが提案する。
カルスは腕組みをして、しばらく考えていたが、やがて応えた。
「そうだな……一度、様子を見に行くのも、いいかもしれん」
「じゃあ、私が――」
「ただし、黒い月が関係しているようなら、すぐに手を引くんだ。奴らには無闇に関わるべきではない」
カルスの意見はもっともだ。
下手に黒い月を刺激して、再びこの砦の町が襲われることは避けたい。
「コッソリ行って、サッと水汲んで帰ってくればいいよね?」
ネラが小声でエルヴィアに尋ねる。
「それにさ、師匠に魔術を習ったし、アタシも魔物と戦えるよ」
新しい杖を振り回すネラを見て、ゲルヴは顔をしかめる。
「調査と言っておるじゃろう。それに、魔物相手に魔術を乱用してはならん」
「なんで?」
「さっき説明したじゃろ。魔物はマナに寄ってくる。魔術なぞ使ったら、いたずらに奴らをおびき寄せるだけじゃ」
それを聞いて、ネラは不満げな声を上げた。
「いずれにしても、気をつけて調査してほしい。人選に関しては、アニスに任せてもいいか?」
カルスが訊くと、アニスは頷いた。
ネラがアニスに、にじり寄る。
「ねえ……アタシも連れて行ってくれるよねぇ?」
「そ、そうね――いいけど、あくまで調査するだけよ。場合によっては、すぐに撤退する。ちゃんと守れる?」
「守れる!」
まるで母娘のようだな、とエルヴィアは苦笑する。
「エル、あなたも同行してよ」
「え?」
「私ひとりじゃ、この子の面倒は見きれないわ。子守はあなたに任せる」
ネラが再び口を尖らせる。
それを見て、皆が笑った。
闇のギルドも、随分と賑やかになった。
この暖かな一時に、エルヴィアは束の間の安らぎを感じていた。




