3 古代人の村へ
収穫祭の翌日、エルヴィアは古の民〈ディ〉の若者達のもとへ赴く
エルヴィアは、ネラとアニスを伴い、再びドルイドの村を訪れた。
「昨夜は本当に、すみませんでした……」
ディの民の少女「マユザ」は顔を合わせるなり、首をすくめる。
「あまり覚えてないんですけど、飲みすぎちゃったみたいで……」
マユザは深刻な表情で詫びたが、エルヴィアは笑って水に流した。
「いいえ、かえってよかったわ。おかげで、打ち解けられた気がするもの」
隣に立つオカルも、神妙な面持ちだ。
「実はこいつ、二日酔いでしばらく起き上がれなくて……そのせいで、ろくに話し合いもできていないんです」
「ごめんなさいっ!」
ひたすら恐縮するマユザ達を、ネラとエルヴィアがなだめた。
互いに自己紹介を済ませ、ようやく話の本題に入る。
「それで、ふたりの村に私達を連れて行ってほしいのだけど――」
エルヴィアが切り出す。
「躊躇するのは解るわ。だから、このネラとアニスを同行させようと思うの」
魔女のネラは、ディの民の血を引く者であろうこと――
そして、アニスという人外の存在をも仲間として受け入れたことを伝え、立場の異なる者との融和を重んじる姿勢を力説した。
「私達は、決してあなた達を傷つけたりはしないと約束するわ」
真っ直ぐな瞳で話を聴いていたオカルは、マユザに尋ねる。
「お前はどう思う?」
マユザもまた、真剣な顔で答える。
「あたしは――連れていってもいいと思う」
そして、短く溜息をつく。
「大体、年寄り達は頭が硬いんだよ。じいさんの、そのまたじいさん達の昔話の受け売りで、アレコレ言ってるだけなんだから」
マユザの言葉に、オカルも「まあなぁ」などと相槌を打つ。
「ただ……連れていくのはいいですが、村の者と話せるかどうかは分かりません。結局、村のことを決めるのは村長ですから」
「それで構わないわ――」
それは、エルヴィアの本心だった。
ディの村までたどり着ければ、いくらでも交渉の余地はある。
「それにね――」
マユザが思い出したかのように付け加える。
「昔、白金の髪の人が、村に来たことがあったらしいよ」
それは、重要な話だ。
聖職者が魔装品を求めてやって来たのだろうか――?
「詳しいことは分かんない。でも、悪いことがあったわけじゃないみたい」
ともかく、マユザ達は村までの案内を約束してくれた。
エルヴィアはふたりの若者に深く感謝した。
†
昼過ぎ――
準備を終えた一行は、ディの村へ向けて出発した。
どのくらいの距離があるのか気になったが、オカルによれば、転送石を通るのですぐに着く、とのことだった。
「転送石は、ディの民が作ったものなの?」
エルヴィアが尋ねる。
「昔は作れる人がいたらしいです。俺達の村にはもう魔女や魔術師はいないし、なにか知っているのは村長くらいだと思います」
古代人の末裔といえど、時代の流れで失われるものもあるのだろう。
今まさにこの時にも、古の知識が消えているのかもしれない――
エルヴィアの胸中に、微かな寂しさが去来した。
幾つかの転送石を経由し、一行はディの村の入口に到着した。
「一度、村長に報告にいってきます。ここで少し待っていてください」
オカルはそう言うと、マユザとふたりで村へ入っていった。
外から村を見渡す。
広さは、サルディアの町より少し小さいくらいだ。
家はほぼ木造だったが、一部、黄色い石造りの建物も見える。
初めて行った東の地の遺跡も、似たような石で造られていた気がする。
しばらく待っていると、遠くにふたりの若者と、他数人の人影が見えた。
オカルとマユザが、村の年寄りを連れてきたようだ。
彼らはエルヴィア達の前まで来ると、歩みを止めた。
「……妙な取り合わせの客人だな」
左端に立つ仏頂面の年寄りが口を開く。
「真ん中のは、聖職者ではなさそうだね」
今度は右端の老婆がエルヴィアを睨めつけて言う。
「ちょっと! 失礼だよ、じいさん達!」
マユザが年寄りを窘める。
「まずは挨拶でしょ! 自分達は口煩くいうクセに」
ふたりの年寄りは、不満げに咳をする。
エルヴィアは膝をつく。
「私はエルといいます。このふたりはネラとアニス。まずは、お会いいただけたことに感謝を申し上げます」
左の老爺が「ふん」と鼻を鳴らす。
「ここへ来たのは〈神の遺物〉について、皆さんのお知恵を拝借するためです」
エルヴィアは顔を上げ、年寄り達を見る。
彼らの中心に立つ人物――
おそらく、彼が村の長だろう。
杖をつき、痩せ細ってはいるが、その目は静かな威厳を湛えている。
「……〈神の遺物〉とは、〝神の象徴〟のことだな」
村長らしき男が、低い声で言った。
「それの、なにが知りたい?」
「これを見てください――」
エルヴィアは、外套から手を出して、骨の指輪を見せる。
「これは、私の父の遺品です……この指輪ついて、ご存知ですか?」
村長の目が、わずかに見開かれる。
そして、空を仰いだ。
「お前さん、〝ロルド〟の娘か――」




