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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第7章「星を望む者」

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2 孤高の魔術師

 「びっくりしたよ、もう――」


 隠れ家の地下室から現れた老人は、ネラの師だった。

 彼は、色褪せた黒褐色のローブに、魔女や魔術師が好む、つば広の先が尖った帽子を被っていた。


 「驚いたのはこっちじゃよ。盗賊かと思うて肝を冷やしたわい」


 老人は「ゲルヴォーグ」と名乗った。

 「長いので、皆『ゲルヴ』と呼ぶ。お前さんも、そう呼ぶといい」


 それにしても、ゲルヴはなぜ、この隠れ家の地下にいたのだろう。

 エルヴィアが問うと、ネラが代わりに答えた。


 「ああ……実はさ、この家は元々、師匠が使ってた家なんだ」


 それは知らなかった。

 てっきり、闇ギルドが所有しているものとばかり思っていたが――


 「アタシが闇のギルドに入った頃、師匠は王都に移ったから、使わせてもらってたんだよね」


 聞けば、ネラはドルイドの村から離れた後、ゲルヴに出会い、この隠れ家で共に暮らしていたという。

 地下のポーションの精製器も、本当はゲルヴの持ち物なのだそうだ。


 「では、王都が戦地となったため、戻ってきたというわけですか」

 「まあ、そういうことじゃな」

 「それは――災難でしたね」


 王都では、まだ緊張状態が続いているらしい。

 

 「騎士団と黒い月(ノル=ミーロ)は、大きく衝突することは稀だが、双方が疑心暗鬼になっとってな――」

 「というと?」

 「王都周辺の民への問い詰めが厳しい。口を開けば『貴様が間者か』などと、とにかく疑いの目で見よるわ」


 息苦しいものだ。

 それでは民の心は荒むばかりだろう。

 砦の町に多くの人が集まるのも道理だ。


 「それにしても――」

 ゲルヴは部屋を見回す。

 「ここを根城にしていた連中……闇ギルドとやらの者達は、どこへ行ってしまったんじゃ?」


 ネラが答える。

 「あ、それなんだけど、アタシ達は今、東の砦の町を立て直してるんだ」

 「ほう、ありゃ闇ギルドの仕業か。中々、大胆なことを考えるのう」


 ゲルヴも、砦の町の噂は聞いていたそうだ。

 「で、お前さんも、その仲間のひとりかね?」


 そこでエルヴィアは、ようやく名乗った。

 「申し遅れました。私はエルといって、ネラの友人です」

 「……見たところ、貴族のようだが」

 「今はもう、違います――」


 ゲルヴはなにやら察したのか、それ以上のことを尋ねはしなかった。


 「今の砦の町は、貴族も庶民もないんだよ。マスターやエルが先頭に立って、新しい考えで大勢をまとめてるんだ」


 ネラが嬉しそうに語る。

 その表情を、ゲルヴは孫を見るような目で見つめている。


 「もはや、次の時代がやってきたか――」

 「え?」

 「いいや……なんでもないわい」


 ゲルヴは咳をしてから、再び口を開いた。

 「ところで、お前さんらは、これからどこへ? 砦の町へ帰るのか?」

 「ああ、実はねぇ――」


 ネラは、ゲルヴに会いに王都まで行くつもりだったことを告げた。


 「それは丁度よかったのう。今は王都には近づかん方がいい」

 「師匠はこれからどうするの?」

 「うむ、しばらくはここで寝起きしようと思っとったが……」


 ネラいわく、ゲルヴは『凄い魔術師』だ。

 ならば、訊きたいことがある――


 「あの――実は、お尋ねしたいことがあるのです」

 「ん? なんじゃ?」

 「その、訊きたいことは沢山あって……なので、宜しければ一度、砦の町へいらっしゃいませんか?」


 ゲルヴは少し、戸惑っている様子だ。

 「ううむ、いずれ行こうとは思っていたが、また急な話じゃのう」

 「来なよ、師匠! あっちは暖かい部屋もあるし」


 少しの間を開けて、ゲルヴはエルヴィアに向き直る。

 「……とりあえず、ここで話しても問題ないかね?」

 「ええ、勿論です」


 ゲルヴはゆっくりと頷いた。

 「それで、訊きたいこととは?」


 エルヴィアは、少し緊張しながら尋ねる。

 「スーラ=マナを、ご存知ですか?」


 その問いを口にした途端、ゲルヴの目つきが変わった。


 「その名を、どこで聞いた?」

 「東の地に住む、ディの民です」

 「ふむ……」


 そこにネラが口を挟む。

 「あとさぁ、黒い月(ノル=ミーロ)の奴らも言ってたんだよね? スーラ=マナがどうとか……」

 「――なんじゃと?」


 ゲルヴは目を見開く。

 「あやつらと話したのか?」

 「ええ、砦の町が魔物に襲撃された時に――」


 エルヴィアは、黒い月(ノル=ミーロ)と接触した時のことを説明した。


 「なんとまあ、命知らずな真似をするものじゃ」

 ゲルヴは驚きながらも、わずかに笑みを漏らしている。

 

 「実はな、ワシも黒い月(ノル=ミーロ)から身を隠そうと、ここにきたんじゃが……」

 ゲルヴはゆっくり立ち上がった。

 「そういう事情なら、砦の町の方が安全かもしれんな」


 エルヴィアも椅子から立ち上がって尋ねる。

 「やはり、今から砦へ行かれますか?」

 「ああ、すまんが、厄介になるとしよう。スーラ=マナについては、歩きながら話す。それでよいかな?」


 エルヴィアとネラは、大きく頷いた。

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