6 急襲の爪痕
闇ギルドとハイエルフの一団は、魔物に襲撃された砦の町へ向かう
闇のギルドの拠点にはネラ、ママナ、ミノークが残ることになった。
特に、ママナは何人ものオリド・ガードを屠ってしまった過去がある。
砦の町で、無駄ないざこざが起こることを懸念した結果だった。
砦に行くのは、エルヴィア、ドグ、ムースカリトゥ、そしてカルスだ。
そこにエルフ達を加え、総勢八名での行動となる。
エルヴィアにとって、この規模の集団で事を成すのは初めての経験だったので、少しだけ緊張していた。
ディの民に教わった転送石を通って砦の町へ向かう。
転送石の先は、町近くの森の中だった。
「こんなに早く着けるとはなぁ。今までの苦労は、なんだったのかねぇ……」
ドグがしみじみと言う。
「ドグ、町の近くに着いたら偵察を頼む」
カルスが頼むと、
「ええっ、俺様ひとりでかよぉ?」
と、ドグは不満げな声を上げた。
「大勢でうろついて目立ちたくないんだ。町の様子を見て、すぐに帰ってきてくれればいい」
「しゃあねえなぁ。その代わり、魔物と戦いになっても、俺様ぁ逃げるからな」
ドグの〝心構え〟は相変わらずだ。
やがて、森の外れまで着くと、まずはドグが町へ通じる抜け道に向かった。
ドグを待つ間、空は次第に厚い黒雲に覆われ始める。
今にも雨が降り出しそうな雰囲気だ。
微かに遠雷が聞こえ始めた頃、ドグが戻ってきた。
「ふう……いやぁ、ひでぇ有り様だったぜ。砦はほぼ陥落だな、ありゃあ」
まさか――オリド・ガードは壊滅したのか?
「衛兵の死体がそこら中に転がってたぜ。町もだいぶ荒らされてやがる。隠れ家はなんとか無事だったが――」
ドグは水筒の水を一口飲んで、報告を続ける。
「肝心の、魔物ってのが見当たらねぇ。どういうことだ? 魔物の襲撃ってなぁ、本当なのか?」
カルスが眉をひそめる。
「ダークエルフの姿はあったか?」
「いや、ざっと見た限りでは、それらしい奴はいなかったぜ」
一体、どういうことだ。
砦の占拠が目的ではないのか?
「今は、交戦状態ではないんだな?」
「ああ。まるで戦の後って感じだな」
「そうか――」
カルスは立ち上がり、皆に向き直った。
「町へ入って、情報を集めよう。マン・キンフ達も行くか?」
「無論だ。そのために、ここまで来たのだから」
「分かった、では行こう。警戒は怠るなよ――」
一団は、生ぬるい風の中、砦を目指して進む。
闇ギルドの隠れ家を経由して、町へと出ると――
(なんて、酷い……)
町は、壊れていた。
家や店は崩壊し、そこら中に人が倒れている。
衛兵も、丸腰の町の民も――
どこかから、泣き叫ぶ声が聞こえる。
それも、やがて降り出した雨の音にかき消された。
「まだ生存者はいるようだな」
雨を受けながら、カルスが声を上げる。
「カルス、彼らを助けられない?」
エルヴィアが言うが、カルスは首を横に振った。
「俺達は調査に来たんだ。まずは情報を集めるのが先だ――」
少し気落ちしたが、カルスの言うとおりだと思った。
自分達には救助の準備もないのだ。
民を救うのは、それこそ〝貴族〟の務めだ――
「ん」
後ろから、袖を引っ張られた。
振り返ると、ムースカリトゥが、砦の壁を指差している。
「あ……あれは、なにかしら?」
石壁に近づいてよく見ると、黒い印のようなものが描かれている。
以前は、こんなものはなかったはずだ。
エルヴィアは、他の皆に声をかけた。
「見て、この印――誰か、これに見覚えはある?」
白い円を黒い円が覆い隠すような意匠だ。
単純な印なのに、不思議と不気味に見える。
「キンフ、これに心当たりは?」
カルスが尋ねるが、キンフは首を傾げる。
「いや……見たことはないな」
その場の誰も、印には見覚えがないようだった。
「なにかの暗号か……あるいは、声明か?」
カルスが呟くと、ドグがポンと手を打つ。
「アレじゃねぇか? こいつで魔物を呼び寄せたとか」
様々な意見が飛び交ったが、結局、印の意味は分からなかった。
だが、なんらかの意味はあるだろう。
エルヴィアは、この印の形をしっかりと記憶に焼き付けた。
その後も町を見回ったが、襲撃の首謀者に繋がる情報はなかなか得られない。
一度、切り上げようかという空気の中――
小雨の向こうから、よろめきながら近づく者があった。
それは、オリド・ガードの生き残りだった。
「き、貴様ら……」
傷ついた衛兵は、エルヴィア達を睨みつけた。
その手には、槍が握られている。
「魔物を使って、町を襲わせたのは、貴様らか……?」
周囲に緊張が走る。
どうする――?
「それは俺達の仕業じゃない」
カルスが答える。
「ハッ、信じられんな」
衛兵がこちらに槍の穂先を向ける。
「なら、貴様らは何者だ? 言ってみろ!」
カルスは答えない。
「答えられんか。愚か者め――言い訳くらい用意しておけッ!」
衛兵は雄叫びを上げ、最後の力を振り絞るかのように、槍を腰の高さに構えて踏み込んだ。
対峙するカルスに、槍が迫る。
しかし、次の瞬間――
物凄い轟音と共に、視界が奪われた。
強すぎる光――
耳と目が、まるで働かない。
エルヴィアは、仰向けに倒れていた。
なにが起きたのか、しばらく理解できなかった。
身体の震えに逆らいながら、ようやく起き上がると――
石畳の上に、人の形の〝塊〟が転がっていた。
手には槍を握り込んでいる。
それは、衛兵の無惨な骸だった。




