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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第7章「星を望む者」

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4 星の導き

 「では、始めるとするか――」


 ゲルヴは咳払いをすると、腰のポーチから青い宝石を取り出した。


 (あれは……〈トラーハ・ジェム〉?)


 かつて、エルヴィアが東の地で手に入れた宝石だ。

 ゴーレムの残骸から拾い上げたものだったが――


 ゲルヴの持つ杖の先端に、トラーハ・ジェムが嵌め込まれる。


 「風を遮れ(オラ=スール)!」


 呪文と共に杖が虚空に踊る。

 すると、崩れた壁の近くに積み上がっていた石が、触れてもいないのにガタガタと震えだす。


 「おお……」

 石積み職人は、息を呑む。


 石は次々に動き出し、やがて宙に浮いた。

 そればかりか、崩落した壁の隙間を埋めるように、石が積み上がっていく。


 あっという間に、石は壁に姿を変えた。

 その場にいた皆が、口を開けて呆けている。


 「ほれ、ぼうっとしとらんで、今のうちに漆喰で塗り固めるんじゃ」


 職人はハッと我に返り、いそいそと準備を始めた。


 「おおぉ! やっぱり師匠は凄かった!」

 ネラが大喜びして跳ね回っている。


 一方、エルヴィアは戦慄していた。

 魔術の力とは、これほど自由自在なのか――


 「物凄い力ですね……」

 「トラーハ・ジェムは、物に触れずに動かす力を持つ石。無論、これもスーラ=マナによって明かされた知識じゃ」


 しかし、この力が悪用されることを考えると、恐ろしい。

 

 「この〈浮遊の魔術〉は、魔術の基礎ではあるが、それ故に最も難しいといっても過言ではない技術――」

 ゲルヴは壁を見つめながら言う。

 「自慢ではないが、ここまでできる術者はそうはおらん。黒い月(ノル=ミーロ)の中にもな。そう心配せんでもいい」


 気づけば、ネラは漆喰を塗る作業を手伝っている。


 「ネラには、こういった魔術は教えられなかったのですか?」

 「うむ……よく教えろとせがまれたが、下手に力を持つと、時に危険に巻き込まれることもある」


 黒い月(ノル=ミーロ)に利用されるのを恐れたのだろうか――


 「ポーションの精製法だけ知っておれば、まず食うに困ることはない。あれには、平穏な暮らしを送ってほしいと思っとったんじゃ」


 ネラはかつて――

 ドルイドの村で暮らしていたが、そこから放逐された過去がある。

 それでも、あんな風に明るく育ったのは、きっとこの老いた魔術師の存在が大きかったのだろう。


 「ゲルヴ先生――お願いがあります」

 「なんじゃ?」

 「ネラに、魔術を教えてあげてはくれませんか?」


 彼女は近頃、よくこぼしていたのだ。


 『アタシって、役に立ってるのかなぁ――』


 町に人が集まるにつれて、共同体の基盤を整える仕事が主になっていった。

 闇のギルドの人員は、そういった能力に長けた者が多かったのだ。

 

 それを見ていたネラには、なにか思う所があったのかもしれない。

 

 「彼女は必死に勉強して、文字も読めるようになりました。口にはしないけれど、魔女としてもっと皆の役に立ちたいと思っているはずです」


 それでも、先人がいなければ、努力の仕方さえ分からないのだ。


 「彼女は前を向いています。今、必要なのは道標なのです。どうかネラを導いてあげてください――」


 ゲルヴは、小さく溜息をついた。

 「そうじゃな……道標、か」

 そして、短い沈黙の後、ゆっくりと語りだす。

 

 「魔女や魔術師は、星の導きによって先を見通す。ワシが王都を離れたのも、星を見て決めたことなんじゃ」


 老いた魔術師は、星の見えない真昼の空を仰いだ。


 「そして、その先でネラと再び相まみえた。先の短い老いぼれが成すべきは、あの娘になにかを残してやること、なのかもしれんな」


 そう言うと、ゲルヴはゆっくりと足を踏み出す。


 「あ、師匠。ほら見て、もう壁がほとんどできちゃったよ」

 ネラが満面の笑みでゲルヴを迎える。

 「じゃ、次はあっちの壁ね――」


 それを聞いたゲルヴは、目を丸くする。

 

 「これこれ、まだやらせるつもりか?」

 「え、もう疲れちゃったのぉ?」

 「少しは年寄りを労らんか、全く……」


 苦笑いしながら、ゲルヴは己の杖をネラに手渡した。

 「次は、お前さんがやってみるんじゃ」

 「え?」


 ネラは杖を受け取って、きょとんとしている。

 

 「〈浮遊の魔術〉は、一生を懸けて研鑽を積むべき技術じゃ。これから毎日、怠けずに続けられるか?」


 ゲルヴの言葉に、ネラは大きく頷いた。

 「うん、頑張る!」


 一切の曇りのない笑顔――

 それはまるで、星が見つけた太陽だった。

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