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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第7章「星を望む者」

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1 古巣の闖入者

 季節は秋の暮れ。

 吹く風の冷たさは、もうすぐ冬が来ることを伝えている。


 魔物の襲撃で陥落した砦の町にも、だいぶ人が集まった。

 完全にとはいかないが、以前の活気を取り戻しつつある。


 町の復興には、カルスやパリオ、そしてルバエドが尽力した。

 特にルバエドは、父・ロルドの腹心として、多くの人脈を築いていたため、働き手の振り分けに寄与した。

 物資を運ぶ荷馬車や職人の出入りも活発で、食料や住まいの問題も着実に解決していった。


 エルヴィアは、戦を嫌って逃げてきた民への支援や、異種族同士の交流の仲立ちを主に担当した。

 

 最も頭を悩ませたのは、没落した貴族とディの末裔との揉め事だった。


 エルオリドや、その他の地域にも、ディの血筋に連なる者は大勢いる。

 彼らは黒い月(ノル=ミーロ)ほどの強硬派ではないが、誰しも貴族に対する複雑な感情を抱えていたのだ。

 助けを求めて砦へやってきた白金(プラチナ)の髪の人々との間に軋轢が生じるのも、致し方ないところだった。


 だが、誰に対しても分け隔てなくその言葉に耳を傾け、理解しようとするエルヴィアの姿を見て、人々の荒んだ心も少しずつ解けていった。


 「エルのおかげで、この町が上手く回ってるとアタシは思うよ」

 ふと、ネラがそう言ってくれたことがあった。

 「こないだ、男共が言ってたよ。『元貴族とは思えんほど気さくだ』って。修道院の高慢ちきな女達より、よっぽどいいってさ」


 恥ずかしかったが、自分の働きが認められた気がして、嬉しかった。


 この町では、身分の上も下もない。

 皆が、ただ働き、食べて寝る場所だ。

 ここに住む者は皆、その素朴な環境を気に入っていた。


    †


 ある日、エルヴィアはネラと酒場で落ち合った。

 重要な会議の時以外は、専らこの酒場が闇のギルドの溜まり場になっている。

 

 「今まで、すっかり忘れてたんだけどさぁ」

 ネラが、お気に入りのハーブエールを飲みながら言う。

 「実は、王都にアタシの〝師匠〟が住んでるんだ――」


 師匠とは、ネラにポーションの精製法を授けた人物らしい。


 「師匠も古代人――ディの血を引く凄い魔術師なんだけど、王都は今、荒れてるだろうし、ちょっと心配なんだよねぇ」


 魔術師か――

 エルヴィアの頭に、不吉な予感が芽生えた。


 「違うとは思うけど、その人が黒い月(ノル=ミーロ)の一員、ということは……?」

 「ううん……それも含めて、気になっててさ」


 王都の魔女や魔術師は、大抵はその能力を貴族や教会に捧げる。

 〈聖教庁〉の防衛や、魔術の研究、騎士団へ支給するポーションの精製などが、彼らに求められる仕事だ。


 「師匠は、そういう〝真面目〟な仕事は殆どしてなかったみたい。だから、怪しいといえば怪しいんだよねぇ……」


 ネラが気にするのも頷ける。

 今、王都付近では教会関連の施設への襲撃はもちろん、要人の闇討ちや、貴族の屋敷が火事になるなど、あらゆる事件が頻発しているらしい。


 「だからさ、ちょっと様子を見にいってみようかと思ってるんだ」

 「それは……危険じゃないかしら」

 「うん、まあ、分かってるけどさ」


 ネラは魔女だ。

 もし王都で騎士団などと鉢合わせたら、ただでは済まないだろう。


 「――もし、どうしても王都に行くのなら」

 エルヴィアはマグの液面に視線を落とす。

 「私と一緒に行くというのはどう?」


 「ええっ? でもエルは忙しいんじゃ……」

 ネラはなぜだか、及び腰な様子だ。


 「最近はいざこざも殆どないし、他の人に仕事を任せることも増えてきたから」

 「そう……?」

 「ええ。それに、偶には外の様子を見ておきたいと思っていたの」


 それはエルヴィアの本心だった。

 時代の流れというものを、直にこの目に焼き付けたい。


 多くの人々と関わるようになった今――

 そこから学ぶべきことも、きっとあるはずだ。


 「へへ……なら久しぶりに、一緒に出かけようか」

 ネラは目を細めて笑った。


    †


 ふたりは〈旅馬〉に乗って、砦の町を発った。

 旅馬は、速さは控えめだが体力があり、遠出にはもってこいの馬だ。


 一日かけて、サルディアの町へ着く。

 町の隠れ家で休息を取り、少し離れた場所にある転送石(ポータル)で、王都の近くまで移動する予定だ。

 細工人の村で教えてもらった転送石(ポータル)の情報がなければ、王都へ行くことを躊躇していただろう。


 隠れ家の扉を開け、中に入ると――


 「ありゃ?」


 ネラが声を上げた。


 「地下の入口……開いてるよ」


 ネラが指差した先を見ると、確かに、床に隠された地下への入口が、開けっ放しになっていた。


 「誰か来てるのかなぁ?」


 エルヴィアは声を潜める。

 「ネラ――もしかしたら盗人かもしれないわ」

 「ええ? こんな不気味なボロ家に入るかなぁ……?」


 ふたりでコソコソと話していると、微かに物音が聞こえる。

 それは、石の階段を上ってくる音だ――


 「上がってくる!」

 「どうする? 隠れる?」


 自分達の家で隠れるというのもおかしな話だ、とエルヴィアは思った。

 

 ふたりがあたふたしていると、足音の主が、床下からひょいと姿を現す。


 「ん? ああッ!」


 ネラが高い声を上げる。

 そこには、立派な髭を生やした老人がいた。


 「師匠!」


 ネラにそう呼ばれた老人は、放心したように、ただこちらを見つめていた。

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