5 不意の報せ
エルヴィア達は細工人の村に一泊し、マユザ達に別れを告げる
闇ギルドの一行は、細工人の村で夜を明かした。
拠点へと帰るエルヴィア達を、マユザやオカル、村長らが見送ってくれた。
必ずまた会いに来ると約束し、村を後にした。
「思ったより、好意的な人達だったわね」
アニスは村人に拒絶されると思っていたようだ。
「一応、情報も得られたし……また地道に探索するしかないわね」
〝スーラ=マナ〟という存在――
情報としては、これが一番大きい。
〈遺物〉を探すための糸口ではあるが、ずいぶんと謎めいた存在だ。
それと、父のことも少しだけ分かった。
同行していたという女の存在が気になるところだが、ルバエドあたりが事情を知っているかもしれない。
「あとは色々な転送石の場所を教えてもらったのも大きいでしょ」
ネラが言う。
ディの民は、大抵は転送石で長距離を移動するそうだ。
それらの場所を簡易な地図を描いて共有してくれたのだ。
探索で役立つのは間違いない。
「私は――彼らと交流できたこと自体が、一番の成果だと思う」
それが、エルヴィアの偽らざる気持ちだった。
今は細い絆も、やがて大樹の根のように太く強く育つことを、エルヴィアは願っている。
「さあ、急ぎましょう。拠点の皆が、土産話を待っているわ」
†
拠点へ戻ったエルヴィア達を待っていたのは、予想外の報せだった。
「大変なことになった」
西側にいたカルスが、報告のために拠点までやって来ていた。
「砦の町が〝魔物の群れ〟に襲撃された。今は、オリド・ガードと交戦中だ」
「魔物ですって?」
アニスが驚きの声を上げる。
「あの辺に、〝群れ〟といえるほどの魔物が?」
違和感がある――
砦の町の周囲はおろか、このモルディレインのただ中でさえ、そこまで多くの魔物に遭遇したことはない。
そもそも、魔物が徒党を組むなど、ありえるのか――?
「詳細は不明だが、町が襲われているのは確かだ。俺も、この目で確認した」
突然のことに、皆が困惑している。
「混乱のどさくさに紛れて、俺もようやく、こちら側へ来れたんだ」
「パリオや、ルバエドは無事ですか?」
エルヴィアが尋ねる。
「今のところはな。なにかあれば、こちらへ来ることになっている」
それにしても、なぜ砦の町が襲われるのか。
単純に、魔物が暴走したのか――
あるいは、国境を陥落させるための陰謀?
仮にそうだとして、それは誰の差し金だ?
「オリド・ガードは、以前、分裂を起こしたこともあって、組織の足並みが乱れている。砦は落ちるかもしれん」
もし、砦が落ちれば――
西側の混乱は必至だ。
「何者かが裏で糸を引いていることもありえるが……まずは、情報を集めなければどうにもならん」
カルスの言い分はもっともだ。
「俺は調査のために国境に戻ろうと思う」
「まさか、ひとりで戻るつもり?」
アニスが鋭い声で言う。
「いや、そこまで無謀じゃないさ。それに、ママナが今、外部に助けを呼びにいってくれている」
助けとは――誰のことだろう。
「エルフ達だ。助力を求めるのは、ママナの提案なんだが――」
やがて、拠点の入口に数人の人影が現れた。
「皆さん、お帰りでしたかぁ」
ママナと、エルフの首領のマン・キンフ、それに三人のエルフの男達だ。
「なぜ、エルフの皆を――?」
エルヴィアが尋ねると、ママナが答える。
「以前、エルフの集落に、魔物や〝森の神〟が侵入したらしいじゃないですかぁ」
「ええ」
「それは、ダークエルフの仕業だったんですよねぇ?」
そうか――
今回の魔物の襲撃も、ダークエルフが関わっていると考えたのか。
「魔物が集団で動くというのはちょっと変だと思ったので。それで、ダークエルフの話を思い出したんですよぉ」
マン・キンフが頷く。
「報告、感謝する。我々も、ダークエルフの関与はあり得ると考えている」
カルスが一歩、前へ出る。
「俺は闇のギルドの代表、カルスだ――」
カルスとキンフが向き合う。
「ギルドの数人で、砦の町へ調査に向かうが、同行してくれるか?」
カルスの問いに、キンフは頷く。
「勿論だ。集落を守ってくれた恩は返さねばならない」
カルスは少し考えてから、口を開く。
「今回の襲撃、どうにも不可解だ。なにかしらの陽動かもしれない。エルフの集落も安全とは言い切れないぞ」
「そうかもしれないが、だからといって知らぬふりはできない」
キンフの意志は固いようだ。
「私が残るわ」
アニスが出し抜けに言う。
「調査は皆に任せる。私はエルフの集落で、番犬役でもさせてもらうわ」
マン・キンフが「いいのか?」と尋ねると、アニスは頷いた。
「――ありがとう」
「ギルドの者は、集まってくれ。砦へ行く者と、拠点に残る者を選抜する」
カルスの指示で、皆の表情が引き締まる。
西の方角をふと仰ぎ見る。
いつの間にか、うっすらと広がる雲が、西の空を濁らせていた。




