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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第7章「星を望む者」

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3 移ろう者達

エルヴィア達は、魔術師ゲルヴォーグを伴って、砦の町へ向かう

 エルヴィア、ネラ、そして魔術師ゲルヴの三人は、砦の町へ出発した。

 馬上では話がしづらいので、道中の旅小屋で落ち着いてからスーラ=マナについて訊くことにした。


 「さて、スーラ=マナについての話じゃったな」

 

 ゲルヴは羊毛(ウール)の毛布にくるまって語り始めた。

 「スーラ=マナとは、その名のとおり、〈マナ〉を操るすべを、この地に残したといわれる賢者のこと」


 それは、細工人の村の長も言っていた。


 「今は、その行方は知れないのですね?」

 エルヴィアの問いに、ゲルヴは頷く。

 「うむ……大昔からの言い伝えや古文書にその名が出てくるが、今この時代にも存在しているかは分からん」


 ネラが、唐突に手を上げる。

 「はいはぁい! 〈神の遺物〉も、スーラ=マナが残したものなんだよね?」

 「そのようじゃ。正確にいえば、〈遺物〉の〝製法〟を伝えたといわれとる」


 〈神の遺物〉とは、人の手によって作れるものなのか。

 

 「〈遺物〉とて、魔装品とさして変わるものではない。しかし、その神の如き力を如何にして宿すのか――」


 この老人は、その方法を知っているのだろうか?


 「ワシも若い頃、その知識を求めて、放浪の旅に出たものだ。だが――」

 ゲルヴは咳払いをして続ける。

 「得られたのは手がかりのみ。肝心の方法を知るまでには至らなかった」


 小屋の隅に座っているネラが「なぁんだ」と拍子抜けしたような声を上げた。


 「で、師匠が見つけた手がかりって、なんなの?」

 「スーラ=マナの〝伝書〟じゃ」

 「でんしょ?」

 「スーラ=マナが残した知識を集めて書き記した書物じゃよ」


 書物か――

 とはいえ、そう簡単に手に入るものではないだろう。


 「そのとおり。特に〈遺物〉に関するものは、もう失われているやもしれん」

 「全然ダメじゃん」

 「しょうがないじゃろう。神の力に関わるものなど、秘中の秘じゃて」


 〈遺物〉の話も気になるが――

 エルヴィアは、もうひとつ気になることがあった。

 

 「黒い月(ノル=ミーロ)のことですが……」

 「うむ」

 「彼らは、スーラ=マナの意思を継ぐ者と自称していました。それに、誇り高き神民である、とも――」


 ゲルヴは目を細める。

 「あやつらは、ディの民こそが神に選ばれし民であると考えておる。だが、そんなことは有り得ない……」

 「なぜです?」

 「例えば、エルフの存在。彼らもまた、魔術を駆使する。スーラ=マナは、必ずしも、ディだけにその業を伝えたのではない」


 確かにそうだ。

 エルヴィアも、エルフ達が魔法円を展開するのを見た。

 

 「それに〈神の遺物〉のこともある。かつて、ディを迫害した者達、あれらもまた〈遺物〉の力によって、この地の覇権を握ったのじゃ」


 エルヴィアは、左手の指輪をちらりと見る。


 「恨みの記憶は時を経て膨張し、あやつらを狂気の徒へと変えた。もはや、止まることはあるまい……」


 ゲルヴは、静かに目を伏せる。


 「さて、ワシは少々疲れた。話の続きは、また今度にしてもらえるかね?」

 「ええ、ありがとうございました。そろそろ休みましょうか――」


    †


 翌日、三人は砦の町へ無事に到着した。

 

 「ほほぉ。思いの外、賑わっておるのう――」


 ゲルヴは町の様子を眺めて、感嘆の声を上げた。

 「あれは露天か?」


 ネラは、途端に元気になった師に面食らっている。

 「ちょっと師匠、迷子にならないでよ」

 「大丈夫じゃ。ちょっと見て回るだけじゃ」


 エルヴィアは微笑みながら、その後についていく。


 「もう、落ち着きない年寄りなんだから――」

 ぼやきつつも、ネラはなんだか嬉しそうだ。


 三人は、しばらく露天や広場を見て回り――

 やがて東の門の所までやって来た。


 「ここが町の端っこだよ」


 東門には、未だに魔物の襲撃の痕が残っている。

 砦の壁や扉の損傷具合が痛ましい。

 最近になって、ようやくこの辺りの補修作業が始まったのだ。


 「ああ、エルさん」

 呼び止められて振り向くと、見覚えのある石積みの職人がいた。


 「どうしました?」

 「いや、ちょいと困ったことがあって――」


 事情を聞くと、補修の人手が足りないのだという。

 「東の地に探索に出る輩が増えちまってね……そっちの方が稼げるってんで」


 近頃は、砦の町でも経済が回るようになった。

 そのせいで、より実入りのいい仕事に鞍替えする者が後を絶たないのだ。


 「ルバエドさんにも相談してるんですが――なかなか難しいらしくて」

 「そう……困りましたね」


 エルヴィアと職人が立ちつくしていると、ゲルヴが近づいてきた。


 「人手が足らんようじゃな」

 「ええ……」

 「丁度いい。ワシに任せてみんか?」


 ネラが顔をしかめる。

 「いや、年寄りには無理だよ……石なんか持ち上げたら腰が抜けちゃうよ」


 それを聞いたゲルヴは、にやりと笑った。

 

 「ネラよ、お前さんも魔女の端くれじゃろ。少しは頭を使わんか」

 「ええ……? 頭で石を積むの?」

 「馬鹿者、そんなわけがあるか」


 ゲルヴは小さく溜息をついた。

 「仕方のない弟子じゃのう……さぁて、魔術師のなんたるか、しかとお目にかけるとしようか――」

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