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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第6章「薄明の兆し」

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7 黒い月

 小雨の中、エルヴィアは、びくとも動かない衛兵(ガード)を見下ろしていた。

 

 あの轟音と、激しい光――

 なにが起きたのか分からなかったが、次第に状況を飲み込む。


 (あれはきっと、落雷……)


 「魔法円を展開しろッ!」


 マン・キンフの声だ。

 エルフ達が携えた杖を掲げると――

 エルヴィア達の足元に、光り輝く紋様が広がっていく。


 「どこからか、魔術で狙われている! 皆、魔法円の中へ入れ!」


 雷の魔術?

 そんなものを操れるのは、魔女か、魔術師か――

 

 「ダークエルフが隠れているかもしれん」

 キンフが周囲を見回す。

 「我がハイエルフの一族は、〈雷霆の神〉の力を借りたダークエルフの攻勢に、苦杯を喫した過去があるのだ」


 空を見上げると、黒い雲が濃くなってきている。

 この雲を呼ぶのも雷霆の神とやらの力なのか――?


 「この魔法円の中であれば、魔術を退けられる。まずは敵を探すぞ」


 敵はどこだ――

 建物の陰か?

 それとも胸壁の上か?


 雨のせいで視界が悪く、索敵もままならない。

 魔法円の中で、膠着状態が続く。


 「やむを得んな……ムース、頼む」

 カルスが目配せすると、ムースカリトゥは、振り香炉に骨を捧げた。


 「死霊の軍勢(クェンダ=マルナ)……目覚めよ」


 雨の町に、煙が広がっていく。

 そして、辺り一面に転がっている屍が、ゆっくりと動き出す。


 「な、なんだ、これは……」

 エルフ達は、驚きの声を上げる。


 砦の町は、たちまち死者の町へと姿を変えた。


 死霊(ドラウグ)の群れは、やがて散開し、歩き出す。

 その数は、相当なものだ。


 死霊(ドラウグ)達が、裏路地や物陰へと向かったその時――

 

 「待て!」

 

 町に大声が響く。


 「我らは対話を求める――死霊(ドラウグ)を止めろ!」

 声はするが、その姿は見えない。


 「ならば姿を見せろ!」

 カルスが大声を返す。


 少し間をあけて――

 四、五人の人影が、町のそこかしこから現れた。

 それらは皆、漆黒のローブをまとっている。


 「出てきたぞ――死霊(ドラウグ)を止めろ」


 ムースカリトゥが「囲め」と命ずると、死霊(ドラウグ)達は、黒ローブの者達を取り囲み、そのまま歩みを止めた。


 「――魔物に町を襲わせたのは、お前達か?」

 カルスが黒ローブのひとりに問いかける。

 

 「だとしたら、どうだというのだ」

 「……なぜ、ここを襲撃した?」

 「なぜ、だと――?」


 黒ローブの男は、少し驚いた様子だ。


 「貴様らは何者だ? 砦の衛兵(ガード)ではなさそうだが――」


 何者か、と訊かれると、答えるのは難しい。

 傍から見れば、烏合の衆といっても差し支えない集まりだ。


 「ハイエルフがいるのか。その上、死霊(ドラウグ)を操る者まで――」

 あちらも、エルヴィア達の素性を訝しんでいる。

 「まさか、〝教会〟の隠し玉か……?」


 「俺達は教会の手駒ではない」

 カルスが言う。

 「お前たちは、アゼリア聖教と対立する勢力なのか?」


 教会と対立する勢力。

 もしや――

 

 「妙な集団だな……まあいい」

 黒いローブの男は、短く鼻を鳴らす。

 「こんな砦など、我々にとってはどうでもいい。ただ〝奴ら〟は選(・)択(・)を(・)誤(・)っ(・)た(・)。これはその報いだ」


 〝報い〟――?


 「……そこの女よ、貴様は貴族だな?」

 黒ローブの男は、エルヴィアを睨む。

 「ロルド・サルディーンを殺したのは愚かだったな」


 父のことを知っているのか――


 「あの男は、貴族とは思えぬ革新的な思想の持ち主だった」

 ローブの男が語りだす。

 「あれが生きていれば、多くの力なき民が救われる道もあっただろう」


 〝誤った選択〟とは――

 父を殺したことか。

 

 「ロルドは殺された――奴を疎ましく思うのは、他の貴族……あるいは教会だ」

 「……あなた方が、この砦を襲ったのは、辺境伯殺しの報復ですか?」

 「そうだ――今更気づいても遅いがな。もはや、復讐の幕は開いたのだ」


 エルヴィアは溜息をつく。

 そして、黒いローブの男を見据えて言った。


 「あなた方は古の民、ディの一族ですね?」


 ローブの男もまた、エルヴィアを睨めつける。

 「我らは決して、古き時代の敗残者ではない。今日この日まで、祖霊の屈辱を忘れず、復讐を遂げるために選ばれた民なのだ!」


 男は灰色の空を仰ぎ、叫ぶ。

 「我らは〈黒い月(ノル=ミーロ)〉! スーラ=マナの意思を継ぐ、誇り高き神民である!」


 カルスが一歩、前に出る。

 「つまりは、教会や貴族を打倒し、この地を取り戻そうとしているわけか」

 「それこそが、我らの悲願だ――」


 彼ら――黒い月(ノル=ミーロ)には、その道しかなかったのか。


 「我らの行く手を阻むか? ならば、貴様らも葬らねばならん」


 エルヴィアは、カルスの顔を見る。

 カルスは、首を横に振った。


 「私達は――あなた方に投げかける言葉を持たない」

 エルヴィアは静かに、しかし力強く言い放つ。

 「ここは、刃を収めましょう。無為に傷つけ合うつもりはありません」


 カルスがムースカリトゥに耳打ちする。

 振鈴が町に響き渡ると、死霊(ドラウグ)の群れは、次々に石畳の上に倒れ伏す。


 「戦う意思がないならば、この地には近づかぬことだ――」

 

 黒い月(ノル=ミーロ)の者達は、倒れた死霊(ドラウグ)を避けながら、雨の向こうに消えていった。


 いつの間にか、外套は水浸しになっていた。


 エルヴィアは、石壁に描かれた印を眺める。

 あれは、黒い月の暗示か――


 遠雷が響く。

 それはまるで、開戦を知らせる軍鼓のように轟いた。

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