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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第1章「夜の逃亡者」

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6 聖職者の来訪

森の魔物をやり過ごし、エルヴィアとネラは闇ギルドの隠れ家へ戻る

 ネラは隠れ家の鎧戸を開け、外を眺めている。

 降り出した雨は、次第に勢いを増す。


 「ここで過ごすならば――」

 エルヴィアが、独り言のように呟く。

 「私も、なにかの役に立たなければならない、のでしょうね」


 ネラが振り向く。

 「さあ、どうだろうね? そのうちマスターが、なんか言ってくるんじゃない?」

 

 カルスはおそらく、屋敷へ行っているはずだ。

 

 「ギルドの仕事を持ってくるのも、大抵はマスターだからね。それがない時は、皆好き勝手にやってるよ」


 この闇ギルドへ連れてこられたのは、〝悪魔の手〟のせいだ。

  

 しかしエルヴィアは、あの力の操り方すら分からないのだ。

 頭にちらつく昨晩の光景を、溜息と共に振り切った。


 「ところで……ここには、他にもお仲間が?」

 「うん、結構いるよ。五、六人はいるんじゃないかな?」

 

 ひょっとして、その全員が〈神の遺物〉を持っているのか?


 「や、そんなことないよ。アタシ達みたいのは少数派。マスターだって持ってないんだから、もっと威張っていいよ」

 ネラは冗談めかして笑う。


 「お、噂をすれば〝お仲間〟の登場だよ」


 入口の扉が開く。

 雨の中に、クロークをまとった人物が立っていた。


 「ネラですか――カルス殿は?」

 「マスターは出かけてるよ」

 「そうですか。人が見えたので寄ったのですが……そちらは?」

 「エルだよ」


 クロークの男がフードを上げて顔を見せる。

 なかなかに威厳のある顔つきだ。

 その目がエルヴィアを鋭く射抜く。


 「――どこかで、お会いしましたかな」

 「いえ……」

 つい、顔を背けてしまう。


 「ちょっとぉ、いきなり女漁りはやめてよね」

 ネラが口を尖らせる。

 「なにをいうのです。高貴なお方にそのような真似などしませんよ」


 こちらの素性を知っているのか――?


 「失礼致しました。私は『パリオ・ヴァーガルト』と申します。見てのとおり、正しき神の教えを説く者です――」


 〝ヴァーガルト〟とは、どこかで聞いた名だ。

 それにしても、聖職者――〈教会〉の者がなぜ、ここに?


 「嘘ばっかり。神の悪口ばっかり言ってるくせに」

 ネラが口を挟む。

 「それは大いなる誤解ですよ、ネラ。私は神を否定しているのではない。誤った信仰に異を唱えているだけなのです」


 パリオは〈ゼリア神〉を讃える印を結ぶと、こちらに向き直った。


 「さて高貴なる方――お名前をお伺いしてよろしいか?」

 「エルヴィア・サルディーン――東の辺境伯の娘です」

 「おや、これはこれは……」


 鋭い目が再びエルヴィアを捉えた。

 「伯爵のご息女が、このような場所に……」

 パリオの声が、少しの緊張を帯びる。

 「その服装、そして、その指に嵌ったモノ――だいぶ〝訳あり〟のご様子だ」


 この男も、()()()()()のか。

 それならば――


 「――ヴァーガルト卿、ご存知なら、この指輪のことを教えてくださいませんか」


 エルヴィアの眼差しを受け、パリオは語る。

 「知っている、というほどではありません。おそらく〈神の遺物〉のひとつでしょう。〈遺物〉は古い文書に記録があるが、その指輪は初めて見ました」


 ネラが「なんだ、知らないのぉ?」と拍子抜けしたような声を上げる。


 「ですが、その指輪には非常に興味があります。それを手にした経緯を聞いてもよろしいですかな?」

 

 教えてよいものか迷ったが、少しでも情報が欲しい。

 一応、ギルドの一員のようだし、この際、包み隠さず話すことにした。


    †


 「なるほど――力があるのは間違いないが、使い方が分からぬ、と」


 エルヴィアは頷いた。

 昨夜の出来事を、できるだけ詳細に話したのだが――


 「月、それか闇――あるいは血か土、ですか」


 パリオは顎に手を当てて言った。

 一体なんのことだ?


 「それにしても、凄い力だねぇ、エルのやつ。思ったけどさ、アタシと組んだら最強じゃない?」

 ネラは妙に楽しそうだ。


 「神の力をみだりに使うものではありません――と言いたいところですが、実のところ、私も好奇心が押さえ切れませんな」

 パリオまでもが浮き立っている。

 

 やがて、鼻を鳴らすと、パリオは指を立てて言った。

 「その力――試してみるというのは、いかがです?」

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