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忌み指輪の召喚令嬢 ~ 辺境伯の娘は闇ギルドと手を結ぶ  作者: 佐藤猛山
第6章「薄明の兆し」

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4 過去と伝承

 エルヴィア達は、村長の家に招かれた。

 オカルとマユザも、その席に加わった。


 「まさか、ロルドの子が再びこの村に訪れるとは……これも〝スーラ=マナ〟の導きやもしれぬな」


 〝スーラ=マナ〟とは、なんだろう?


 「スーラ=マナとは、マ(・)ナ(・)を(・)見(・)出(・)す(・)者(・)、という意味だ。マナの力を自在に操る賢者の名で、魔女や魔術師の祖ともいわれておる」

 部屋の奥の椅子に腰掛けた村長が言った。


 「その『スーラ=マナ』も、ディの民のひとり……なのですか?」

 エルヴィアが尋ねる。

 「そうではない。言い伝えの中にその名が出てくるが、ディの民であったとは伝わっておらんでな」


 村長は咳払いをすると、再び低い声で語り始めた。

 「その指輪の話だったな。ロルドの遺品だそうだが――」

 「ええ……父は、今年の春に息を引き取りました」

 「そうか――」


 村長は、窓の外の景色を眺める。

 「もう三十年以上も前の話だが――ロルドは突然、この〈細工人の村〉へやって来たのだ」


 細工人の村――

 つまりは、魔装品を作る者達の村、ということか。


 「ロルドは若い女を連れていた。西の民でも、ディの民でもない。浅黒い肌の、闊達な娘だった」


 それは――エルヴィアの母ではない。


 「ロルドとその女は、まさに今、お前さんがしている指輪を見せて言った。『この指輪を預かってはくれぬか』と――」


 どういうことだろう?

 エルヴィアは、村長に話の続きを促した。


 「聞くところによると、指輪は、その女の故郷から持ち出したものだという」

 「持ち出した……?」

 「なんでも、『災いを呼ぶ指輪』と言うておったな」


 災い――


 それは、エルヴィア自身、腑に落ちる話だ。

 多くの苦難や悲しみは、この指輪から始まったのだから。


 「――この指輪には、悪魔の力が宿っているのです」

 村長は、エルヴィアの目をじっと見つめる。

 「恐ろしい力です。父やその女性は、そのことを知っていて、指輪を預かれと言ったのですか?」


 エルヴィアの問いに、村長は首を横に振る。

 「それは分からん。だが、〝災いの指輪〟などというものを預かることはできんかった。どうにも馬鹿正直な者達だったのう」

 村長は、初めて表情を和らげた。

 皺だらけのその顔は、昔を懐かしんでいるようだった。


 「割り込んで悪いけど――」

 隣に座っているアニスが口を開く。

 「この〈神の遺物〉というのは、そもそも、どういうものなの?」


 アニスは首巻きをずらして、己の首に埋まった宝石を晒す。

 「これ、取ろうにも取れないのよ。エルの指輪もそう。呪いかなにかかしら?」


 それはエルヴィアも気になっていた。

 

 ムースカリトゥが死者の街で手に入れた〈遺物〉も、彼女の身体を蝕むように同化してしまった。

 だが、ネラやママナの〈遺物〉はそうではない。

 その違いは、なんなのだろう?


 「儂らも、詳しいことは知らん。だが、スーラ=マナの業(わざ)であることは、おそらく間違いあるまい」

 「スーラ=マナ、ねぇ……」

 アニスは首元の宝石に触れながら呟く。


 「ねえねえ、そのスーラ=マナってさぁ……」

 ネラが片手を上げる。

 「今もどっかにいるのかな? 直接、話とか訊けないかなぁ」

 

 「あくまで、伝承の中の存在だが――」

 村長が応える。

 「ディの民の中には、魔術を究めるため、スーラ=マナの知識を探し求めて旅をする者もおったのう」


 エルヴィアは、再び村長に尋ねる。

 「その方々とは、今も関わりはあるのですか?」

 「いや……近頃はめっきり便りも減った。ディは各地へ散り、他の民と交わった。その源流を色濃く残すのは、儂らくらいかもしれん」


 ディはもはや、消えゆく民なのか――


 「……なんか、暗くない?」

 

 マユザが突然、不満げな声を上げた。

 「ホント、年寄りは後ろ向きなことばっかり言うんだから!」


 その場の皆が、虚を突かれたように沈黙した。


 「あたし達は、まだ先がある若者なんだからさ。『もう終わりじゃあ』みたいな空気を出さないでほしいよ!」


 マユザの苦言を聞いたネラが、思わず吹き出す。


 「笑い事じゃないよ! こっちには未来があるんだよ。ようやく大人になって、これからって時にさぁ……」


 村長が苦笑する。

 「いや、すまんかった。年を取るとつい、なにごとも悲観してしまうわい」


 マユザという娘は、まるで夏の太陽のようだとエルヴィアは思う。


 「そうだな……これからは、お前たち若者が時代を作ってゆくのだ。ロルドの子を連れてきたのも、そのきっかけやもしれんな」


 少し張り詰めていた空気が、和らいでいた。


 「マユザ、あなたはとても素敵な娘だと思うわ」

 「え、本当に? そう言われると、なんだか照れるなぁ……」

 「本当よ。あなたがいれば、どんなわだかまりも、溶けて消えてしまうような気がする」


 傍らのオカルが「それは褒めすぎじゃないかなあ」と茶々を入れると、マユザはまた頬を膨らます。


 父も、この村で、こんな風に笑ったのかもしれない。

 この笑顔こそ、父が求めたものだったのだろうか。


 エルヴィアの心の奥に、小さな希望のようなものが生まれつつあった。

 それは暖かく穏やかで、力強いなにかを与えてくれる気がした。

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