6 聖職者の来訪
森の魔物をやり過ごし、エルヴィアとネラは闇ギルドの隠れ家へ戻る
ネラは隠れ家の鎧戸を開け、外を眺めている。
降り出した雨は、次第に勢いを増す。
「ここで過ごすならば――」
エルヴィアが、独り言のように呟く。
「私も、なにかの役に立たなければならない、のでしょうね」
ネラが振り向く。
「さあ、どうだろうね? そのうちマスターが、なんか言ってくるんじゃない?」
カルスはおそらく、屋敷へ行っているはずだ。
「ギルドの仕事を持ってくるのも、大抵はマスターだからね。それがない時は、皆好き勝手にやってるよ」
この闇ギルドへ連れてこられたのは、〝悪魔の手〟のせいだ。
しかしエルヴィアは、あの力の操り方すら分からないのだ。
頭にちらつく昨晩の光景を、溜息と共に振り切った。
「ところで……ここには、他にもお仲間が?」
「うん、結構いるよ。五、六人はいるんじゃないかな?」
ひょっとして、その全員が〈神の遺物〉を持っているのか?
「や、そんなことないよ。アタシ達みたいのは少数派。マスターだって持ってないんだから、もっと威張っていいよ」
ネラは冗談めかして笑う。
「お、噂をすれば〝お仲間〟の登場だよ」
入口の扉が開く。
雨の中に、クロークをまとった人物が立っていた。
「ネラですか――カルス殿は?」
「マスターは出かけてるよ」
「そうですか。人が見えたので寄ったのですが……そちらは?」
「エルだよ」
クロークの男がフードを上げて顔を見せる。
なかなかに威厳のある顔つきだ。
その目がエルヴィアを鋭く射抜く。
「――どこかで、お会いしましたかな」
「いえ……」
つい、顔を背けてしまう。
「ちょっとぉ、いきなり女漁りはやめてよね」
ネラが口を尖らせる。
「なにをいうのです。高貴なお方にそのような真似などしませんよ」
こちらの素性を知っているのか――?
「失礼致しました。私は『パリオ・ヴァーガルト』と申します。見てのとおり、正しき神の教えを説く者です――」
〝ヴァーガルト〟とは、どこかで聞いた名だ。
それにしても、聖職者――〈教会〉の者がなぜ、ここに?
「嘘ばっかり。神の悪口ばっかり言ってるくせに」
ネラが口を挟む。
「それは大いなる誤解ですよ、ネラ。私は神を否定しているのではない。誤った信仰に異を唱えているだけなのです」
パリオは〈ゼリア神〉を讃える印を結ぶと、こちらに向き直った。
「さて高貴なる方――お名前をお伺いしてよろしいか?」
「エルヴィア・サルディーン――東の辺境伯の娘です」
「おや、これはこれは……」
鋭い目が再びエルヴィアを捉えた。
「伯爵のご息女が、このような場所に……」
パリオの声が、少しの緊張を帯びる。
「その服装、そして、その指に嵌ったモノ――だいぶ〝訳あり〟のご様子だ」
この男も、知っているのか。
それならば――
「――ヴァーガルト卿、ご存知なら、この指輪のことを教えてくださいませんか」
エルヴィアの眼差しを受け、パリオは語る。
「知っている、というほどではありません。おそらく〈神の遺物〉のひとつでしょう。〈遺物〉は古い文書に記録があるが、その指輪は初めて見ました」
ネラが「なんだ、知らないのぉ?」と拍子抜けしたような声を上げる。
「ですが、その指輪には非常に興味があります。それを手にした経緯を聞いてもよろしいですかな?」
教えてよいものか迷ったが、少しでも情報が欲しい。
一応、ギルドの一員のようだし、この際、包み隠さず話すことにした。
†
「なるほど――力があるのは間違いないが、使い方が分からぬ、と」
エルヴィアは頷いた。
昨夜の出来事を、できるだけ詳細に話したのだが――
「月、それか闇――あるいは血か土、ですか」
パリオは顎に手を当てて言った。
一体なんのことだ?
「それにしても、凄い力だねぇ、エルのやつ。思ったけどさ、アタシと組んだら最強じゃない?」
ネラは妙に楽しそうだ。
「神の力をみだりに使うものではありません――と言いたいところですが、実のところ、私も好奇心が押さえ切れませんな」
パリオまでもが浮き立っている。
やがて、鼻を鳴らすと、パリオは指を立てて言った。
「その力――試してみるというのは、いかがです?」




